418 フィリップの密命
商業組合の大部屋で人々が跪くなか、国の代表のヨーセフが「楽にしろと」言ったら有力者と薬屋は立ち上がり、ヨーセフたち文官がテーブル席に着くと各々に準備された場所で座った。
今日行われる会議は、国が案を述べて薬屋たちが持ち帰り、より良い案を提出させる会議。時期がこの時期になったのは、年末が近いので式典の準備が忙しかったからと、貴族への根回しにも時間が掛かったからだそうだ。
そんなことも知らないフィリップの席は、テーブル席の後ろの壁際。カイサとオーセに挟まれ、ソファーに座って偉そうに足を組んでる。有力者たちは「なんだあのチビッコたちは?」と大注目だ。
その中に、見たことのある顔があったので、フィリップは手を振っていたけど無視されてる。
その人物は露出を抑えた服を着たキャロリーナだったので、フィリップとの関係がバレないようにしているのだ。内心は「いい加減にしなさい!」って怒ってるけどね。
「では、始めようか」
ヨーセフが声を発して開始の合図。お供の文官が国が用意した考えを読み上げる。
その案とは、薬屋組合という組織を発足すること。その中に、管理部門、研究部門、販売部門、教育部門を作って運営して行くことになっていた。もちろん全て寄付金で賄えるだけの金額が集まっているそうだ。
有力者や薬屋は感心して聞いてはいたが、管理部門に貴族が入っているので、そこに強い難色を示しているように見える。
「今まで虐げられていたのだから、気持ちはわかります。しかし、誰かが管理しなくては、薬の服用で死者が出た場合どうします? 仲間内でやっていたら止められないでしょう。
だから、街の有力者と文官を半分ずつ入れて見張るのです。補償も国がある程度持つと皇太子殿下は仰っております。どうか、皇太子殿下を信じてください」
しかし、ヨーセフが諭すだけで不安は払拭。フィリップは「だからいつも丁寧語のヨーセフが選ばれたんだ」と心の中でフレドリクに拍手を送っていた。
薬屋が他に難色を示したのは、自分の作った薬のレシピをオープンにすること。これもフレドリクの策が利いて、いい薬は取り分があるし他人の作った優れた薬も作れるのだから反対意見は早々に収まった。
会議は食事休憩を挟み、反対意見はフレドリクが先に手を打っていたから坦々と進む。フィリップは「どんだけ天才やねん」とフレドリクの頭を羨み、カイサたちは「殿下が寝ない!」と驚いている。
フレドリクの作ったプレゼン資料のおかげでほとんど揉めなかったから、会議は巻き巻き。今回は国の案を言うだけの会議だったので、2時間は巻いて終わった。
「では、次回はそちらの返答や優れた案を聞かせてください。早く終わり過ぎましたね……何か質問がありましたら、いくらでもお聞かせください」
あまりにも早く終わったのでヨーセフは質疑応答をしようとしたけど、全員意気消沈。天才フレドリクが完璧すぎて何も言えないらしい。
「はい! は~いは~い」
そんな中、空気を読まないフィリップが挙手。ヨーセフはチラッと見て無視しようと思ったけど、しつこいので当てるしかない。
「何が聞きたいのですか?」
「いや~。ここに帝都中の薬屋が集まってるんでしょ? 誰が一番優れた薬屋なのかと思って~……気にならな~い?」
「気にならないこともありませんが……」
「僕、あの人が一番の腕利きだと思うんだよね~。かわいいし」
「「「「「はあ~~~??」」」」」
フィリップが女性薬師を指名したせいで、最後の最後は大荒れ。薬屋たちは自分が一番だと、怒鳴り合ってケンカするのであったとさ。
薬屋たちがケンカするなか、ヨーセフはフィリップの説教。フィリップは聞く気がないので、薬屋のケンカをニヤニヤ見てる。
