436 太上皇の頼み事
「それでは、お会いできて本当によかったです。お体ご自愛ください」
「俺もだ。長生きするんだぞ」
キャロリーナとの面会は、あまり長いと太上皇の体に障りそうなので、1時間ほどで終了。お辞儀をしてドアから出たキャロリーナはフラフラ歩いていたから、フィリップが手を貸してソファーに座らせた。
太上皇と会えるのはこれで最後だとわかっているから、悲しみが一気に押し寄せたのだろう。フィリップもその気持ちを汲んで、しばらく前室に残るのであった。
キャロリーナが復活したら、せっかくだからお城案内。キャロリーナが昔行ったことのある場所をブラブラと無言で歩く。
全てを見たら根城に戻り、フィリップの部屋で少し休憩だ。
「陛下、痩せてたわねぇ……」
「うん。食事もあまり食べれないの」
「昔はあんなに逞しかったのにぃ……」
「ね? 1、2年前と比べると別人だよ」
「殿下も辛いわよねぇ……」
「そうだね。でも、僕だけじゃないよ。お兄様も家臣もだよ」
「素晴らしい方だったものねぇ……」
キャロリーナは一息つくと悲しみがぶり返して動けそうにないので、フィリップが話に付き合い、夕方頃になったらフィリップも一緒に馬車に乗り込み奴隷館まで送り届けるのであった。
その日の夜はキャロリーナが心配なフィリップは奴隷館に顔を出したけど、いつも通り貪り食われてKO。
いつもより乱れて激しかったことも疲れた理由だが、太上皇とやったマッサージを自分にやられたからフィリップも耐えられなかったらしい。
翌日のフィリップはダイイングメッセージを書いている途中の体勢でベッドに倒れていたから、カイサたちに「キャロリーナ様のところに行ったんじゃない?」とバレていた。
夕方まで寝たフィリップは、念のため奴隷館を訪ねてスタッフの女性奴隷に話を聞いたところ、キャロリーナはいつも通り働いていたとのこと。
いちおう顔を確認しに行ったら貪り食われて2日連続KOだ。
ちなみに落ち込んでいたのは、仕事とショタ成分で吹き飛ばしたんだってさ。
キャロリーナのことは大丈夫そうだから、看病と夜遊びを頑張っていたら、久し振りに太上皇から呼び出された。
「どったの?」
「そこに座れ」
フィリップは軽い感じで入ったが太上皇は重たい空気を出しているので、背筋を正して座る。
「今日、呼び出した理由は、フィリップにしか頼めないことがあるからだ」
「う、うん……簡単なことにしてね?」
「ああ。フィリップなら容易いことだ。もしものことがあったら、フレドリクを殺して簒奪してくれ」
「ああ。そんなもんなんだ~って、なるか~~~い!!」
あまりのこと過ぎて、フィリップは素が出てノリツッコミまでしちゃった。けっこうな大声で怒鳴ってしまったけど、太上皇は笑っているからセーフっぽい。
「じょ、冗談だよね?」
「冗談ではない」
「な、なんで? あんなに完璧な人間、この世にはどこにもいないよ??」
「フレドリクだけならこんなことは頼まん」
「あぁ~……」
「どうやらフィリップも警戒していたのだな」
2人の話題に挙げている人物は、聖女ルイーゼ。フレドリクが妙に性急な改革案を出して来るからどうしてだと聞くと、いつもルイーゼの名前が出たそうだ。
太上皇はその都度、忙しいことを理由に挙げて、追々、または時間を掛けてじっくりやろうと先延ばしにする。フレドリクが皇帝になってからも、相談に乗る形で止めていたそうだ。
「へ~……そんなことあったんだ」
「俺の話なら聞く耳を持つが、他ではダメみたいだ。やはり、平民との結婚を許すべきではなかったのだろうか……」
「父上が責任感じる必要ないよ。これから起こることは、全てお兄様の責任だよ。もしもの時は、殴ってでも止めてあげる。それでいい?」
「ああ。兄殺しなんて、優しいフィリップには無理だろうな」
「どうだろうね……」
フィリップは想像してみたが、フレドリクを殺せる姿が思い浮かばない。しかしそんな顔をすると太上皇が不安になりそうなので、その表情がちょうどいい話に持って行く。
「僕からも父上に話があったんだ」
「いい話ではないのだな」
「うん。ここに、2種類の薬があります」
フィリップは両手を広げてよく見せる。
「右手のは、いまの痛み止めより強力な薬。かなり副作用が強いから、いまの体で使うと、正直、どうなるかわからないって。最悪、死期を早める。
左手のは、痛みを止める薬じゃなくて、痛みから解放する薬。ま、どんな言い方をしようと、毒だね。そのかわり、眠るように旅立てるって。もう、父上に効く薬はこれだけしかないの……ゴメンね」
フィリップが下を向いて謝ると、太上皇は手を伸ばして頭を撫でた。
「何も謝る必要ない。その薬も必要ないぞ」
「必要ない? そんなことないでしょ? やせ我慢してるに決まってるよ。痛くて痛くて仕方ないんでしょ??」
「まだいまの薬で大丈夫だ。それで少しでも長く生きられるなら、俺は本望だ」
「そんなに無理しなくていいのに……」
「無理をさせてくれ。母親を早く亡くしたのに、俺までだぞ? お前たちが少しでも長く子供でいられるように、俺は1日でも長く生きてやる。これは俺のワガママだ」
皇帝の覚悟の言葉を聞いたフィリップは、大粒の涙が零れ落ちる。
「グズッ……父上が居なくなっても、僕はいつまでも2人の子供のままで居続けるんだからね。絶対、忘れないよ」
「フフッ……フィリップは子供の頃から変わらないものな」
「ああ~。いま、身長のこと笑った~。さっきのは永遠に父上と母上の子供って意味だよ~」
「クククッ。わかっておる」
「わかってな~~~い」
だが、身長に触れられたので、フィリップの涙は止まる。フィリップとしては大泣きせずに済んで助かったと思ったが、帰り道では、太上皇に助けられたのではないかと意見を変えたのであった……




