407 痛み止めの処方
皇帝が目覚めたのだから、私室はお祭り騒ぎ。しかしアガータが「お静かに!」と怒鳴ったら、全員お口チャックだ。病気の皇帝がいるもん。
フィリップも釣られてお口チャックしていたら、アガータに背中を押されて皇帝の傍に寄った。
「父上。倒れたこと覚えてる?」
「倒れた……そうか……俺は倒れたのか……」
「まだ頭がハッキリしてないよね。でも、これだけは聞かせて。痛いところない? 何かしてほしいことない?」
「水……水をくれ」
「お婆ちゃん」
「はっ」
アガータたちが数人掛かりで皇帝の体を起こして水を飲ませると、フィリップはもう一度目を見て質問する。
「お願いだから我慢しないで。体中痛いでしょ? それは病気だから、仕方がないことなの。この薬を飲めば、その痛みが無くなる。無くならないなら、もっといい薬もある。弱いところを家臣に見せたくないなら、全員外に出して僕だけで聞く。ね? 無理しないで」
「うむ……外に出ろ」
フィリップの訴えはなんとか通じたので、家臣一同は前室で待機。残ったフィリップは、痛みの度合いを聞いて弱い痛み止めを飲ませた。
「効果が出るのは10分は掛かるからもうちょっと我慢してね。効かなかったら、強いの出すから。あ、そうだ。家臣に痛いと言えないよね? 痛い場合は、クスリって合い言葉にしない? それなら弱ってるように聞こえないよ」
「フッ……ハハハハ」
フィリップが喋り続けると皇帝は笑い出したので首を傾げた。
「僕、何か面白いこと言った?」
「いやなに。一端の神官みたいなことを言うのでな」
「いまのは薬屋の受け売りだよ。皇族としての立場を踏まえてのね」
「それだ。さっき飲んだ物は、薬屋から手に入れたのか? どういう経緯でこうなっているのだ??」
「んっとね。父上が倒れてから、神官や聖女ちゃんが力を尽くしてくれたの。でも、改善しなかったから藁をも掴む想いで僕が薬屋を頼ったの。出過ぎたマネをしてごめんなさい」
フィリップが謝ると、皇帝が手を伸ばして「頭を持って来い」と言うので差し出したら優しく撫でられた。
「フィリップに助けられたというワケだな。助かった。感謝する」
「そんなのいいよ。僕はできることをしただけ。感謝するなら、あのとき薬屋を認めてくれたお兄様の英断だよ。薬の使用も、自分の責任でやってくれたんだからね」
「誰もいない今ぐらい謙虚になるな。そもそも薬屋の発端はフィリップからだろう。おっ……痛みが引いて来たぞ。ありがとうな」
「もう……」
そこまで言われると、フィリップも照れちゃう。その照れ隠しで痛みの度合いを聞いたらまだ痛みはあるみたいなので、次回からは中級の痛み止めを使うことに決まった。
「朝方にも使ったから、3時頃までは我慢してね。使い過ぎると逆に体に悪いと聞いてるから。そうだ! お腹は空いてない? 食べたくなくても、2日も寝てたんだから、スープぐらいは飲んでもらうからね」
「ああ。もらお、う……」
皇帝が言い淀むので、フィリップはまた首を傾げた。
「ん? また痛みが出た?」
「違う。俺は2日も寝ていたのか?」
「正確に言うと、1日半ってところ」
「いまは何日の何時だ?」
「29日の……もうすぐ11時だね」
「マズイ……」
皇帝は右手で頭を押さえたのでフィリップは意味がわからない。
「どうしたの? 頭が痛いの??」
「違う。いまはフレドリクが俺の代わりしているのだろ?」
「うん……お兄様しか代われる人いないし」
「それがマズイのだ。いまは、ダンマーク辺境伯との面会時間だ」
「えぇ~~~!!」
ホーコン・ダンマーク辺境伯といえば、フレドリクに婚約破棄されたエステルの父親。平民に心を奪われ婚約破棄したのもフレドリクなのだから火に油だ。
「フィリップ、面会をなんとしても阻止しろ。もしも手遅れなら、どんな手を使ってもいいから、辺境伯を帝国から離れないようにしろ」
「うん! 父上はごはんちゃんと食べてね~~~!!」
急転直下。帝国の危機となり得るダンマーク辺境伯離反は、フィリップの手の中に委ねられたのであった。
フィリップはエステルとの結婚のために動いているけどね。
結婚の危機にフィリップは焦って飛び出すと、前室で待っていたアガータに早口で指示。カイサたちもいたので「そのへんで座って待ってて!」と適当に指示を出したら走り出す。
フィリップが廊下を走っていたら、それを見た貴族たちに「あの馬鹿、マナーも知らんのか」と噂される。
そうして皇帝から聞いた応接室が見えたら、そこからデカいオッサンが出て来た。
「アレは……アウト!?」
新婦予定の人物の父親なのだから、フィリップだって珍しく顔を覚えている。応接室から出て来た人物は、間違いなくホーコン・ダンマーク辺境伯だ。
その顔は怒りの表情で、ドアを閉めたあとに腕を振り上げていたからいまにもドアを殴り壊しそうだ。
「わっ……」
フィリップはホーコンに気付いた瞬間に急停止しようとしたけど、足が滑ってすってんころりん。背中を打ったあとは慣性の法則には逆らえず、ツルツルと床を滑ってた。
そのコースは絶妙で、ちょうどホーコンの下へ向かい、さらに綺麗に半回転してホーコンの足元にフィリップの頭が収まって止まった。
「フィ、フィリップ殿、下……?」
「や、やっほ~……」
超気まずい2人。ホーコンは怒りの姿を見られたことと、フィリップが変な登場の仕方をしたので頭が真っ白に。フィリップは事故で変な登場をしてしまったから恥ずかしくって時が止まる。
「プッ……」
「ブッ……」
「アハハハハ」
「わはははは」
もう笑うしかない。フィリップが笑うと、ホーコンも釣られて笑ってしまうのであったとさ。




