427 大きなプレゼント
フレドリクの即位はあっという間に帝国中に知れ渡り、帝都だけではなく帝国中がお祭り騒ぎ。民は皆、フレドリクとルイーゼに多大な期待を寄せているみたいだ。
特に期待をしているのは、帝国最下層にいる人々。農奴と呼ばれる、過去に帝国が侵略戦争をして奴隷に落とし、その地位が固定されてしまった人々だ。
この農奴の職業は農業のみ。命を軽く見られ、お腹いっぱい食べられる人は極一部。約半数は酷い貴族の支配下にいるから、ボロを着せられ食事も減らされ暴力も日常茶飯事。そのせいで短命なのだ。
そんな人々でも、ルイーゼの噂ぐらいは聞こえている。平民から皇族となり、厳しい環境下にいた薬屋を救った正に聖女。自分たちも救ってくれるはずだと、農奴たちは毎日祈りを捧げていた……
ただし、帝都には農奴は1人もいない。そんな汚い人間は、例え善良な貴族が訴えても中には入れない。
その哀れな農奴の声など、聖女には届かないのだ。
「アハハハハ。お腹痛い。もうやめて。アハハハハ」
もちろんフィリップにもまったく届く気配がないな。太上皇という地位になった元皇帝の愚痴に付き合って馬鹿笑いしてるよ。
この2週間ほど、太上皇の私室を訪ねては腹を押さえて帰るから、貴族たちやカイサたちに「ついに殴られたんだ」と噂されてるんだって。
「そういえばここ数日、外に出てないって聞いたよ~?」
これ以上笑うと死んでしまうと感じたフィリップは話を変える。
「最近、少し歩き難くてな。立つと膝が震えるのだ」
「ん~? 薬はまだ中級なのに、なんでだろ……どっか痛い??」
「少しこの辺りがな。たまにチクリと来るぐらいだが」
「強い痛み止めをあんまり早く使い過ぎると余計歩き難くなりそうだからな~……もうちょっと我慢しよっか?」
「本当に薬屋にならないだろうな?」
いまだに薬に関しての知識はフィリップが一番なので、太上皇も安心して話せるけど、第二皇子の発言じゃないから心配らしい。
「なるワケないじゃん。勉強嫌いだし」
「もっと心配になるわ」
でも、やる気ナシでは太上皇も死んでも死に切れないってさ。
「あ、そうそう。今日は父上にプレゼント用意してたの~」
「フィリップからのプレゼントか……計算器以来か?」
「誕生日以外にもいっぱい贈ってるよ? 計算器はカウントしないでよ~」
「すまん。稼いだ額がとんでもなかったから、他を忘れてしまった」
「これは覚えておいてね? 持って来させるからね??」
計算器の収益は、ひと月で小国の予算並み。安いから飛ぶように売れているので、過去1位の収益になるのは目に見えているから皇帝も嬉しいのだろう。
出来の悪い息子だと思っていたフィリップの、数少ないが恐ろしく巨大な功績なのだから。
そのことに触れられたくないフィリップは、部屋から出ると自分の護衛騎士に布にくるまれた大きな物を運ばせて、太上皇の前に置いたら追い出した。
護衛騎士は帝国のトップに君臨していた人をこんなに近くで見たから喋りたそうにしていたけどね。
「大きいな。人でも入っていそうだ」
「そんなドッキリはないよ。んじゃ、ジャジャーン!」
フィリップが布を引っ張ると、プレゼントの全体が現れる。
「椅子か? 車輪も付いているとは変わった椅子だな」
そう。フィリップのプレゼントとは、ただの車椅子。帝国にはまだ無い物だから、太上皇は使い方がわからないみたいだ。
「この後ろに持ち手があるでしょ? 誰かに押してもらってもいいし、車輪を自分で回せば1人でも動けるよ。もう、これを作らせるの、苦労したんだから~」
「ほう……」
フィリップの苦労話は、ほとんど装飾のこと。形じたいはフィリップの説明で簡単に設計図を書けたのに、完成した物は金ピカ、宝石ゴテゴテ。
家具職人は太上皇が使うと聞いたから無駄に派手にしていたので、フィリップが二度もやり直しを命じてシックな感じに仕上げたのだ。
「乗ってみる?」
「ああ。手を貸してくれ」
フィリップは車椅子のストッパーを引いてから、太上皇を支えて座らせる。そして操作方法を説明すると、太上皇は自分で動かし出した。
「わはは。これは楽しいな」
「飛ばし過ぎは注意だよ? 摩擦で手を火傷するからね」
「そこまで浮かれたようなことはせん。しかし、また便利な物を作ったモノだな。フィリップには発明の才能もあったんだな」
「あ~……お兄様とかには秘密で」
「これぐらいなら言ってもいい気がするがな~」
フィリップは秘密主義者。何度もお願いしたら、太上皇が作らせたことにしてくれた。もうすでに家具職人にはそう言ってあるし。
「このまま庭にでも行く?」
「そうだな。だが、フィリップは押すな。従者にやらせろ」
「なんで~?」
「皇子だからだ……」
「あ、はい。そうでした」
いくらプレゼントが嬉しくても、立場は忘れない太上皇。フィリップは完全に忘れていたので、太上皇に睨まれてチビリそうになるのであったとさ。
太上皇の私室に執事を呼び込むと、変わった椅子に少し戸惑っていたが、太上皇の移動が楽になるのだから嬉しそうな顔をする。手を貸そうとすると断れることが多いそうだ。
その執事に車椅子を押させて、フィリップは太上皇の隣を歩く。フィリップの護衛騎士2人とカイサとオーセ、太上皇の護衛と従者もいるから大所帯になってしまった。
貴族やメイドと擦れ違う時には、最初は「何事?」って顔をして「太上皇様やん!?」と、壁際に寄って頭を下げる。
ただ、太上皇の頭の位置は、フィリップと同程度。普通に下げては足りないと感じたのか、腰を90度以上折る人や、土下座か跪く人が続出だ。
「プププ……みんな戸惑ってたね」
「うむ。ククク……作法を考えてやらんとな」
それが面白いとフィリップと皇帝は笑いが漏れるのであった。
ちなみにこの場にいる全員は、笑いを堪えるのが大変だったんだってさ。




