444 農奴と初接触
馬車の中から農奴を見掛けたフィリップは、興味が湧いたから接触を試みる。ただ、御者は色好い返事はしない。皇子が会うような者ではないらしい。
しかしフィリップは馬鹿皇子。ちょうど5、6人が固まっていたから、そこに突っ込めと命令した。
「轢き殺すのですか?」
「「あわわわわ」」
「僕がそんな暴君に見える?」
御者が物騒なことを言うものだから、カイサとオーセは信じて震える。なので、「あの人たちの近くで馬車を止めて。てか、ここまで言わないとわからないのか!」と、激怒するフィリップであった。
御者たちは最初に怒って言うから勘違いしたのだと、心の中で言い訳しています。
フィリップを乗せた馬車が急に曲がり始めたので、馬に跨がる騎士たちは慌てて進路を変える。
そんな集団が近付いて来るのだから、農奴たちはどうしていいのかわからずに、フリーズ。馬車が目の前に止まると、とりあえず固まって土下座してやり過ごそうとしていた。
「やあやあ。楽に楽に」
フィリップも馬車から降りて軽く挨拶したけど反応はナシ。顔も上げてくれない。
「無視? 僕が話し掛けてるのに? 立てよ」
「「「「「ははは、はいっ!!」」」」」
脅してようやく農奴たちは立ち上がったが、その身形にフィリップは顔を歪めた。
「クッセ~! アハハハハハ。君たち、風下に行ってくれまいか? そっちそっち。うん。そっち」
もしかしたら、体臭のせいかも? フィリップに笑われて、さすがの農奴もちょっとイラッとしてる。
「ちょっと聞きたいんだけど、君たちって農奴ってヤツ?」
「はあ……」
「やっぱりそうなんだ~。初めて見た~」
フィリップがジロジロと見るから、農奴たちは何かされるのではないかと怖くなって来た。
「普段、どんな物食べてるの?」
「ス、スープみたいな物で、す」
「それは3食……朝、昼、夜ってこと?」
「えっと……朝と夜? だよな? たまに朝だけです」
農奴は食べる時間はマチマチだから、仲間に確認を取ってからフィリップに視線を戻した。
「そんなんでお腹すかないの?」
「食べさせてもらえるだけマシ……ありがたい、ことです」
「な~るほどね~……」
フィリップが悪い顔をして、農奴だけじゃなくカイサたち全員が「何するつもり!?」と震えたその時、馬が駆ける音が近付いて来た。
なのでフィリップはその顔のまま、馬に乗る人を待つ。全員、何が起こるのだと震えていたら、そろそろ馬が到着しそうになった。
「お前たち~! 俺様の奴隷に何してんだ~~~!! ヒッ!?」
するとガタイのいい男が怒鳴り散らしたが、フィリップの護衛騎士が抜刀して構えたから急停止。馬から転がり落ちて、土下座の体勢のままジリジリと近付いて来た。
「プププ……虫みたい……」
「はっ! 虫とお呼びください!!」
見た目が貴族の御一行なのだから、殺されても文句が言えない。男は助かりたいがために、虫になってしまった。
「んで……虫君は何者なの?」
「はっ。ゼーバルト伯爵様からこの農園を任されている者の1人です」
「ふ~ん……農奴は何人ぐらい雇ってるの?」
「雇っているというか飼っているというか……」
「数を聞いてる」
「ははっ! 100前後です。正確な数はちょっと把握できていません……」
「なるほどね~……」
フィリップがまた悪い顔で笑うから、虫君は殺されると命乞いしちゃったよ。
「とりあえず金貨10枚もあったら、全員に10日間、毎日3食、そこそこの物は食べさせてやれるかな?」
「たぶん、多すぎるぐらいですけど……」
「余ったらお前たちのボーナスにしたらいいよ。そのかわり、僕の言ったことをやらなかったら、お前たち全員殺すから。わかった?」
フィリップがしゃがみこんでまで脅したが、虫君は唸っている。
「あの、私にはその権限がなくて……伯爵様に聞かないことには……」
「農奴はアイツの所有物ってことか~……ま、ライアンからの命令だと言えば、快く許可してくれるよ」
「伯爵様をアイツ呼ばわり……しかも命令できるなんて……」
「そそ。僕、超偉いんだよね~……よかったね。虫になってなかったら、今ごろ首が転がっていたところだよ」
「はは~~~!!」
虫君、何者かもわからないけど、助かったと心底ホッとした土下座。フィリップはパラパラと金貨10枚を落として虫君に拾わせた。
「んじゃ、ごはんの件、頼んだよ?」
「はいっ!」
「でも心配だから、僕の家臣を残して行きま~す。えっと……つ、つ、つ……」
「土魔法が使えるのは私です!!」
「そうそう。土の人……ケントだっけ?」
「そうです! ケントです! 覚えてくれてました~~~」
「なんのこと??」
ケントは名前を呼ばれただけで感激。1年以上も名前を呼ばれていなかったらそうなるか。
「伯爵に事情を説明したら、次の町に追いかけて来てくれたらいいからね。伯爵にはもしも僕を裏切ったら、一族郎党皆殺しと伝えて。あ、農奴を管理してるヤツらも全員皆殺しにするから。僕は本気だからと念を押しといてね~」
「えぇ~……」
でも、フィリップの口から物騒な言葉が出まくるから、ケントはもう喜びは吹っ飛んだよ。
「はいっ! 行動する!!」
「「はっ!!」」
しかし動かないことにはいけない。ケントと虫君は、馬に跨がり町に向かって飛んで行くのであった。
「さてと……しばらくお腹いっぱい食べられるから、その間に力を付けてね」
フィリップが農奴たちに声を掛けて立ち去ろうとすると、農奴の1人が大声を出す。
「あの! あなた様はいったい!?」
「僕? 僕は~……聖女様の知り合いだよ。そんじゃあね~」
「「「「「聖女様!?」」」」」
「「「「「ありがとうございました~~~!!」」」」」
その問いに適当に返したフィリップは、農奴の感謝の言葉を背中で聞きながら馬車に乗り込むのであった。




