434 キャロリーナのお願い
貴族の企てを遊びとして楽しんだ翌日、この日から貴族の派閥パーティーに皇族が訪れるイベントが始まった。
今年もフィリップだけ違う馬車だから、カイサとオーセを誘ったけど断られた。どうやら誰かからこの手のイベントの時は、普通は皇族の馬車に同乗しないと教えてもらったらしい。
でも、普通ではないフィリップは命令して無理矢理乗せて、2人に怒られていた。自分たちも常識外れだとは思われたくないんだとか。
そんなこんなで皇族が到着したパーティー会場1軒目は、ダンマーク辺境伯邸。フィリップはホッとしながら中に入ったが、握手をした当主のホーコンとフレドリクは目を合わそうとしないから、胃がキリキリと悲鳴を上げた。
そのまま様子を見て、フレドリクの目を盗んでホーコンの後ろから近付いたフィリップ。足元で「太上皇はホーコン推し」と何度も呟いて怒りを逸らす。
ホーコンは誰が言っているのかとキョロキョロしていたけど、とうとうフィリップには気付かなかった。ちっさいもん。
本当は「娘さんをください!」と言いたかったフィリップであったが、自分の言葉だけではホーコンに冗談だと受け取られそうだし、フレドリクの耳に入ったら断固反対されそうだから諦めるしかなかったみたいだ。
ちなみにこれが太上皇がやろうとした最後の仕事。ダンマーク辺境伯と縁を繋ごうとしたが、残念ながら辿り着けなかったからできなかったのだ。
フィリップはそれに気付いていたから、宰相は聞いているかと探りを入れたと思われる。フレドリクの耳に入ったら困るから、慎重に慎重を期していたのだ。
ダンマーク辺境伯のパーティーを40分ほどであとにしたフィリップが「短っ」と思いながら馬車に乗り込んだら、カイサたちの事情聴取。デッカいオッサンの近くで何をしていたか知りたいらしい。
「アレが当主だよ」
「あの人が当主様だったの? 熊かと思ってたわ」
「え~? ワイルドでよくな~い?」
「オーセってファザコンだったんだ~」
「お父さんなんて、痩せこけた野良犬みたいだから嫌いだよ~」
「「かわいそうに……」」
オーセは筋肉フェチみたい。しかも父親には辛辣すぎるので、父親を哀れに思うフィリップとカイサであったとさ。
それからもフィリップは嫌々パーティーをハシゴし、エイラとダグマーが根城に訪ねて来たら大いに喜ぶ。2人は情報を仕入れに来ているだけなのに……
これで年末年始のフィリップの仕事は完全に終了。キャロリーナにも報告しに来たら、貪り食われてグロッキー状態で話をすることに。
「陛下ぁ、かなり悪いみたいねぇ……こんなことしてていいのぉ?」
「いま言う~??」
マッサージが終わったあとに言うことではなかったので、キャロリーナもてへぺろしてるよ。
「まぁ余命半年を倍以上延ばしたんだ。生きてることさえ奇跡だよ。凄いよ父上は」
「本当よねぇ……さすがは陛下ねぇ……でも、相当苦しいんじゃなぁい?」
「父上、やせ我慢するとこあるからわからないんだよね~……でも、そろそろだよ。キャロちゃんも覚悟してて」
「そうよねぇ……最後にもう一度ぉ、お顔を見たかったけどぉ……あたしのような人間には無理よねぇ……」
キャロリーナが悲しそうな顔をするから、フィリップとしては願いを叶えてあげたい。
「どうだろう……きちんとした服を着たら貴族に見えるから忍び込めるんじゃない? 元々貴族なんだから作法とかも大丈夫でしょ??」
「そんなことバレたらぁ、殺されるわよぉ~」
「ちゃんとお兄様の許可を取るから大丈夫だよ。長年父上の密偵をしていた功績もあるからね。もしもの時は、僕が通行証をゴリ押ししてあげる」
「うん。殿下の通行証だけでもいいんじゃない?」
「それだ!」
「どうして回りくどいことしようとするのよぉ~」
「いや、キャロちゃんと昼に堂々と会えるようになったの忘れてて……」
フィリップが忘れていたのは事実だけど、本当はこんな痴女を連れて城の中を歩きたくないって理由もあるみたい。フィリップの家臣でも凄い反応をしていたから、メイドたちに何を言われるかわかったもんじゃないもん。
とりあえずフィリップは、フレドリクと太上皇にもキャロリーナを城に連れて来ていいかと相談して、人を派遣してもらうのであった。
「あら~。牢獄って聞いてたのにぃ、いい屋敷ねぇ~」
結局のところ、フィリップがいたほうが安全だということになり、キャロリーナを迎えに行ったのは護衛騎士。フィリップとの待ち合わせ場所は根城だ。
これはキャロリーナの身分を隠すためでもあるが、一番は「お前が迎えに行くな。皇子だろ」と、フレドリクと太上皇に時間差ツッコミをされたからだ。
「ちょっとチェックしたいことがあるから、中に入って」
玄関まで出迎えに来たフィリップは、牢獄を訂正するのは面倒なのかツッコまずにキャロリーナを2階にご案内。カイサとオーセは部屋の前で待機を言い渡したから、「一発やる気だな!?」と思われてる。
「部屋も変わってるけどぉ、綺麗で素敵ねぇ」
「まぁ僕のこだわりが詰め込まれてるからね。案内はあとでするから、こっち来て。んで、くるっと回転してくれる?」
「はぁ~い」
フィリップがソファー席に移動すると、キャロリーナは言われた通りに動いて対面に座った。
「うん……服装は問題なさそうだね。清楚な貴婦人みたい」
「城の中を歩くんだからぁ当たり前よぉ。最近の流行りもおさえているわぁ」
夜で働く女性の下には、客から奥さんへのプレゼントの相談なんかも来るから、貴族の流行りにも詳しいらしい。こんな場で奧さんの話を出すなとも思ってるらしい。
「喋り方もすぐ切り替えられるよね?」
「はい。大丈夫ですよ」
「あとは~……僕との関係ね。実は父上には8歳から関わりあると教えちゃったんだよね~」
「はい??」
「最後のお願いじゃ断れなくて。夜の帝王も知ってるよ」
「ま、まさか、私との関係って……」
「あ、それは、娼館を紹介してもらった恩人ってことにしてるよ。子供じゃ入れなかったからお金で都合してもらったってね」
「もう! 驚かせないでよぉ~」
第二皇子とマッサージしてるなんて知られたら、首が飛ぶ未来しか見えなかったキャロリーナ。きちんとした設定があったから、心底ホッとするのであった。




