421 皇太子邸での事件
コンラード宰相からお願いをされたフィリップはトボトボ歩いているもんだから、カイサとオーセは「家臣にも怒られるんだ」と勘違い。
その足で執務室を訪ねたフィリップは、緊急事態と執事に告げてフレドリクと2人きりになった。
「宰相がね~……勘付いてるよ」
「そのことか。私も何度も聞かれている」
フィリップが訪ねた理由を告げると、フレドリクも暗い顔になった。
「昨日、父上にも怪まれたから、もう限界だろうな」
「そりゃあんなに安静にしてるのに改善しないもんね~」
こうなっては仕方がない。フィリップたちは皇帝にどう告知するかを考える。しかしながら、余命を告知すると生きる気力を奪う可能性もあるので、なかなか決まらない。
「あ、そうだ。死痛病の写本を受け取って来たんだった。それを読んでから考えるってのはどう? もしかしたら助かった人もいるかもしれないし」
「そうするか……まだやることがあるから、夜に屋敷を訪ねてくれ」
「あぁ~……僕の屋敷じゃダメ?」
「フィリップの屋敷は密談をする部屋がないではないか」
父親の話なのだからフィリップも断れないけど、皇太子邸にはルイーゼがいるから、ここだけゴネてフレドリクを困らせるのであった。
執務室から出たフィリップはまたトボトボ歩いているので、「また怒られたんだ」とカイサたちに言われていた。
根城に戻ってから理由を告げたら大慌て。皇太子邸で一泊予定なのだから、何を着て行けばいいのかわからないんだって。
「メイド服だよ。パーティーに招待されたワケじゃないんだから」
「「あ……たはは」」
カイサとオーセが勘違いして照れ笑いしているので、フィリップが指示。パジャマや明日着る服等を用意させて、今日はできないマッサージをしておく。
それからいい時間になったらお風呂に入り、皇子とメイドに変身したら馬車に乗って皇太子邸へ。残念なことにフレドリクはまだ戻っていなかったので、ルイーゼが出迎えてくれた。
「ゲッ……」
それだけならよかったのだが、こんな時間にカイ、ヨーセフ、モンスが談話室で楽しそうにお喋りしていたから、フィリップはドアを勢いよく閉めた。
「もう! いきなりそんなことするからビックリしたでしょ~」
「あ……ゴ、ゴメン。つい脊髄反射で……」
「ほら、行くよ~」
「1人で歩けるから腕組まないで~~~」
すると、怒ったルイーゼがドアを開けてもっと酷い状況に。ルイーゼが腕を組んで談話室の中央に連れて行くモノだから、カイたちの殺気がフィリップに突き刺さるんだもの。
そのルイーゼは、フィリップをフレドリクが座るだろう場所に置き去りにして、オーセとカイサの下へ。そこでお喋りしているから、フィリップは針のむしろだ。
「さっきのはお姉様がやったことなんだから、睨まないでよ~」
ルイーゼが同じ部屋にいるからカイたちは派手に怒ることができないらしく、無言で2分間睨んだら、やっと表情を崩した。
「フィリップに聞きたいことがあったのだ」
「あ、ボエルのこと?」
「違う」
「じゃあ……モブ君??」
「誰だそれ??」
カイの聞きたいことはわかりきっていたので、フィリップに近しい者の名前を出して乗り切ろうとしたら、コニーの名前が出て来ない。ならば、「モブッぽいヤツだよ~」とずっと言ってフレドリクの帰りを待つ作戦だ。
「もうそのことはいいでしょう」
「私たちは、おおよそのことはわかっているのですよ」
でも、ヨーセフとモンスが止めたから、作戦は失敗だ。
「なんの話かわっかんな~い。そういえばボエルって今日いるの?」
「「「皇帝陛下のことだ」」」
それでもとぼけようとしたけど、3人にツッコまれて逃げられそうにない。
「フレドリクは俺たちにも話さないが、フィリップには話をしているんだろ?」
「薬屋の会合にも派遣しているのですから、知らないとは言わせませんよ」
「フレドリク殿下が調べさせた病名と関係しているのですよね?」
口々に正解を告げるカイ、ヨーセフ、モンス。もうここまで知られていたら、フィリップも最後の手を使うしかない。
「仮に答えがお前たちが思っている通りだとして、帝国のトップシークレットを皇子が垂れ流すワケないじゃん」
「「「ということは……」」」
「その先はお兄様に聞いて。僕は何も知らないし……お姉様~! カイたちがイジメる~~~」
「「「はあ!?」」」
皇子という地位に加え、聖女ルイーゼだ。カイたちが怯んだ隙に、ルイーゼに泣き付くフィリップであったとさ。
フィリップの嘘を信じてしまったルイーゼは、カイたちに正座をさせて説教。なんか「プンプン、プンプン」言ってるだけだから、ぜんぜん怖くないな。
フィリップはルイーゼの背中に隠れてニヤニヤ。たまにカイが「笑ってる!」と指差すが、フィリップがすぐに泣いたフリをするので説教は延びる。
オーセたちはフィリップがたまに後ろを向いて笑っていたから「なんだこの嘘つきは」とドン引き。
そんなことをしていたらフレドリクが帰って来たので、フィリップは真っ先にドアに走り、頭を下げて出迎えていた。もちろん、オーセたちに加えてカイたちやここにいる従者は全員ドン引きだ。
結局のところ、フレドリクの裁定はケンカ両成敗。場を収拾してディナーに移行する。
その席では、フィリップはボッチ。フレドリクまでもがルイーゼとだけ喋っているからだ。誰も見ていないのなら、オーセとカイサに椅子を持って来させてフィリップは餌付け。
足りなくなればメイドに料理を持って来させて、3人で批評する。寂しかったんだね。
食事を終えるとカイたちは帰って行ったので、フィリップは気になる。しかしつけると後悔しそうなので我慢だ。
しばしフィリップたちは談話室で待っていたら、急いでお風呂に入って来たフレドリクが現れたので、オーセとカイサが気絶しそうになってた。
水の滴るフレドリクは、それほど強烈なイケメンなのだ。
2人は目がハートで反応がないのでルイーゼに預け、フィリップとフレドリクは書斎に移動する。
そこで2人は無言で死痛病の写本を読んでいたら、1時間が過ぎた頃にフレドリクは写本をパタンと閉じた。
「やはり助かった患者はいないか……」
「……え? もう全部読み終わったの??」
「ああ。フィリップはあとどれぐらい掛かりそうだ?」
「早過ぎるよ~~~」
フレドリクの天才っぷりをまざまざと見せ付けられたフィリップは、脱帽して続きを読む気がなくなるのであった。




