414 中立派閥の動向
年末の式典とパーティーをカイサとオーセのマッサージで締めたら、翌日からは派閥のパーティーにフィリップも出席。いつもなら皇帝の膝の上に乗って会場に向かうのだが、皇帝は療養中なので1人。
フレドリクの馬車に誘われたけど、どうせルイーゼとイチャイチャしてるだろうからと思ってやんわり断った。兄のそんな姿、見たくないもん。
しかし、この大きくて豪華な馬車に1人は寂しいので、カイサとオーセも乗せて向かっている。通常なら従者は別の馬車だけど、その常識を知らないから嬉々として乗り込んでくれたよ。
まず最初にやって来た会場は、ダンマーク辺境伯派閥。皇帝がスケジュールを組んだのだから、フレドリクも踏襲してるのだろう。
そのフレドリクVSダンマーク辺境伯は、挨拶程度に話をしただけで別行動。フィリップはずっと「何も起こりませんように!」と祈って見ている。
フィリップの下へも貴族が挨拶に来ているけど、まったく目を合わせず。ずっとフレドリク、ルイーゼ、ホーコンの3人を目で追っているから話も聞いていない。
そうこうしていたら、制限時間が来たので皇族は退場。フィリップもホッと胸を撫で下ろして馬車に乗り込んだ。
「凄く豪華なパーティーだったね~」
「うん! アレが貴族のパーティーなんだね~」
カイサとオーセはうっとり。年末のパーティーは会場が広すぎたし、そもそもオッサンだらけだったので花がないもん。
ダンマーク辺境伯のパーティー会場はキラキラしていて、老若男女が着飾ってダンスまでしていたから、物語に入ったみたいだと感動したのだ。
「それなのにプーちゃんは何してたの?」
「誰の話も聞いてなかったよね?」
「ん~? 僕??」
「そうよ。プーちゃんよ。誰か探してたの?」
「あぁ~……そういえば、今年も見てないな」
「忘れてるね。これ」
2人に言われてイーダがいなかったことに気付いたフィリップ。フィリップが物忘れが酷いのは2人も承知しているが、誰を探していたかは思い出してもらいたい。
「誰って……あそこ、ダンマーク辺境伯の屋敷だよ?」
「「あの悪役令嬢の!?」」
「そそ。悪役令嬢は蟄居中だから帝都には来れないの。取り巻きの2人は来てるかと思ったんだけどね~……また集まって呪いの集会でもしてるのかな?」
「「悪役令嬢の取り巻き!? 詳しく!!」」
2人は城で生活するようになってからゴシックプネタが大好きになったので、悪役令嬢も大好き。脇役にまでスポットライトを当て出すほどだ。
派閥のパーティーを何軒もハシゴしたら、初日のノルマは消化。カイサとオーセは、贅を凝らしたパーティーを何軒も見たから目がチカチカするらしい。
この日も兄弟揃って皇帝の私室を訪ねたら、軽く報告や体調を話して解散。翌日からもパーティーに明け暮れる。
今日はフィリップの会いたい人がいる派閥だったので、ここ数日見せたことのない笑顔で対応だ。
「エイラ、ダグマー。久し振り~」
「「お久し振りです」」
元カノみたいな元メイドが揃っている派閥だからだ。
「それにしても仲良しだね~」
「はい。家族ぐるみの付き合いをしていますもの」
「領地も隣なので、時々どちらかの家を訪ねてるのですよ」
「へ~。いいな~。僕も遊びに行きたいな~」
「「殿下はちょっと……」」
「えぇ~。ダメなの~?」
フィリップはたまには遠出もいいかと思ったのに、2人は小声でダメな理由を告げる。
「陛下が倒れられたではないですか? 上の者は代替わりするのではないかと、皇太子殿下派閥に鞍替えしようと考えているみたいなのです」
「てことは~……第二皇子が派閥の者を訪ねたら邪魔することになるんだ」
「その通りです。私たちにも圧力が掛かっております」
「マジで~? 去年は僕の派閥を作りたいって言ってたのに~……2人のお家だけ、僕の派閥に入らない??」
「「それもちょっと……」」
さすがに伯爵家が2組だけでは心許ない。なんだったら、勝ち馬は皇太子派閥なんだから、馬鹿皇子に命を預ける馬鹿はいないだろう。
「よしっ! 派閥の長を紹介してちょうだい」
「「勘弁してください……」」
「おい、そこのお前! どいつがここの長だ。案内しろ!!」
「「ま、待ってくださ~い」」
2人が紹介してくれないなら、そのへんの貴族を捕まえて脅し。派閥の長であるグレーニング侯爵はフィリップが怒っていると聞いたので逃げ回っていたけど、カッパの頭みたいな頭が目立ったのか、ついにトイレで追い詰められた。
「ちょうどいいところで会えたね~……」
「な、何か御用で……」
「父上やお兄様の情報欲しくないかな~っと思って~」
「ほ、欲しいです! 私は何をすればいいのでしょうか!?」
「あ、皇太子派閥に鞍替えするって聞いたんだった。お前は僕の敵か~」
「ぐっ……ぐぬぬぬぬぬ……」
グレーニング侯爵は皇帝たちの情報が喉から手が出るほど欲しいが、第二皇子派閥になると確実に割りを食うから唸ることしかできないな。
「まぁ僕なんて嫌だよね~? だからあの2人だけは僕と仲良くさせておいたら? 手紙のやり取りとかしてたら、僕ならうっかりいらないことを書いちゃうよ??」
「お、おお! そうですな。あの2人は殿下と親交深いのですから、それぐらいのやり取りは普通ですね。そんなことで、私が口を出したりしませんよ~」
「んじゃ、そういうことで」
「ははっ!」
皇太子派閥にいながら他にも詳しい情報が入るなんて、こんな美味しい話はない。グレーニング侯爵は興奮して、フィリップの案を鵜呑みにするのであった……
「「ところでどうなったのですか?」」
フィリップが会場に戻ったら、エイラとダグマーが小走りでやって来た。
「これからも仲良くしていいってさ」
「本当ですか?」
「どう説得したのですか?」
「手紙のやり取りでいらないことを書いちゃうって言ったら、なんか気分良くなってたよ」
「「手紙……」」
フィリップの話を聞いた2人は顔を見合わせて同じことを言う。
「「そんなやり取り一度もしてません……」」
「本当だ! でも、僕はウソは言ってないよね?」
「「まぁ……」」
これは詐欺的手法。フィリップはありそうな話でグレーニング侯爵を騙したのだから、2人も引いてるよ。
「手紙は書きますので、返事は必ずください」
「私も書きますからお願いします」
「あ、うん。手紙は送りあおっか」
ただし、手紙のやり取りはないとグレーニング侯爵が怒りそうだと感じたエイラとダグマーは、必死の目でお願いするのでフィリップも受けるしかないのであった。




