401 根城での誕生日パーティー
フィリップの出るつもりもない式典用の豪華な服が完成し、カイサとオーセのメイド服等もサイズ調整が終わって数日。フィリップの16歳の誕生日となった。
去年はペトロネラが大規模な誕生日パーティーを開いてくれたけど、今年はナシ。派閥の勧誘が多かったから、フィリップに不評だったもん。
というわけで、身内だけのこじんまりしたパーティー。いちおう城にはフィリップの知人が少なからずいるから「暇なら来る?」って招待状を出したらほとんどの人は忙しいとのこと。
短時間の挨拶で終わらせるみたいなので、その日のオーセとカイサはなんとも言えない顔だ。
「その目、やめてくれない?」
「だって~。皇子様の誕生日なのよ? すっごい豪華なパーティーを期待してたのに~」
「それに1人も正式に参加しないって、どうなってるの? プーちゃん皇子様でしょ?」
「この時期はみんな忙しいから、いつもこんなもんだよ? 父上に祝ってもらったのも1回だけだもん」
「それは寂しいね……」
「ちょっとはね。あと、オーセ。僕が大規模なパーティー開いたら、オーセは皆を持てなす側だから楽しめないよ?」
「そうだった!?」
カイサはフィリップの気持ちを汲んでくれたけど、オーセは出席者気分。パーティーで働かないといけないなら、こじんまりしたパーティーで美味しい物を山ほど食べたほうがマシとまで言ってるよ。
誕生日パーティーの会場は1階の庭が見えるエントランス。護衛騎士も1人ずつ呼び出して、いつもより豪華な料理に舌鼓を打つ。
「これってなんのパーティーですか?」
「僕の誕生日パーティー」
「はい? おおおお、おめでとうございます!!」
「アハハ。その顔もっと見たいから、他の人には黙っててね~」
ただし、護衛騎士には何も伝えていないので、ドッキリ大成功。カイサとオーセは、家臣にぐらいちゃんと伝えろと説教してる。
そんなことをしていたら、チラホラとフィリップの誕生日を祝う者が現れる。リネーアとコニーの城勤めカップル。忙しいはずのペトロネラ。引退したのに頼られて忙しいアガータ。
近衛騎士で持ち場を離れられないボエルは、休憩時間の合間に走って来てくれた。
ボエル以外はプレゼントを用意してくれていたのでフィリップも感謝。ボエルにはそのことを教えてからかう。
ほとんどの人は20分程度で席を立ち、ボエルはお昼がまだだったので、10分間に詰め込めるだけ腹に詰め込んで出て行った。フィリップたちは「けっこう食いやがったな」って、ちょっと引いてた。
朝の遅くから始まった誕生日パーティーは、夕方前にお開き。カイサたちの片付けをフィリップも手伝っていたら、護衛騎士が走って来て「主役が何やってんだ?」という目で見られた。
「なんか用があったんじゃないの?」
「……は、はっ! ラーシュ・ファーンクヴィスト様が参られております。お通ししてよろしいですね?」
「ラーシュ? なんの用だろ……」
フィリップが首を傾げると、カイサとオーセも首を傾げた。
「なんの用も何も、誕生日パーティーに駆け付けてくれたんでしょ」
「プーくん、招待状出したんでしょ?」
「招待状? ……あっ!?」
「「また忘れてたんだね……」」
その通り。フィリップがラーシュと会ったのは夏の1回だけだから、完全に存在を忘れてた。護衛騎士にラーシュを連れて来てもらったら、ラーシュも怒り爆発だ。
「ペトロネラ様には招待状を出しているのに、どうして私にはないのですか!?」
「そっから漏れたか~……ちなみになんでこの時間になったのか聞いてもいい?」
「それは~……そんなのどうでもいいじゃないですか。お誕生日おめでとうございます」
「忘れてた! この顔は忘れてた顔だよね!?」
「「どっちもどっちですね」」
忘れてた問題はドロー。ラーシュもペトロネラから聞いて思い出したから、焦って来たんだもん。だからカイサとオーセも、ドローと言わざるを得なかったのだ。
「とりあえず、一杯やってく?」
「はい。まさか殿下とお酒を飲む日が来るとは……」
「普通に来るよ。なに父親目線で語ってんの?」
「少しぐらい感慨深く思ってもいいではないですか~。大変な事件を共に乗り越えた仲じゃないですか~」
「ひょっとして……もう飲んでる? ちょっ、近いって。あと、クーデターの時、ラーシュは役立たずだったよ??」
「私だって、他国の騎士をまとめて寮を守り切ったんですよ!」
「肩組むな。噓つくな。ラッパ飲みするな。それ、一番いいワインだから!!」
どうやらラーシュ、ここに来る前にペトロネラに飲まされていた模様。飲み方も教わったのか、めちゃくちゃ馴れ馴れしくフィリップに絡むのであったとさ。
ラーシュがうっとうしいので押し返し、カイサとオーセを両側に置いてハニートラップを仕掛けたフィリップは、護衛騎士を呼んでラーシュの乗って来た馬車も玄関に呼び寄せる。
そうしてラーシュの弱味を作って待っていたら、護衛騎士が全速力で走って来た。
「1人? もう1人連れて来て、こいつを馬車に放り込んで」
「そ、その件で急いで来たワケではありません。たったいま、皇帝陛下の近衛が火急の知らせだとこの手紙を置いて行きました。直ちに開けるように進言するようにとも言われております」
「火急の知らせ? なんだろ??」
フィリップも皇族の端くれ。手紙の色で切迫度の意味がわかっているので、おふざけなしで手紙を読む。
「プーちゃん。どうしたの? 顔色悪いよ??」
「陛下に怒られたとか?」
フィリップはたまに皇帝に会うことをゴネていたので、カイサとオーセは的外れな質問をしてしまった。
「僕は先行して中央館に急ぐ! 騎士は1人だけついて来い!!」
「「え? 私たちは??」」
「待機! シルバー! 来い!!」
「「「「「殿下~~~!!」」」」」
フィリップは早口で指示を出すと、目の前の窓から飛び出し大声で黒馬を呼んだら、鞍もつけずにしがみついて走り去る。
そんな焦ったフィリップを見たことのないカイサたちは、大声で呼び掛けることしかできないのであった……




