412 皇帝名代フレドリク
年末の早朝……フィリップはカイサとオーセにムリヤリ起こされて「昨夜はどこに行ってた?」と問い詰められていた。フィリップがベッドから抜け出したあとに目が覚めたからバレたんだって。
行き付けの娼館や酒場にキャンセル料だけ払ったなんて恥ずかしいことを言えないフィリップは、「父上の様子を見に行った」との大嘘。プラス「式典の準備しないと!」と焦らせてうやむやにした。
超豪華な服に着替えたフィリップは、これまた豪華な馬車に乗り込んで中央館へ。カイサとオーセは、今日はズボンを穿いていたから「セクハラできないな~」とかセクハラ発言していたら中央館に到着した。
そこで皇帝付きのメイドに出迎えられて御案内。控え室に通されたら、ルイーゼとその専属侍女がいたのでフィリップは近付いて行った。
本当はルイーゼなんかと喋りたくないのだが、カイサたちが不安な顔をしていたから仕方がない。専属侍女に「面倒見てやってくれ」と頭まで下げて預ける。
これはほぼ脅し。人の目が多くあるのだから、専属侍女は快くはないけど引き受けてくれた。
専属侍女的には、カイサたちが何度かルイーゼのいい情報をくれたから、頼まれなくても面倒見ようとしていたので「余計なことを……」とか思ったんだって。
しばらく談笑していたら、フレドリクの入場。一気に空気はピリッと引き締まり、部屋にいる全員が頭を下げる。
フィリップもこういう場はわきまえているから背筋を正して頭を下げているのに、ルイーゼが喋り掛けて来るから迷惑そうにしてる。笑ってしまいそうだもん。
「フィリップ、おはよう」
「うん。おはよ~……ちょっと緊張してる?」
フレドリクが声を掛けてからようやくフィリップは顔を上げたけど、フレドリクの顔はいつもと違うように感じた。
「フフ。我ながら情けない」
「いや~。貴重なモノを見たな~。でも、お兄様なら、なんだかんだで決めるところは決めるでしょ。それとも、もっと貴重なモノを見せてくれるのかな~? お兄様が失敗したの卒業パーティーの1回切りだから、もう1回見たいんだけどね~」
「フッ……フフ。アハハハハ」
フレドリクが急に大笑いするので、周りは「馬鹿皇子が皇太子を怒らせた!」と青ざめる。フィリップも「やらかした?」と緊張だ。
「アハハ。そんなことを言うのはフィリップぐらいだ。ありがとう。緊張が解けたよ」
「う、うん……僕、何をしたんだろ?」
フレドリクに近しい者は「殿下なら素晴らしい式典になります」だとか「殿下が失敗するはずありません」だとか、必ず成功するような言い回しばかりだからプレッシャーが掛かっていた模様。
そこにフィリップが茶化して失敗を望んだから、初めてそんなことを言われたから笑ってしまったのだ。フィリップは本当に失敗が見たいだけなのに。
「さあな。そろそろ時間だ……行くぞ!」
「なんかしんないけど、お~!」
「お~!」
これまた珍しくフレドリクが気合いを入れたのでフィリップは乗ってあげたけど、続いたのはルイーゼだけだったので、「これも失敗なのでは?」と笑いそうになるのであったとさ。
式典は例の如く、皇族は2階テラスの豪華な専用席。貴族の長い長い行進も例年通り。唯一違うことは、フレドリクが皇帝の玉座に座っていることだけだ。
行進する者は、一糸乱れぬ動きをしないといけないので真っ直ぐ前を向いているから、玉座に誰がいるかなんて気付けない。フィリップは隣に座っているルイーゼを「これってお兄様が喋ったら凄いことになるんじゃない?」と笑わせていた。
ちなみにここは、カイサたちは立ち入り禁止。皇帝が選別した執事やメイドが、皇族や国の要職に就く者をお世話することになっているからだ。
ぶっちゃけ、各派閥に配慮した人選らしいけど、これはフィリップも知らない。興味ないから聞かないし、誰も教えないもん。
後日、カイサたちはフィリップから話を聞いて行進を見たがっていたから、次回は捻じ込んであげると約束してたんだとか。やってることは、上位貴族と一緒だ。
そうして長い長い行進が終わると、今度はコンラード宰相と騎士団長の長い長い説教。フィリップはこれも眠らずに乗り切ったら、ついにフレドリクが立ち上がった。
「皆の者……私がここに立つことに、さぞかし驚いたことだろう」
確かに貴族たちはフレドリク登場で驚いた顔をしたが、フレドリクの思っている驚きの理由とは違う。フィリップの目には、空から神が舞い降りたような神々しい姿に、貴族たちが目を奪われたように見えているのだ。
「皆も知っての通り、皇帝陛下は3日前に体調を崩した。だが、奇跡的に息を吹き返し、いまは体力を取り戻している最中だ。次回の式典には、必ずやこの場に立っている。その時まで、私が先頭に立って帝国を導く! 皆は私を支えよ! そして皇帝陛下が戻って来た際には、その経験を持ってさらに帝国を盛り上げようぞ!!」
「「「「「……はっ!!」」」」」
フレドリク渾身の演説に、貴族は我に変える。その後は、喉がはち切れんばかりに、フレドリクを称える歓声と万歳がいつまでも続くのだった……
「もうこれ、お父さんを立てる必要なくね?」
ここまで大人気なら、フレドリクが皇帝を称えるのは必要なかったのではないかと、心の声が口から漏れてしまうフィリップであったとさ。
長い長い万歳がやっと終わったら、今度は長い長い退場。フィリップは耐えられなくて、フレドリクが退場する前に眠りに落ちた。
気付いたら控え室のソファーに座っていたので「失敗したな~」と頭を掻いていたら、カイサとオーセが後ろからフィリップの耳に顔を寄せた。
「「殿下が寝てる間、大変だったんですよ」」
「気持ち悪っ……前で喋って」
人力ステレオ放送はゾワッと来たので、2人の言ったことは頭に入って来ないフィリップ。
「なんかあったの?」
「ですから~。ずっと寝てるから大変だったんですよ~」
「ルイーゼ様の膝枕で寝てたらしいんですよ~」
どうやらフィリップ、昨夜出歩いて朝早かったから眠りが深かった模様。そのせいで椅子に持たれて寝ていたのが、だんだん横に倒れてルイーゼの太股に頭を乗せてしまったのだ。
ルイーゼは特に気にせずフィリップの頭を撫でながら行進が終わるのを待っていたらしいが、警備をしていたカイにガッツリ見られる。
式典が終わったあとに、キレたカイがフィリップの首根っこを掴んで控え室に入り、起こそうと襟首を掴んで揺らしてたそうだ。
同じく警備を担当していたボエルは止めていたらしいが、「ざまぁみろ」と半笑いしてたとのこと。オーセとカイサには頼る人がボエルしかいなかったのに、そのせいで揺さ振りは止まらなかったんだって。
そこに聖女登場。ルイーゼが「フィリップ君はここ数日、徹夜でお父さんの看病をしてたんだよ!」と、内部情報を漏らしたんだとか。
カイサたちは「それ喋っていいの!?」とあわあわしていたら、ルイーゼが謝罪してフィリップを引き渡したんだってさ。
「それは~……寝ててよかった~」
「「いや、起きろよ」」
こんな大騒ぎだったのにフィリップはのほほんとしているので、カイサとオーセは冷たいツッコミを入れるのであった。
ちなみにその現場を見ていた人は大勢いたけど、カイの傍若無人の対応より、第二皇子の醜態ばかりが噂の的になったんだってさ。




