440 お見合い相手選び
書斎から出たフィリップは不機嫌な顔でリビングに入り、カイサたちに帰る旨だけを伝えたらさっさと出口に向かう。
カイサたちは泊まると聞いていたから、何がなんだかわからない。しかしフィリップは先々歩いて行ってしまったから追うしかなかった。
「急にどうしたの?」
「陛下に怒られたとか?」
馬車に乗り込んだところでカイサとオーセの質問が来ると、フィリップはようやく表情を崩した。
「お兄様、いきなり結婚しろとか言うんだよ~? そんなの僕の自由でしょ」
「う、うん。普通じゃない?」
「偉い人ってそういう自由がないって聞いたことある!」
「僕はもっと多くの女の子と遊びたいの~~~」
「殿下が普通じゃなかった……」
「そりゃ怒られるよ……」
フィリップが適当な言い訳をしてみたら、2人は冷たい目。本当の話をしたら味方に付いてはくれただろうが、2人がフレドリクの前でエステルの名前を口にする可能性がゼロではないから、フィリップは万が一の危険を避けたのだ。
「まぁお見合いをして、食ってからお断りすれば、お兄様の面目も保たれて僕も楽しく貴族と遊べるか……」
「プーちゃん。最低なこと言ってるよ?」
「陛下の面目、めちゃくちゃ潰れるよ?」
その優しさは、フィリップが最低なことばかり呟くからカイサとオーセに一切伝わらないのであった。
翌日のフィリップは、フレドリクと喧嘩したままでは頑なに結婚を勧められそうだと考えて先手を打つ。
手紙で詫びを入れ、会って頭を下げ、お見合い写真も見るからと届けてもらい「検討してみるよ」と言って笑顔を見せる。フレドリクも言い過ぎたと謝り、いつもの雰囲気に戻ればフィリップはニヤリと笑った。
根城に帰ったフィリップは、お見合い写真が届けられたらリビングの床に全てを広げてニヤニヤ見てる。
「わ~。綺麗な人ばっかり。やっぱり貴族様は私たちと住む世界が違うわね」
「ホントに。何を食べたらこんなに変わるんだろうね」
カイサとオーセも興味津々。フィリップの結婚相手というより、素晴らしい絵画を見るようにうっとりとしている。
「まぁ絵は絵だし。実物はどんなのが来るかわかんないよ?」
「あ、そっか。美人に描かせてる場合もあるんだ」
「本当は丸々肥えてたりするのかな~?」
「かもね~?」
「で……プーちゃんは何してるの?」
フィリップは喋りながらトランプ大のカードをペラペラ捲っているので、カイサは気になる。
「これ? 前に貴族から貰った姿絵の中に、同じ人がいないか探してるの」
「探してどうするの?」
「見比べて~……」
「プーくん、どうせそこの娼館のこと考えてるでしょ?」
「正解! たまには旅行なんてどう? 2人も探すの手伝って~」
「「結婚する気、ねぇな」」
フィリップの頭にはエロしかなかったので、ついつい口が悪くなっちゃうカイサたちであったとさ。
お見合い写真とカードの照合は難航。お見合い写真10個に対してカードが200枚以上あるから時間が掛かる。
なんとか終わったら、同じ名前はふたつだけ。3人で姿絵をマジマジと見比べている。
「なんか違うね」
「別人じゃない?」
「名前は一緒よ」
「妹とか? カードのほう、胸が倍以上あるし」
カイサとオーセが様々な可能性を考えていると、フィリップが答えを言っちゃう。
「たぶんだけど、カードをくれた貴族って、僕の地位を使って何かをしたい性格の悪い貴族なんじゃないかな? だから盛った絵になってると思う」
「「ああ~……」」
「でも、凄いな。お兄様の目を騙すなんて……この2人の領地に遊びに行ってみようか? グフフ」
「「何しに行くのかな~??」」
フィリップが悪い顔をしているので、ろくなことにならないと察したカイサとオーセ。巻き込まないでくれとお願いしてみたけど、フィリップはまったく聞いてくれないのであったとさ。
フィリップが会おうと思った貴族の領地を調べてみると、馬車で1日か2日で着くらしいので、面会は決定。遠かったらやめてたんだって。
フレドリクにも領地でだったらお見合いしてもいいと言ってみたら、簡単に許可。フィリップならもっとゴネて時間が掛かると思っていたそうだ。
ただし、フィリップの護衛の数は6人しかいない。身分を隠して移動したとしても少な過ぎるので、フレドリクが騎士を出してくれるとのこと。
それは予想の範囲内だったから、フィリップも騎士を受け入れる。ただ、20人もの大所帯になったから、各種手配で出発まで1ヶ月も掛かってしまった。
フィリップの遠征は念のため身分を隠して。伯爵家の御一行として移動するので、馬車等はそこまで豪華ではない。
もちろん大々的に見送られることもないから、帝都内を走ってもたいして目立つことはなかった。
そして帝都を出たところで、フィリップはさっそくボヤく。
「やっぱり揺れるね」
外装は抑えてはいるが他は全て最上級の品を使っている馬車だが、フィリップはこの揺れだけは耐えられないのだ。
「そう?」
「快適だよ?」
「うっそだ~」
でも、庶民代表のカイサとオーセには伝わらない。もう何年も乗っているのに、いまだに庶民根性が抜けないらしい。
それでも初めての長距離移動なのだから、しだいに体調が優れなくなる。
「ウップ。吐きそう」
「で、殿下。これ……ウッ」
「もう無理! あたしにちょうだい!」
というワケで、汚物用の桶は3人で取り合いになるのであったとさ。




