040 校舎の案内
入学式でフィリップがやらかしてラーシュを泣かせてしまったので、ダグマーからラーシュだけには本当のことを教えてあげたほうがいいと助言を受けた。
なので渋々ラーシュの部屋を訪ねてフィリップが事情を説明したけど半信半疑。しかし、ラーシュはフレドリクを敬愛しているので、フィリップがこのまま無能でいたほうが帝国のためになると受け止めた。
その翌日は、寮の隣にある校舎に集まった入学生一同。1年生のクラスはふたつあり、厳正な抽選の結果、各国の生徒が割り振られたと聞いたけど、一組はほとんど貴族のトップクラスだったからフィリップは怪しんでいる。
「てかさ~……この椅子ってどうなの??」
あと、教室の中央の一番後ろに設置された大きな玉座は、フィリップに不評。自己紹介が続いているのに、前に座るラーシュに文句言ってる。
「それほど帝国は権威があると言うことです」
「いや、絶対罰ゲームじゃん!!」
1人だけ王様みたいな椅子に座らされたフィリップは、納得いかないと大声出すのであったとさ。
自己紹介が終わると施設の案内があると聞いたので、ラーシュを伴って歩くフィリップ。いや、半分押されているから、行きたくないとか文句でも言ったのだろう。
ちなみに護衛やメイドは、全員1階で待機している。学び舎も寮と同じく、できるだけ子供どうしの親交を妨げない措置みたいだ。
勉強をする校舎の1階には従者の待機場所と食堂。2階が1年生のフロア、3階では2年生が勉強している。その隣には似たような建物があり、3年生と4年生のクラス。もうひとつ隣には5年生が学んでいる。
講堂と図書館と体育館を含めると、計6個の建物。それと運動場が寮を囲むように隣接しているとのこと。
もちろん一周回るとそれなりの距離があるので、フィリップはブーブー言ってラーシュを困らせていた。しかし、最後に連れて来られた飾りっ気のない四角い建物には興味津々だ。
「おお~。ダンジョンなんかあるんだ~」
そう、RPG大好きなフィリップには辛抱堪らん施設なのだ。
「ここは地下20階もあるらしいですよ」
「マジで??」
「はい。でも、授業で使わないらしいです」
「……なんで!?」
「なんでと聞かれましても……危険だからじゃないですか??」
「せんせ~い。ラーシュ君がダンジョンに入れないのかと聞いてま~す」
「殿下!?」
ラーシュのせいにして質問してみたら、去年、地下2階で生徒の死者が出たから立ち入り禁止になったらしい。被害にあった生徒の父親が騒ぎ倒したからとも言ってた。
それまでも3階までしか使われていなかったから、いまは1階だけを使おうかと各国で協議中。なにぶん全ての国から許可を得ないといけないから、今年中に決まるかは神のみぞ知るだってさ。
「殿下はそんなにダンジョンに興味があったのですか?」
「ぜんぜん。入れないって聞いたら入りたくなったみたいな?」
「天邪鬼!? 危険ですから、絶対に入ってはダメですからね!!」
「そうなの? じゃあ入ってみよっかな~」
「間違えた!?」
ラーシュが必死に止めるので、フィリップも「その熱意に負けた」と、ダンジョンに入らないと約束したのであった。
「本当ですね?」
「信じてよ~……あの子、かわいくない??」
「大丈夫そうですね……」
フィリップがエロイ目をしているので、疑っていたラーシュも信じてしまうのであったとさ。
カールスタード学院を一周回ったら、ちょっと早いけどお昼休憩。各国のメイドが生徒の世話をして昼食を食べさせたら、午後の授業となった。
といっても、今日回った施設の復習をするだけ。図書館なんかの利用カード等が配られていた。
そんな中、フィリップは突然立ち上がって、窓際の一番後ろに座っている気の弱そうな男子に近付いた。
「ねえ?」
「ははは、はい!」
先生が喋っているのに、フィリップが堂々と歩いて来て声を掛けたから男子もビックリだ。
「僕の席と交代してくんない?」
「え……あそこに僕が……」
「嫌なの??」
「いえ! 嬉しいな~……」
「ありがと~う」
罰ゲーム席……いや、玉座を見て嫌そうな顔をした男子であったが、フィリップに睨まれたからには席を代わらないわけにはいかない。荷物をまとめて走って行った。
そのフィリップはというと、椅子に座った瞬間に机に突っ伏して寝ようとしたが、ラーシュに首根っこを掴まれて寝かせてもらえない。
「何してるんですか……」
「見ての通り、席替え。いい人もいるもんだ~」
「彼があの席に座ったら変でしょ!」
「いや、僕も大概変だよ? 見たよね僕が座ってるとこ? あんなの馬鹿が座る椅子だよ~」
「プッ……お似合い……ではありませんではないでしょうか」
「なんて? 笑った時点でわかってるけどね!」
どうやらラーシュも変だと思っていたけど、昨日の仕返しに何も言わなかったっぽい。なのでフィリップがギャーギャー文句を言っていたら先生がやって来て、玉座を窓際に移動する折衷案を出した。
「問題は位置じゃないの。玉座だよ! みんなと同じの持って来て!!」
それは折衷案でもなんでもなかったのでフィリップは怒鳴り付けたけど、今日はもう授業はないから明日までに持って来ることになり、玉座に座らされた男子は残り時間をいたたまれない気分で過ごしたのであったとさ。




