445 お見合い旅行の最終日
農奴に施しをしたフィリップは、馬車に乗り込み次の領地に出発。その車内では、オーセとカイサが何をしたかったのかと質問の嵐だ。
「何をって……痩せてたからごはん奢ってあげただけだよ。見てたでしょ?」
「そうだけど~。すっごく悪い顔してたじゃない?」
「アレは、何か別のことを考えてる顔だね。プーちゃん。何を企んでるの?」
「えぇ~。ごはん代、いくらになるか計算してただけだよ~」
「「ホントは??」」
「ゴメン。覚えてない……」
「「……ありそう」」
2人の追及は、記憶にございませんで乗り切ったフィリップ。本当は、農奴に旨い物を腹いっぱい食わしたら、一揆でも起こるんじゃないかと想像して面白くなってたんだって。
「それにしても、聖女様の名前なんて勝手に使ってよかったの?」
「いいんじゃない? 知り合いって言っただけだし。そんな人、五万といるでしょ」
「うわっ。詐欺師みたい……」
「いいことしたんだから、名乗るぐらいしてもいいのに……」
「なんで僕がそんなことしなくちゃいけないんだよ~」
「ちょっとはいい人に見えるからよ」
「あんなにお金を出しておいて、変な人」
金貨10枚なんて、平民からしたらとんでもない額。それなのにフィリップは表に出ようとしないので、カイサたちは本当に何がやりたかったのかまったくわからないのであった。
馬車がひた走ると、今日もチビッコ組は乗り物酔い。そのおかげでカイサたちの追及は止まったけど、フィリップも苦しいので喜ぶに喜べない。
その日の夕方には次のお見合い相手の町に入ったが、ビュッセル伯爵の歓迎会は気分が悪いのでキャンセルだ。
そして翌日には、ビュッセル伯爵の屋敷でお見合い相手と面会。談話室ではフィリップの審査が開始した。
「う~ん……違うな」
「な、何がですか??」
ビュッセル伯爵の長女、グンヒルドが恐る恐る質問すると、フィリップは姿絵とカードを取り出した。
「これ見て。これ、君なの?」
「わ、私で間違いありませんが……」
「大きいほう、ほっそりしてるじゃない?」
「す、少し太りまして……」
「小さいほう、胸が倍ぐらいあるじゃない?」
「す、少し痩せまして……」
「どっちなんだよ!? 伯爵! 僕のこと騙したのか~~~!!」
「ももも、申し訳ありませ~~~ん!!」
姿絵は少し盛ったぐらいだったが、フィリップはネチネチ責めてブチギレ。どちらかというと、グンヒルドの言い方が悪かったね。
それで今回も、謝罪の接待を要求。騎士たち全員で娼館通いだ。
「「お見合いは?」」
「したじゃん」
「「した内に入らないから!?」」
2回連続娼館巡りでは、ついにカイサとオーセもブチギレるのであったとさ。
この町でも3日間、娼館尽くし。ただし、カイサたちに怒られた手前、お昼の2時間だけはフィリップも観光に付き合っていた。
いちおうビュッセル伯爵の調査もしたけど、小悪党だったからやる気も起きなかったんだって。そんな無駄な時間を使うより、娼館のほうが楽しいもん。
騎士たちは、フィリップに脅されているから嫌々娼館通い。その割には満面の笑みだから、楽しくて楽しくて仕方がないのだろう。ボエルも楽しいのか、親友と毎日語りまくってるよ。
3日目の夜は、またしてもフィリップに全員呼び出されたからドッキドキだ。
「さて、諸君……君たちを集めたのは他でもない……」
さらに真剣な顔で語り出したので「またハメられた?」と心臓がバクバク鳴り出した。
「今日はみんなで娼婦の採点するよ~? 誰が一番よかった~??」
「「「「「ズコーッ!!」」」」」
でも、超下世話な話だったので、全員ずっこけた。フィリップはしてやったりで大笑い。カイサとオーセは、スーンッと冷ややかな目だ。
「ほら? 座って座って。語らって。僕も適当に会話に入れてもらうからね~?」
採点が始まってしまえば、大賑わい。カイサたちの配った酒を飲みながら誰が一番かと大揉め。酒が回ればケンカも勃発している。
フィリップはとりあえず、ボエルと自分の護衛騎士が揃っている席に入ってゲヘゲヘ言ってるよ。
「一番となると、やっぱりあの子かな~?」
「そうか~? あんまり上手くなかったぞ」
「その初々しさがいいんじゃないか!」
「はいはい。ボエルは手を出さない」
いや、クマが人間を襲いそうだから、見張ってるだけだ。
「殿下は誰がよかった?」
「うう~ん……どれも似たり寄ったりだったからな~……帝都のほうが断然、数も質もいいよ。ここのナンバー1が、20位に入れるかどうかって感じ」
「マジか……やっぱり帝都は違うんだな……ん?」
「「「「「……ん??」」」」」
フィリップが批評したら、ボエルたちは気付いちゃった。
「帝都で娼館に行ってたのか?」
そう。初耳の話をだ。
「あ……これも他言無用だよ~? お兄様に言ったら、道連れにしてやる。僕、城の抜け道から勝手に外に出てるから、これは大問題になるからね」
「「「「「うっ……言えねぇ~~~!!」」」」」
まさかの1人外出が発覚。そんな失態を皇帝が知ったらどうなるかわからないので、口を閉ざすしかないボエルたち。
「そんなにしょげない。僕のお勧めの子、今度奢ってあげるから。給料とは別で、月1回でどう?」
「「「「「ありがとうございます!」」」」」
「……ボエルも行くの??」
「俺も仲間に入れてくれよ~~~」
月一のボーナスがあると聞いて、護衛騎士は笑顔復活。ボエルは泣き付いて来たから仕方なくお小遣いは渡すけど、彼女にバレたら面白いのにと思うフィリップであった。
「あ、そうだ。農奴の件って、アレからどうなったの??」
「「「「「おっそ……」」」」」
農奴の件は、3日前の話。その日の夜には、馬を飛ばしたケントはこの町に辿り着き、もう遅いから次の日の朝に報告したけどフィリップに「あとで聞くよ」と止められた。
それを2日も待たされたのだから、護衛騎士もビックリだ。
ちなみにゼーバルト伯爵が農奴をどうしたかというと、第二皇子の命令でお金をいただいたから、全て農奴の食費に当てたんだとか。
期日は10日とは聞いていたが、農奴が痩せたままではフィリップに何を言われるかわかったもんじゃないから、全ての農家に農奴の食事を改善するようにとお達しをした。
このことから、善良な貴族としてフレドリクに褒められることになるのだが、自発的にやったワケではない。
渋々やったので「これ、いつまでやらなくちゃいけないんだろ?」と思いながら、農奴の食費をポケットマネーから出し続けるしかないゼーバルト伯爵であった。




