441 初めてのお見合い
たまには旅行でもしようなんて言ったせいで、あら大変。フィリップたちチビッコ組は、馬車酔いでグロッキー状態。何度も馬車を止めてゲーゲー言ってる。
今回は身分を偽っているから、フィリップが外で粗相しても大丈夫。ただし、フィリップを守る騎士たちは「情けない」って顔で囲んでます。
「ボエル……あの顔、なに?」
この隊の責任者は、なんとボエル。近衛騎士の中でも頭がひとつ飛び出ている戦闘力が有り、フィリップと旧知の仲だからフレドリクが選んだのだ。
「そりゃ~……こんなに吐くヤツも珍しいからじゃね?」
「え? 貴族や騎士って馬車に乗っても吐かないの?」
「貴族令嬢は吐く人もいる。騎士は新人の頃に、もっと揺れの酷い馬車で移動したりするから慣れてんだって」
「ボエルは新人時代なんてないじゃん? そうだ! 一緒に乗らな~い??」
「乗ってもいいけど、吐かないぞ? 皇后様と一緒に乗った時も何もなかったし。殿下が面白いと思うことは起きないぞ?」
「このクマが……」
ボエルの弱いところを見てからかいたかったのに、三半規管がクマだったので失敗。クマを滅亡させてやる的な目をしていたけど、馬車に乗ったらそんなことに構ってられなくなるフィリップであった。
フィリップたちを乗せた馬車は休み休みであったが順調に進み、予定より2時間以上も遅れてお見合い相手が住む町に到着。
そのまま町の中をひた走り、豪華な宿の前で馬車は停車した。
「これはこれは第二皇子殿下。お待ちしておりま……」
「見てわからないの? お忍びだ」
「ははっ! 申し訳ありませ~~~ん」
フィリップが降りるなりゴマを擦って来たおでこの広いオッサンは、この辺りの土地を管理してるゼーバルト伯爵家の当主。手紙でも外ではフィリップのことをライアンと呼ぶようになっていたのに、第二皇子と呼んだから叱責だ。
「もう今日は疲れた。帰っていいよ」
「へ? 歓迎の宴も用意していたのですが……」
「キャンセルで。また明日ね~」
「まっ……」
フィリップはそれだけ告げたら手を振って宿屋に入って行くので、ゼーバルト伯爵も見送るしかできないのであった。
「「あの対応はないんじゃないかな~?」」
宿屋のVIPルームに入ったら、カイサとオーセはフィリップの服を脱がしながら注意。さすがにゼーバルト伯爵がかわいそうに見えたらしい。
「じゃあさ。いまから超豪華な料理、食べれる?」
「うっ……今日はもう……」
「私も無理。食欲ない……」
2人は乗り物酔いのせいで、食べ物も見たくないだろうとフィリップは気を遣ったのだ。いや、自分が食べたくないし面倒だったんだね。
「でしょ? なんか軽いスープでも頼んで、早く寝よ」
「「初めての旅行の一食目がスープか~」」
フィリップの気遣いは伝わったが、豪華旅行を想像していたカイサとオーセは、少しもったいない気分のまま夜が更けて行くのであった。
翌朝は、チビッコ組も元気復活。ルームサービスで豪華な食事を部屋に運ばせて、3人で和気あいあいと食べていた。
「これこそ皇子の旅よね~?」
「ね~? お昼はなに食べられるんだろ~?」
「たぶん抜きじゃない??」
「「えっ!?」」
「いや、2人は従者。そんなこの世の終わりみたいな顔をされても困るんだけど……」
「「そうだった~~~!!」」
でも、フィリップが現実を教えてあげたら奈落の底に転落。だからこそ朝から豪華な食事を用意させたのだからとフィリップが宥めたら、2人は詰め込みまくりだ。
そうしていたら、今日もカイサとオーセは気分が悪そう。しかし出発時間も迫っているのでフィリップの着替えを手伝い、自分の服はスカートのウエストを緩くしてた。
準備が整ってまったりしていたら、ボエルが呼びに来たので出発進行。馬車ではカイサとオーセがまた戻しそうになっていたけど、もったいないからって気合いで飲み込む。
ゼーバルト伯爵の屋敷まではそこまで離れていなかったからなんとか吐かずに乗り切り、フィリップが降りると大々的な出迎えだ。
「お待ちしておりました」
「うん。ご苦労。んで、ヒルデガルド嬢はどの子?」
「庭にて待機させております。本日の主役の1人なのですから、出迎えに来なかったことはご容赦ください」
「それぐらいはいいよ。早く会わせて」
「ははっ!」
お見合いなのだから、フィリップもそんなもんだと思って特に気にせず。ゼーバルト伯爵もホッと胸を撫で下ろして、フィリップの前を背中を丸めて歩く。
そうしてフィリップが「こいつの話、おもんな」って無言で歩いていたらゼーバルト伯爵自慢の庭園に到着。フィリップは「たいしたことないね」と口から出てしまったから、ゼーバルト伯爵は苦笑いだ。
「あちら! あちらにもう1人の主役がおります~」
なので、本日の主役を大々的に紹介。何やら順序があるらしく、まだヒルデガルドは後ろを向いたまま。フィリップたちが近付いて、ゼーバルト伯爵が咳払いしたら、ヒルデガルドはゆっくり振り向き小首を傾げて微笑み掛ける。
「お初にお目に掛かります。ゼーバルト伯爵家が三女、ヒルデガルドですわ」
そして綺麗なカーテシー。スカートを摘まんで軽く頭を下げ、フィリップの返事を待つ。しかし一向に声が掛からないので、ゆっくりと顔を上げた。
「あの……」
「誰だ?」
「え?」
「お前は誰だと聞いている」
「ヒルデガルドですけど……」
するとフィリップの質問が来たが、ヒルデガルドは何を言ってるかわからない。
「はあ~? この姿絵もこっちの姿絵も全然似てないよ! 見てみろよ!!」
どうやらお見合い写真詐欺があったみたい。だからフィリップは声も出なかったのだ。
「はあ……よく描けてるかと……」
「どこが!?」
ヒルデガルドの顔は長くて胸は貧相。まったくフィリップの好みじゃない。こんな姿なら、フィリップは絶対に会いに来なかったはずだ。
「てか、いくつ?」
「イヤですわ。女性に年齢を聞くなんて。オホホホホ~」
「死ぬ? 一家全員死罪にしてもいいんだよ??」
「35です!!」
さらには年齢詐称。フィリップも皇家の力、フル活用だ。
「当主ぅぅ? ちょ~っと話をしようかぁぁ~~??」
「はひっ! 申し訳ありませ~~~ん!!」
こうして怒れるフィリップは、ジャンピング土下座したゼーバルト伯爵の尻を蹴りながら屋敷の中に押し込んで消えるであった……
「ブッ……」
「「「「「ぶはっ! アハハハハハ」」」」」
フィリップたちの姿が完全に隠れたあと、誰かが吹き出してからは笑い転げる一同であったとさ。




