405 いい女
「あ、そうだ。これあげる~」
薬屋のキムから必要な薬を買って脅しておいたフィリップは、ショルダーバッグから液体の入ったビンを数個取り出してテーブルに乗せた。
「これは?」
「ポーション。聞いたことぐらいあるでしょ?」
「こ、こんな貴重な物を……」
「各種状態異常のポーションもあるから、作れるか研究しといてよ。特に麻痺ポーションは、死痛病にも使えるか早く知りたいな~?」
「はいっ! ちなみに優先順位は、ポーションからでよろしいのですか?」
脅し過ぎたかもしれないのでフィリップがアメを渡したら、キムはポーションに興味津々。薬屋としては、貴族にしか出回らない薬がいつも気になっていたのだ。
「う~ん……麻痺ポーションの次は、避妊薬がいいんだけど」
「それだと時間が掛かり過ぎますよ~~~」
でも、フィリップが新薬を欲していたので、いつになったらポーションに取り掛かれるのかと嘆くキムであったとさ。
今までフィリップに協力していたキャロリーナだが、落胆するキムがちょっとかわいそうなので助言。避妊薬は腕のいい人に譲ればポーションを研究する時間が取れると折中案を出していた。
しかし避妊薬が成功すれば、多大な研究費と利益が約束されるので、キムも大いに悩む。ひとまず麻痺ポーションから取り掛かってから業務委託は決めるみたいだ。
とりあえず欲しい薬は全て手に入ったから帰ろうとしたら、隣の待合い室に移動したところでキャロリーナはフィリップの首根っこを掴んでテーブル席に座らせた。
「どったの?」
「ひとつ聞きたいことがあるんだけどぉ……ライアン君が危険を冒してまで直接出向くってことは、もしかして痛み止めが必要な方は、あの方なのでは?」
キャロリーナが神妙な顔で質問すると、フィリップは悩む仕草をしてしまったので、失敗したと表情を崩した。
「さすがキャロちゃんだね~。症状のことはまだ僕の侍女や騎士も知らないことだから、絶対に表に出さないでね?」
「ウ、ウソ……治らないなんてウソよね?」
「それは神のみぞ知るだよ。僕は最悪のケースを想定して動いてるの。少しでも苦痛を取り除けるようにね」
「その最悪のケースって……もう長くないってこと?」
「うん。もって半年。奇跡が起きて1年。早いと1ヶ月以内……キャロちゃんも覚悟しておいて」
驚愕の表情で話を聞いていたキャロリーナだったが、フィリップの冷淡な言い方のおかげで冷静さを取り戻した。
「ライアン君は大丈夫? 肉親でしょ??」
「まぁ……いまのところはね。昨日お兄様とやり合ったから、冷静になれたってのもある。その時が来たらわからないけど……」
「そうよね……あたしに何かできることがあったらぁ、なんでも言ってよねぇ」
「うん。その時は頼むよ」
こうして2人はもう少し喋ってから、薬屋を出るのであった。
馬車に乗り込んだフィリップは、徹夜が堪えたのかコテン。キャロリーナの太股とお胸に挟まれて幸せそうな顔で眠る。
そのだらしない顔を正面から見ているカイサとオーセは、何か言いたそうだ。
「あなた達ぃ……」
「「はひっ!」」
それを察したキャロリーナが声を掛けると、2人はビックリしたのか声が裏返った。
「取って食べたりしないからぁ、そう緊張しないでぇ」
「「はあ……」」
「ライアン君にぃこんなにかわいいメイドさんがいたなんてねぇ。もう長いのぉ?」
「い、いえ。夏からです」
「そうなのねぇ。ところで彼のことわぁ、2人とも好いてるのぉ?」
「好きと言えば好きですけど……」
「で……主人は女癖が悪いので……」
「ウフフ。それは大変ねぇ」
キャロリーナはカイサたちのことを知ってるクセに、知らないテイで会話を続ける。
「あたしもライアン君のこと大好きよぉ。だから2人に頼みたいことがあるのぉ」
「頼み、ですか……」
「ええ。これから彼に辛い試練が訪れるわぁ。その時わぁ、一番近くにいるあなた達に支えて欲しいのぉ。お願いねぇ」
「はい。できることなら……」
予言めいたことを言われたカイサは、なんのことがわからなくても無難な返しをする。それとは違い、オーセは……
「キャロリーナ様は、占いもできるのですか?」
空気が読めない。なのでカイサは驚いて横向いてる。
「ウフフ。そんなんじゃないわぁ。ただの女の勘よぉ。ウフフフ」
「女の勘……カッコイイ……どうしたらキャロリーナ様のような女性になれるのですか?」
「オーセ。いい加減にしなさい。キャロリーナ様に失礼でしょ」
「いいのよぉ。こんなにかわいい子に褒められてぇ、喜ばないおばさんなんていないわよぉ」
「おばさんなんてとんでもないです!」
「私も正直言いますと、キャロリーナ様のようになりたいです……」
「そうねぇ……女を磨くことわぁ、怠っちゃダメねぇ」
馬車が奴隷館に着くまでキャロリーナのいい女講座が続き、カイサとオーセは終始尊敬した目をしていたのであった。
フィリップが目覚めたのは、馬車が城に着いてから。キャロリーナがいなかったのでカイサたちに聞いたら、違和感が凄い。
「キャロリーナ様わぁ、奴隷館で降りて行きましたわぁ」
「殿下にぃ、よろしくと言伝を頼まれましたわぁ」
「2人とも何それ? オーナーの口癖が移ったの??」
「「いい女の喋り方よぉ~」」
どうやら2人は、習ったことをすぐにやりたいお年頃らしい。
「う~ん……似合わないな。普通にしてよ」
でも、フィリップは辛辣だ。
「「なんでよ~~~!!」」
「わっ! ここ玄関だから! 大声出しちゃダメだって~」
「「あっ……」」
それで2人が怒ったので、その現場を数人の貴族にバッチリ見られてしまうのであった。
もちろん貴族の間では、「第二皇子は少女にもナメられている」と一気に広がったらしい……




