439 おめでたい話題
フィリップは悲しみから復活したけど、それは心の話。性根は変わっていないから、1週間も引きこもったことを病気だったことにして、そのまま夜遊びモードで遊び倒してる。
1ヶ月以上も根城に引きこもっているのだから、さすがにフレドリクも心配で暇なルイーゼを送り込んで来たけど、フィリップは体温をいつもより上げて証拠を突き付けていた。
カイサたちは「朝、そんなに熱は高くなかったよね? どうなってんの??」と混乱したんだとか。
ただ、フレドリクが心配してるならそれはかわいそうに思うフィリップ。父親のように死が頭を過っている可能性もあるから、頑張って昼型に戻してフレドリク邸に遊びに来てみた。
逆ハーレムメンバーが全員揃っていたから、すぐに来たことを後悔してた。
「へ? おめでたなの??」
「ああ! フィリップに一番最初に聞いてもらいたかったから、ずっと秘密にしていたのだ!!」
すると、ルイーゼは御懐妊。フレドリクが珍しく興奮してフィリップを高い高いまでしているから、無理して昼型に戻すんじゃなかったとガックリだ。
ちなみに根城にルイーゼがやって来た時に報告しようとしたらしいけど、フィリップの体温が高すぎたから言うに言えなかったんだって。
フィリップも祝いの言葉を言いたいが、フレドリクの高い高いが止まらないどころか宙を舞っていたから、言うに言えない。降ろされたらゲーゲー言ってます。
「お、おめでとう……ウップ」
「ありがと~~~う!!」
「高い高いはもういいから!?」
お祝いしたら、フレドリクは高い高いおかわり。フィリップが抵抗したせいでスッポ抜けてしまい、頭から床に直撃しそうになるのであったとさ。
変な体勢で宙を舞ったフィリップは、カイが受け止めてくれたからというか、防御力が高いから怪我はナシ。ただ、雑に受け止められたから服はけっこう破れました。
そのせいでフィリップはイライラ。フレドリクたちはなんかハイタッチして浮かれまくっているから、さらに倍だ。
逆ハーレムメンバーに絡むのは面倒なので、フィリップはカイサたちと一緒にソファーに座ってブーブー言ってるよ。
「殿下、カイ様にお姫様抱っこされて、いいな~」
「私もあの太い腕に……絵になってたな~」
「僕の姿を見て。ボロボロだよ?」
2人は何故かうっとりしてるので、フィリップは帰りたい。しかしまだ食事も出ていないからフレドリクに捕まってしまった。こっそり1人で逃げようとしたらしい。
それで食事に誘ったのだとフレドリクも思い出してくれたので、食堂に移動。普段はルイーゼの隣に座るフレドリクは、珍しくフィリップの隣にやって来て座った。
「体調はもういいのか?」
「おっそ……」
「すまん。浮かれ過ぎていた。ゴメンな?」
どうやらフィリップの体調を心配してるみたいだけど、投げ飛ばしてから言うことではないのでフレドリクは平謝りだ。
「まぁなんとかね。たぶん父上の看病の疲れと悲しみが同時に来たから長引いたんだと思う」
「そうだよな。体が弱いのに、無理させていたな。本当にすまなかった」
「いいよいいよ。その分、仕事を押し付けてるんだから。僕のほうこそ体が弱くてゴメンね」
「それはフィリップのせいではないだろう」
ついでに罪悪感を植え付けて、体弱いアピールも忘れない。仕事したくないもん。
「そういえば、御懐妊の発表ってどうするの? 喪中にやってもいいのかな? いや、おめでたい話題で塗り替えるのもアリなのかな??」
「そこは悩みどころだ。父上のことも忘れてほしくないし、皆にも明るくなってほしい。どちらが帝国のためになるのやら……」
「う~ん……わっかんないや。ま、お兄様の決定が一番正しいでしょ。あ、お腹が大きくなったらバレるから、そこがタイムリミットじゃない?」
「そうだな。それまでは時間があるか。その頃には民の悲しみも落ち着いているかもな」
フィリップのアドバイスは適当だったが、フレドリクには発表する日付がある程度決まった。それと同時にあることを思い出した。
「そうそう。今日、来てもらったのは、ルイーゼのこともあったのだが、フィリップに見てもらいたい物があったのだ」
「見せたい物? それって食べながらでもいいの??」
「そうだな……食後にしようか」
ひとまずランチが始まるとフィリップとフレドリクは両親の思い出話をしながら食べる。ついでに、フィリップはいつまでこの屋敷に住むのかと探りを入れてみたら、出産はこちらでするから1、2年は住み続けるとのこと。
何か違う目的があるのではないかとフィリップは心の中では疑っていたが、これ以上は聞きたくないのか違う話題に変えていた。
食事を終えると、フレドリクの書斎に2人だけで移動する。そこでお茶を飲みながら話をしていたら、フレドリクが四角い冊子をフィリップの前に積み上げた。
「なにこれ?」
「お見合い用の姿絵だ」
「……へ??」
まさかの見合い写真。フィリップもとぼけた声が出てしまった。
「全員、見目麗しく、心優しい女性だ。少し母上に似ている女性を集めてみた。もちろん公爵夫人としての教養と礼儀を兼ね備えているから、フィリップの体調が悪くとも対応してくれるぞ」
フレドリクとしてはフィリップに見合った女性を集めてくれたらしいが、フィリップには心に決めている人がいる。
「お兄様って……」
「ん??」
「父上から何も聞いてないの?」
そう。口には出さなかったが、悪役令嬢のエステル・ダンマークだ。性格は置いておいて、フィリップの好みドンピシャで父親が選び、帝国の為になる、三拍子揃った女性のことだ。
「聞いてはいたが、エステルはやめておけ。性格が悪いから、フィリップが苦労する未来しか見えないからな」
「いやいや。僕の苦労なんてどうでもいいよ。それが父上の願いで、帝国を盤石にする最良の一手だよ? 父上の気持ちを蔑ろにするの?」
「父上だって、フィリップの幸せを一番に望んでいるはずだ。無理に政略結婚なんてしなくていいんだ。この中から選んだほうが、絶対に幸せになれるぞ」
父親を出してもフレドリクの意見は変わらないから、フィリップも強く反論する。
「それ、お兄様がエステル嬢を嫌いだからだよね? 皇帝がそんな感情に左右されていいの? 国の為を思ったら、僕を売ってでも辺境伯を繋ぎ止めるモノじゃないの??」
「別に私は感情的にはなっていない。それに辺境伯を繋ぎ止めることなど、造作もないことだ」
「嘘ばっかり……父上がなんとか繋ぎ止めていたんだよ。僕、知ってるよ?」
「嘘ではない。私に任せておけば、フィリップは幸せになれるんだ」
どちらも口調は静かだが、譲れないモノがあるので、いくら話をしても平行線だ。
「僕は幸せにならなくていい。エステル嬢と結婚する」
「それは私が許さない。必ず食い止める」
「……話にならないね。僕、帰る」
「絶対に許さないからな」
こうしてこの日は、おめでたい話があったのに喧嘩別れしてしまうフィリップたちであった。




