443 次に移動
「「「「「また来てくださいね~?」」」」」
娼館での乱痴気騒ぎは、夕方にはお開き。騎士たちだけでなく、娼婦も嬉しそうにフィリップに手を振っている。
「プーくん。あの人たちに何したの?」
「娼婦の人って、あんなに笑顔になるものなの?」
それを不思議に思うオーセとカイサ。
「そりゃお金しだいでしょ。たぶん僕、この娼館の1ヶ月分以上の稼ぎは渡したもん」
「「お金って凄いね……」」
「そうだよ。2人もいっぱい買ってもらってよかったね~?」
「これは断れなくて……」
「あの当主様、すぐ泣くんです……」
でも、すぐに解決。ただし、ゼーバルト伯爵のお金の使い方には同情する2人。いちおうフィリップも大丈夫だったかと事情聴取してみたら、「かわいそうだからこれ以上のことはやめてあげて」との感想。
ならばフィリップも手を出す必要はない。フィリップとしてはまだ酷いことをした覚えはないけど、感想を聞きながら宿屋に帰った。
その宿屋にある一番広い部屋に騎士たちを全員集めたら、フィリップがあとからスキップで登場した。
「えぇ~。今日、楽しかった人、挙手~」
「「「「「はいっ!!」」」」」
こちらの感想も聞きたかったみたい。騎士たちは笑顔で挙手だ。
「んじゃ、伯爵からの賄賂を受け取ったね」
「「「「「……わ、賄賂??」」」」」
「あんなの賄賂に決まってるじゃん。僕と同罪だ」
娼館のお金はフィリップが勝手にバラ撒いていたお金もあるが、ゼーバルト伯爵が出したお金があるのは事実。
騎士たちもフィリップが接待させているのを見ていたのだから、賄賂という言葉に血の気が引いたよ。
「てことで、僕たちが娼館に行ったの、お兄様には秘密にしてね~? 賄賂貰ったこともバレちゃうから」
「「「「「はい……」」」」」
「き、汚ぇ……」
「なに~? ボエルも2人に相手してもらってたじゃん。彼女にチクッちゃおっかな~??」
「何も言ってません!!」
こうしてフィリップに絡んだ騎士20名。フィリップに大きな弱味を握られてしまい、服従するしかできなくなるのであった。
「これって私たちも……」
「だね……当主様と一番長くいたの、私たちなんだけど……」
オーセとカイサも気付かない内に犯罪者の仲間に入れられていたので、ゼーバルト伯爵に奢ってもらったことを大後悔するのであったとさ。
その日の夜は、宿屋はお通夜状態。みんなフレドリクにバレたことを想像して食も進まなかった。
翌日からも、娼館巡り。カイサとオーセはゼーバルト伯爵は怖いので、2人でその辺ブラブラするんだって。でも、ゼーバルト伯爵から借りた護衛が囲んでいるのは秘密だ。
「みんなどうしたの?」
「「「「「いや、その……」」」」」
もちろん騎士も接待なんて受けたくない。フィリップがついて来いと言っても店の中に入れないみたいだ。
「今日は100パー僕の奢りなのに……いらないならいいや。見張っておいてね~」
「ライアン様の奢りと言うのなら……」
「私も……」
「私もいいですか?」
「こいこい。順番ね~」
「「「「「はっ!」」」」」
しかし、男の性に勝てない騎士たち。昨日の天国が忘れられないと数人続いてからは、雪崩の如くだ。
「ライアン様……ちなみにこのお金ってどこから出てるのですか?」
「裏金だけど……」
「やっぱり~~~!!」
「ボエルはわかってて入って来たでしょ??」
「はい……」
最後に入って来たボエルは、汚いお金とわかっていてもやめられないのであったとさ。
ゼーバルト伯爵が暮らしている町でお世話になって4日目の朝……
「短い間だったけどありがとね。楽しかったよ」
「はっ! ライアン様が気に入ってくれて、感無量です!!」
3日間、娼館漬けだったフィリップは、ゼーバルト伯爵に別れを告げていた。
「ちなみにですけど、皇帝陛下にはどのように報告するのでしょうか……」
「お互い相性が合わなかったでいいんじゃない? あ、体の相性も合わなかったって言ってもいい??」
「そ、その程度でしたら……でも、体の相性は言わなくても……」
「ダメならいいよ。僕のせいにしとこうかと思ったけど」
「いえ! お願いします!!」
不手際があったのは間違いなくゼーバルト伯爵。それなのになかったことにしてくれるのだから、フィリップの乗った馬車を涙ながらにいつまでも見送るゼーバルト伯爵であった。
高級宿屋を立った馬車はひた走り、最初は元気だったカイサたちに「あんなのでいいの?」と騙されたことを許していいのかと問い詰められていたが、酔って来たらこの話はおしまい。
チビッコ組は全員進行方向を見て、乗り物酔いに耐えていた。
「あれ?」
すると、窓から畑を見ていたフィリップは不意に首を傾げた。
「何かあったの?」
「うん……カカシが急に動いたように見えたんだけど……気のせいかな?」
「カカシって、畑を鳥から守るお人形のこと?」
「そそ。あ、またあった」
フィリップが指差すと、オーセとカイサもそちらのほうを見た。
「プーくん、アレ、カカシじゃないよ?」
「そうなの? カリッカリだよ??」
「ボロボロの服を着てるからそう見えるだけよ」
「え? アレ、人間なの??」
「「当たり前でしょ」」
フィリップ、カルチャーショック。こんなに汚い人間を見たのは、カールスタード王国のスラム街以来。いや、それよりも酷い状態だから、カカシに見えていたのだ。
「なんであんなにカリッカリなの?」
「私も初めて見たから自信はないけど、たぶん農奴って人じゃない?」
「あたしも初めて見た。酷い暮らしらしいね」
「農奴……そりゃ時代背景的にいるよね……」
「「時代背景??」」
「な、なんでもない」
ちょっと失言したフィリップは適当にごまかし、農奴に接触しようと御者に指示を出すのであった……




