425 戴冠式前
皇帝の退位とフレドリクの即位が決まったのだから、城では盆と正月が一緒に来たような慌ただしさ。家臣が走り回って準備を急ぐ。
社交シーズン後だった為、遠方に領地を持つ貴族は帝都をすでに離れており、呼び戻すには難しい。特に他国と接している領主はこれ以上領地を離れているワケにもいかないので、帝都に戻ることを諦めるしかなかった。
帝都民にも退位と即位の話が聞こえたらしく、反応は様々。皇帝の退位を惜しんでヤケ酒する者や、フレドリクの即位を祝して騒ぎ散らす者もいる。
どこもかしこも慌ただしくしているのに、フィリップの根城は暢気な空気。主のフィリップも皇帝の御見舞いに行く以外は根城から一歩も出ないでダラダラしてる。
「プーちゃん、こんなことしていていいの?」
「お城、凄いことになってるよ?」
「いいんじゃない? 特にお声も掛からないし」
それが許せないとカイサとオーセは質問していたが、フィリップは暢気すぎる。
「「なんで声も掛からないのよ~」」
「さあ? 忘れられてるのかな??」
「「……あるかも??」」
「冗談だよ~? お兄様には戴冠式の2日前に段取りを確認するって呼び出されてるもん」
「「なんでギリギリ……」」
「知らないよ~」
2人はフィリップのボケにも付き合ってくれない。ちゃんと予定を教えても、納得いかず。どうもフレドリクは、フィリップの出番が少ないから、この忙しい時に構ってられないと思っているらしいけど。
そんなことを思われていても、フィリップの生活態度は変わらない。ただ、いつでも動けるように、夜遊びは早く切り上げるようにしてるよ。
「城ではみんな忙しいんでしょぉ~? こんなところに来ていていいのぉ~?」
今日はキャロリーナの所に顔を出したけど、キャロリーナはフィリップを貪り食ったクセにカイサたちと同じようなことを言ってるよ。
「いいのいいの。僕の出番、ちょっとしかないみたいだし」
「ふ~ん……それにしてもぉ、殿下は大丈夫なのぉ? 陛下のことぉ、不安になったりしないのぉ??」
「まぁちょっとはね。でも、父上、けっこう元気なの。晴れ舞台だから力が漲って来たみたいでね~」
「そうなのねぇ。お元気ならぁ、それはよかったわぁ~。このまま長生きしてくれるといいわねぇ~」
「だね。それを毎日祈っているよ」
喋っていたらフィリップの顔が少し曇ったので、キャロリーナは第3ラウンドに移行。キャロリーナから激しいマッサージを受けたフィリップは「遊び過ぎた」とフラフラで帰って行ったのであった。
フィリップが夜遊びを制限しながら遊び倒し、フレドリクの予行練習も完璧に乗り切り、カイサたちにそのことを疑われていたら、ついに戴冠式の日となった。
さすがにフィリップもこの日は寝坊もせずにシャキシャキ登城。カイサたちには「あくびもしないなんて信じられない」とヒソヒソ言われていたけど。
会場の控え室に一番乗りでやって来たフィリップは、主役の登場を待つ。
「お兄様。おはようございます」
「ああ。おはよう」
先にやって来たのはフレドリク。なのでフィリップは思ったことを聞いてみる。
「父上は大丈夫そう?」
「何も問題ない。化粧で少し遅れているだけだと思う」
「ああ~。痩せたもんね。でも、それでさらに眼光鋭くなっていたからいらない気がするな~」
「まったくだ。昨日なんて、顔が怖くて声を掛けるのを躊躇ったほどだぞ」
フィリップたちが悪口に花を咲かせていたら、自分の足で歩く皇帝が登場。ここもフィリップが一番乗りで挨拶に走った。今日の皇帝はいつにも増して顔が怖いもん。
「父上。おはようございます。体は大丈夫?」
「問題ない。それよりさっき、2人で何を話していたのだ?」
「お兄様から僕が大丈夫かと心配されていただけだよ」
「フレドリクはギクッとした顔をしたように見えたのだがな~……」
皇帝に睨まれたフレドリクは、また肩をビクッと揺らしてしまった。
「も、申し訳ありません。父上の陰口を少しばかり……」
「フッ……そんなことだろうと思った。フレドリクもフィリップのように顔に出さないように気を付けろ」
「フィリップのように怒られ慣れていないことが私の欠点ですね。ククク」
「まったくだ。わはははは」
「えぇ~……僕も数えるほどしか怒られてないよ~」
フレドリクが笑えば皇帝も釣られて笑う。病気の件で仲が深まったことと、今日の良き日がよっぽど嬉しいのだろう。
機嫌良く笑う2人に挟まれたフィリップは、ずっと同時に頭を撫で続けられて、居たたまれない気持ちになるのであった。撫でれる理由がひとつもないもん。
ちなみに周りで見ていた貴族や従者は、皇帝が怒っているように見えたから震えていたが、2人が仲良く笑っているから「そんな顔、初めて見た」と感動したんだとか。
フィリップのことは「なんかやらかしたのかな?」と軽く冤罪を掛けていました。尾ヒレを付けて噂したんだってさ。




