403 初めての薬屋
皇帝が倒れた次の日。夜通し看病していたフィリップは昼まで寝て、カイサたちに起こしてもらった。その時「こんなに早く起きてくれたの初めて」と、2人は感動していた。
目覚めたフィリップはメイドの食堂で早く食べられるカレーライスを掻き込む。カイサとオーセも、いつ食べても美味しいと舌鼓を打っていた。
「まだ食べてなかったの?」
「殿下が食べるって聞いたから食べたくなったみたいな?」
「ランチ、2食目なんだ……」
「だから小にしたみたいな?」
「太っても知らないよ~?」
2人はカレーの誘惑に負けたっぽい。しかしフィリップが急いでいるなら待たせるワケにはいかない。2人も掻き込んで「絶対太る」と呟いていた。
お腹がパンパンになったチビッコ組は、また皇帝が眠る私室へ。フィリップだけ入って病状を聞いたら容態は変わりがないそうなので、もう少し外すと言って退室した。
その足で城も出たら、護衛騎士に準備させていた外装だけ普通の馬車に乗り込み出発。帝都学院脇の道を抜け、平民街を走る。
その車内でフィリップは、平民に見えるコートを羽織ってお昼に遊ぶ用の茶髪のカツラを被り、カイサたちも上着だけ質素な物に変える。そうしてお喋りしていたら目的の場所に到着した。
「ここって……アレだよね? 女性が近付かない……」
「うん……お母さんが絶対に近付くなって言ってた場所だ……」
「怖かったら馬車で待ってて」
「「あっ! 待って~」」
フィリップが入って行った建物は奴隷館。だからカイサたちは二の足を踏み、護衛騎士2人は「初めて中に入る。ヒャッホ~」と心を躍らせて続く。その他は羨ましそうに見てるよ。
中に入ると、接客担当の女性奴隷が何か気にするように寄って来たので、フィリップはしゃがませて耳を拝借。「ボクボク。キンさん。周りには秘密」と告げたら、女性奴隷は奥に走って行った。
女性奴隷が戻って来たら、カイサたちにVIP対応をさせてフィリップだけオーナールームへ。護衛騎士は女性奴隷に囲まれて動けないと言うよりは動きたくないみたい。
「こんな時間に従者まで引き連れて来るなんてぇ、何かあったのぉ?」
オーナールームに入ると、キャロリーナは羽織っていた上着を脱いで肩を出した。やる気満々だな。
「急ぎで腕のいい薬屋を紹介してほしいの。誰かいない?」
「もう隠す必要はないからいいけどぉ……誰か急病なのぉ? それなら神殿を頼ったほうがいいんじゃなぁ~い?」
「神殿じゃ無理なの。何も聞かず薬屋に会わせて。お願い!」
「……ちょっと待っててぇ。すぐ準備するわぁ~」
フィリップが必死に見えたキャロリーナは、高そうな毛皮のコートを赤いドレスの上から羽織り、フィリップと一緒にオーナールームを出る。わざわざ案内してくれるそうだ。
そうして1階のラウンジに下りてカイサたちと合流すると、目が点。フィリップがドエロイお姉さんを連れて来たから驚いたっぽい。
その視線に気付いていたフィリップであったが、さっさと外に出たらカイサたちは走って追って来た。
馬車に乗り込むと、キャロリーナの指示で発車。御者をしている2人は、そのエロイ声で前屈みになったんだとか。カイサとオーセは対面に座るフィリップが気になって仕方がない。
「何その目? 言いたいことがあったら言ってよ」
なのでフィリップが催促すると、2人は頷き合ってオーセから喋る。
「どうして膝の上に乗っているのかと……」
「お胸に挟まれているのはどういうことかと……」
そりゃフィリップがキャロリーナの膝の上に座って頭は大きな胸に挟まれていたら、誰だって気になるってものだ。
「あぁ~……この人、息子さんに先立たれてね。僕が息子さんに似てるから、必要以上にかわいがって来るの。ね?」
「ええ。出会った時は驚いたわぁ。本当に似てるんだものぉ。だからついつい甘やかしちゃうのよねぇ~」
「「これが甘やかし……」」
フィリップの嘘にキャロリーナが合わせてくれたけど、カイサたちは納得いかず。どう見ても痴女が少年にイタズラしてる図なんだもん。
その少年も時々キャロリーナの胸を両側から持って顔にポヨンポヨンと当てて遊んでいるので、どっちが被害者で加害者かもわからなくなって、カイサとオーセは考えることをやめた。
そんなエロイ2人を見ていたら、馬車は停車。とある建物に入って2階に上ると、フィリップとキャロリーナ以外はドアの外で待たせる。
その部屋は変わった作り。長方形に長く、奥行きがあまりない。薬屋と聞いていたのにビンも無ければ棚も無く、奥にカーテンの掛かった小窓とテーブル席しかないのでフィリップはキョロキョロしていた。
するとキャロリーナが小窓を小刻みに叩いて音を出すと、しばらくして小窓が開き、黒髪の中年男性が顔を出した。
「これはこれはキャロリーナ様。今日は何か入り用ですか?」
「あたしじゃないわぁ。こちらの御方がぁ、欲しい物があるのよぉ」
「……御方??」
「キンさんという名前ぇ、聞き覚えあるでしょぉ?」
「ハッ!? あの!?」
キャロリーナが少年を尊大に紹介したから薬屋は首を傾げたが、キンさんは多大な寄付をしていたから知っていたようだ。
「昼間はボンボンのライアンでやってるの。誰にも知られたくないからそっちで呼んでね」
「は、はいっ! どうぞ。こちらにお越しください」
フィリップが自己紹介すると薬屋はこちらに来いと言って姿が消えたが、数秒後には壁がガラッと横にズレて姿を現した。
「なるほどね~。変な部屋だと思っていたら、隠し部屋があったんだ」
「ハハハ。何分、身に危険がありましたもので。安全と聞いても、どうもこのほうが落ち着くんですよ」
「そりゃそうだ。習慣はそうそう抜けないよね~」
部屋の謎が解けたとフィリップは気分良く隣の部屋に入ると、その壁は再び閉じられたのであった……