ヨーセフも暖簾に腕押しだと諦めたら、薬屋たちのケンカを仲裁。それで疲れたので、まだ時間は余っているけど質疑応答は終了となった。
「では、これにて……」
「待って! まだあるでしょ?」
「あぁ……またケンカを煽ってはなりませんよ?」
「わかってるって~」
フィリップが密命を帯びているのはヨーセフもフレドリクから聞いているので、渋々薬屋以外の人間を会議室から追い出す。
これまで薬屋は迫害されていたから、有力者と離されるのは怖いと訴えていたが、ヨーセフが頭を下げることでなんとか聞き入れてくれた。
「あっ、お姉さんは残って~。タイプなの~」
「薬屋以外は追い出せと言ったのはライアン君でしょ!」
「美人はいいのいいの。あ、カイサとオーセもかわいいけど、いまは出ててね~」
なのにキャロリーナだけ残そうとするので、ヨーセフは激怒。カイサとオーセは、「もうこんな人知らない!」って出て行きました。
残された薬屋たちは、ワガママなガキの傍若無人な態度が不思議でならないらしく、めちゃくちゃ警戒した目をしてる。さっきもケンカの種を撒き散らしてたもん。
「まあまあ。そんな顔しないの。僕は儲け話を持って来ただけだよ。とりあえず、全員、僕の近くに椅子持って来て座ろう」
フィリップのことを遊び人のキンさんだと知っているキムはすぐに動き出したから、他も動きは遅いがそれに続く。
フィリップはキャロリーナに椅子を持って来てもらったけど、何故か1脚だけ。それもキャロリーナが座るのでどういうことかと思ったら膝に乗せられた。抱きたかったみたいだ。
「もうねぇ~。余計なことしないでよぉ。関係がバレたらどうするのよぉ」
「アハハ。ゴメンゴメン。ま、僕はエロガキで通ってるから、これぐらいは大丈夫だよ」
いや、コソコソ文句を言うためらしい。
「ところで、なんで薬屋だけじゃなく、キャロちゃんまで来てるの?」
「それはぁ薬屋が殺されるんじゃないかと怖がったからよぉ。だからぉ、直訴してぇ、こういう形になったのよぉ」
「あ、一網打尽にされると思ったのか。そりゃ僕が残れと言ったら怖がるワケだ」
謎が解けた頃に全員座ったので、フィリップは真面目な顔で前を向く。キャロリーナに抱き締められているから、全員「なにふざけてんだ?」って顔をしてるけど。
「んじゃ、儲け話、第一弾ね。僕は死痛病患者の記録を集めてるの。記録の写本をくれたら、一律金貨10枚払うよ。少ない人は減額するけど、1人でもいたら金貨2枚出す。手間賃だ」
「「「「「お、おお!」」」」」
「ただし、架空の患者を作り出したりしたら、帝国のお偉いさんが怒るから気を付けてね。僕は助けませ~ん」
最低でも金貨2枚は確定されるので、薬屋も色めき立つ。
「んで、儲け話の第二弾ね。これは別にお願いとかじゃないから、やりたくない人は抜けてね」
たかが記録に大金を払うガキなのだから、薬屋は期待のこもった目を向けた。
「さっき誰が一番の薬屋か聞いたじゃない? たぶん、薬によっては順位が変わると思うんだよね~……だからさ。席の奪い合いするんじゃなくて、全員1種類の権利を確保するようにしたら、みんなハッピーじゃない? つまり、談合しちゃえって話」
「「「「「ほお~……」」」」」
「まぁ一番いい薬が基準ってのがベストってのは忘れないで。みんなも人を助けるために薬を作ってたんだから、わかってると思うけど」
談合案は、アリ寄りのアリみたいなので、フィリップはキムを立たせる。
「写本は、この店主のところに提出してくれたら、後日、金貨を届けるからね。詳しい書き方も聞いてね。以上! 僕の言いたいことはこれだけ~。仲良く金儲けするんだよ~?」
これにてフィリップの仕事は終了。キャロリーナと一緒に会議室から出て行くのであった。
そのせいでカイサとオーセが仕事を取られるのではないかと心配していたけど……




