411 キャンセル
薬屋での用事が終わったフィリップは、真っ直ぐ帰宅。オーセたちはあの場所に何があるのか聞き出そうとしていたが、フィリップは喜ぶだけだ。
「「このブタ野郎!」」
「ブヒー!」
楽しいSM遊びとしか思ってないもん。御者をしてる者はフィリップが罵られてブヒブヒ言ってるから、だんだん怖くなったんだって。
城に着くとオーセたちもふざけている姿を誰かに見られたら怖いので、キリッとした顔にチェンジ。この顔はできるメイドモードらしいけど、チビッコ3人組が来たと微笑ましく見られるだけだ。
「遅くなってゴメンね~」
皇帝の私室に入ったフィリップは、もう夕方前なので怒られる前に謝罪だ。
「アレ? なんか揉めてる??」
許可を得て入ったのに、フレドリクと皇帝が言い争っていたから、フィリップとしては面倒事に巻き込まれたくない。
「父上が明日の式典に出席するときかないのだ。フィリップも止めてくれ」
「薬のおかげで痛みはないと言っておろう。フィリップも大丈夫だと思うよな?」
嫌な板挟み。どちらもフィリップを味方に付けようと入室を許可したのだ。そのフィリップは「言いたくないな~」と思いながらアガータに助けの目を向けたけど、頭を横に振られた。
「僕は~……式典だけならいいんじゃない? 座ってるだけだし。でも、そこまでしっかり歩いて行けたらかな? フラフラしてるところは家臣に見せたくないでしょ?」
なのでどっち付かずの答え。フィリップとしてはフレドリクに賛成だけど、皇帝の顔が怖かったんだもん。
「うん……そういうことなら私も賛成します。父上、手を貸しますから歩いてみてください」
「フッ。よく見ていろよ」
フレドリクはフィリップの意図に気付いて、皇帝に見えないようにウィンク。皇帝もフィリップが味方になってくれたと目配せした。
フィリップはフレドリクのウィンクにズキュンと胸を撃ち抜かれ、皇帝の目配せは睨まれたとビビって足がガクガクしてるけどね。
「父上。大丈夫ですか?」
「ま、待て。いまのは躓いただけだ」
その結果はフレドリクの勝利。人の手を借りてなんとか歩ける程度だったので、1人で歩いてヨロケたところをフレドリクが支えたのだ。
皇帝は認められないのか何度も試して「明日なら歩ける」と強がっていた。
「そのような無理をするから倒れてしまったのですよ。悪化したらどうするのですか。父上にもしものことがあれば、私たちはどうしたらいいのですか。まだまだ私たちには父上が必要です。何卒今回だけは、お体をご自愛ください。お願いします」
「……お、お願いします!」
フレドリクが必死にお願いして頭を下げたのに、フィリップは「私たち」の中に自分が入っているとは思っていなかったので出遅れた。
気付いたのは、皇帝がフィリップを見ていたから、アガータに助けの目を向けたら「頭下げろ!」ってジェスチャーしてくれたからだ。話の流れ的に自分なのに、家臣一同だと思っていたんだってさ。
「もういい。わかった。フレドリクもフィリップも明日の準備があるだろう。下がれ」
「はっ! 有り難き幸せ!!」
「……は、はっ! お大事にね~」
皇帝が折れてくれたのに、またしても出遅れたフィリップ。ケンカしていたのは2人だから「僕、関係なくない?」って思っていたっぽい。
ただ、返事をしてしまった手前、「せっかく会いに来たのにな~」と思いながらフレドリクの後に続くフィリップであった。
フィリップが隣の前室に移動したら、フレドリクからさっきのやり取りは助けられたと言われていたけど、フィリップは「なんのこと?」と、とぼけてやり過ごす。本当は、いまの体調と痛み止めのせいで歩けないと思っていたみたい。
その顔が本当に気付いてないように見えたフレドリクは、ただただ頭を撫でていた。フィリップはこれに関しては本当に「なんのこと?」って思ってるけど。
フィリップも報告があったので、薬屋から聞いたメモを渡して、詳しい内容は写している最中だから後日提出すると報告したら、撫で回しは激しくなっていた。
「なんで撫でるの?」
「いや……フィリップの頭を撫でるのは、けっこう気持ちいいモノだと思ってな。どうりで父上がやめないワケだ」
「子供扱いしないでよ~。てか、父上にもやめるように言ってよ~」
どうやらフィリップのクルクルパーマ、新感覚で撫で心地は病み付きになるほどらしい。だからフィリップの訴えは全て却下だ。
「そういえば、フィリップは体調良さそうだな」
「話変えないでよ~」
「これなら明日の式典もパーティーも大丈夫そうだな」
「だから~……え? いま、なんて言った??」
「式典とパーティだ。父上にも準備しろと言われていただろ?」
「う、うん。ダイジョブ……」
フィリップ、今回の皇族の仕事はブッチしようとしていたのに、皇帝が倒れてしまったので仮病を使うことを忘れる。
さすがにこの大変な事態では、フィリップも仮病を使うことができないと、トボトボ帰路に就くのであった。
根城に帰ったフィリップはカイサとオーセに襲われ掛けたけど、明日の準備で忙しいとお断り。2人も何をしたらいいのかわからないので、ボエルの取説を見ながらフィリップにも習う。
そうこうしていたら寝る時間となったから、明日のためにマッサージはちょっとだけ。2人がよく眠れるように、フィリップが超絶技巧のマッサージで倒したともいう。
フィリップがそんなことをしたのには理由がある。皇族の仕事を思い出しただけではなく、毎年恒例のイベントもすっかり忘れていたのだ。
「ゴッメ~ン! 予約キャンセルし忘れてた~。女の子たちにお金渡しといて~」
それは、10人もの娼婦を侍らせるゲスイ誕生日パーティー。かなり前から予約していたのだから、ドタキャンは店に多大な迷惑となるから急いで来たのだ。
「あの……キンさんの身内に不幸があったと、奴隷館のオーナーがキャンセルしたので損失はないのですが……」
「え? キャロちゃんそんなこともしてくれたの? やっぱりとんでもなくいい女だな」
キャロリーナは、フィリップのことだから忘れているだろうと手を回してくれていたので感謝。出したお金は受け取れないと言われたけど、「娼婦に御祝儀だ」とムリヤリ握らせたフィリップ。
「せめて寄って行ってください。2人は体が空いていますので」
「それが予約していたのここだけじゃないんだよね~。急いでるから、もう行くね。よいお年を~」
「よ、よいお年を……」
10人では足りないのかと、呆れてそれ以上言えない店長であった……
「えぇ~。ここもキャンセルされてるの~? ここはキャロちゃんの系列店じゃないのに~」
娼館だけじゃなく酒場もクラブも全てキャンセルされていたので、キャロリーナがストーカーに見えて「いい女というより怖い女なのでは?」と、意見を変えるフィリップであったとさ。




