420 真実を知りたがる者
薬屋組合の会議があった翌日。根城ではフィリップがベッドの上でダイイングメッセージを書き残しているような体勢で倒れていたから、カイサとオーセは「また女か」と呆れていた。
昨日は朝から働いたのに深夜遅くまでキャロリーナに貪り喰われたから、力尽きて倒れてるだけなんだけどね。
その日からフィリップは謎の発熱というか仮病。それでも皇帝の御見舞いは2日に一度はするので、皇帝とフレドリクは「ええ子やな~」と思っているらしい。
中央館に顔を出すついでに家具職人にまた無理な注文をしたら、夜遊びしながら楽しみに待つ。
それから10日。フィリップは久し振りに昼型に戻って、馬車に揺られて薬屋にやって来た。今日も例の如くフィリップだけで中に入ると、待合室にはキムと若い女性がいたのだが、同時にビクッとして振り返った。
「驚き過ぎ。プププ」
「ライアンさんでしたか。なかなかクセが抜けなくて困っているところです」
「もういっそ、1階の路面で堂々と商売したら? 隠れてるからビビるんだよ」
「そうしたいのは山々なんですけどね~。まだ正式に決まっていないのに、改装なんてして何か言われるのも怖いので」
ちょっと話が弾みそうになったところで、フィリップは手を前に出して止める。
「そっちの子、先に処理しちゃって。時間が掛かるなら譲ってほしいかな~? すぐ帰るし」
「あ、そうですね……ライアンさんは薬と写本を取りに来たのですよね? ライアンさんを優先してもいいですね?」
「あ、はい。どうぞどうぞ」
女性から許可を得るとキムはバックヤードに消える。フィリップはやることもないので、女性の前に勝手に座った。
「見たことある顔だね……あ、会議にいたかわい子ちゃんじゃん」
「ど、どうも……」
「なになに? 緊張してる?」
「い、いえ……」
「店主になんの用なの~?」
女性薬師は引いているのに、フィリップは押せ押せ。ナンパ気分で話を聞き出すのであった。
「お待たせしました」
フィリップがナンパモードで喋っていたら、キムが布袋を持って戻って来た。フィリップはそれを受け取ると、薬と写本を数えて店主も座らせる。
「けっこう写本は集まってるね。あと何人ぐらいなの?」
「残りは5人ですね。ライアンさんの依頼通り、私が目を通しております。嘘は書かれていないと思いますよ」
「おお~。さすがキャロちゃんイチオシの薬屋だ。あと5人なら、もう先に支払っておくよ。薬代とで……」
キムのバイト代は金貨2枚支払って、薬代は言い値。フィリップは銀貨とかは出したくないけど、領収書も貰わないといけないのでキッチリ支払う。
そのやり取りを羨ましそうに女性薬師が見ていたので、フィリップは金貨を1枚、スッと前に出した。
「な、なんですかこれは?」
「ご祝儀~。あと、店主。従業員希望なんでしょ? 雇ってやりなよ~」
「いや、いまは人手は足りていますので……」
「また人見知り? 薬屋の人たちって、人見知りが過ぎるよ~」
「そ、そんなことありませんよ? あの会議のあとは、他の薬屋と集まることが多いのですから」
フィリップが怒らせたり談合を言い出したのは、実は薬屋のため。誰もが保護者同伴で出席していたから、横の繋がりがないと気付いたから交流させようとしたのだ。
「だったらいいじゃん。この子だって、先代のレシピもあるし経験者だ。これほどいい人材はいないよ。しばらく僕が給料出してあげよっか?」
「そ、そこまでライアンさんにしていただくワケには……ちなみに給料はいかほど出せばいいと思いますか?」
「まさかそれがわからなくて渋ってたの?」
どうやらこの女性薬師、薬屋は全員コミュ症で家族経営だったから人を雇ったことがないので、たらい回しにあっていた模様。
フィリップも薬屋の給料なんて知ったこっちゃないので、「キャロリーナに聞け!」と突き放すのであったとさ。
女性薬師は、フィリップのおかげで正式にキムの店で働けるようになったので、礼を言って帰って行く。フィリップはまだ話をしたいことがあったから、一度外に出て2人の護衛騎士を連れて来た。
この2人は、お使い役。フィリップ直々に薬を買いに来るのは面倒になったので、頼むことにしたのだ。ただし、フィリップの立場と薬の効果は秘密。キムにもどんな効果があるかも伏せさせてやり取りをさせる。
馬車に乗り込むと、カイサたちに「薬屋だったの!?」とようやくネタバラし。皇帝のことは言えないから「なんだと思っていたの?」と話を逸らす。
「「女と密会かと……さっき擦れ違ったし」」
「それなら2人は連れて来ないでコッソリするよ~」
「「するなよ。皇子だろ」」
これは効果覿面。女癖の悪さを懇々と説教されまくっていた。
その足で奴隷館に寄ったら、フィリップだけオーナールームへ。キャロリーナにお金を預けて、部下に写本をくれた薬屋にお金を届けてもらう。報酬に白金貨を1枚出したら、貰い過ぎと言われてほとんどフィリップ専用口座に行くみたいだ。
いまはマッサージする時間はないので、ディープな感じで何かをしたら帰宅。カイサたちには「あの人、雇ったりしないよね?」と心配されていたんだとか。
馬車の中で綺麗な服に着替えていたら、城に到着。中央館に入ってフレドリクに写本を届けようと向かっていると、あまり会いたくない人とバッタリ出くわした。
「ゲッ……宰相」
「フィリップ殿下。いいところで会いましたね」
「全然いい場所じゃない気がするな~?」
「まあまあ。少し話をしましょう。私の私室がすぐそこなのでお茶も出しますよ」
「い~や~だ~~~」
フィリップが拒否しても、コンラード宰相は肩に担いでムリヤリ連行。カイサたちはその現場を見て「誘拐」とは思わずに「お父さんに怒られる子供みたい」と後に続く。
そうしてコンラード宰相の私室に入ると何人か部下がいたけど、お茶だけ用意させると全て追い出されて、カイサたちも外で待たされる。
「なんなの~?」
フィリップは早く出て行きたいので、お茶も飲まずに質問だ。するとコンラード宰相は深刻な顔になった。
「皇帝陛下のことです。一向に良くなりませんが、本当に過労なのですか?」
皇帝の症状は、いまだにフィリップとフレドリクとアガータの3人しか知らない。過労で押し通していたけど、倒れてから1ヶ月近くも経つのでコンラード宰相は疑っているのだ。
「そうじゃないの? 僕はお兄様からそう聞いてるよ」
もちろんフィリップはすっとぼけ。フレドリクのせいにして……
「皇太子殿下もそう仰っていましたが……どう考えても、いまの状況はおかしいです。陛下も両殿下が休んでいろとうるさいと言っていたのですよ。本当のことを教えてくれませんか?」
「本当のことと言われても……僕に聞く? もしも重体なら、お兄様も僕には言わないんじゃない?」
「そ、それでも、殿下は陛下に認められるほどの悪知恵があるではないですか。皇太子殿下から聞き出すこともできるのでは?」
コンラード宰相は心底心配しているのは明白なので、フィリップは折れる。
「わかったわかった。お兄様から聞けばいいのね。聞き出せたら教えてあげるよ。それでいい?」
「はい。お願いします……本当に何も知らないのですか?」
「知らないよ~~~」
それでもしつこいコンラード宰相。フィリップのことは嘘つきの悪ガキだと思っているから、何を言っても信じられないみたいだ……




