387 二度目の拷問
カイサたちから護衛騎士の名前を何度も教えられていたら夕方前に護衛騎士が呼んでいたので、フィリップは1人で下の階に逃げて話を聞く。
この護衛騎士はメイド長から情報を手に入れる係りだったけど、ペトロネラの情報のほうが優れていたから必要なかったね。せっかく待ったのに無駄になったと言われてヘコンでいたよ。
そんなかわいそうな護衛騎士と慰める護衛騎士2人を引き連れたら、地下牢に顔を出した。
「アレ? 拷問したの??」
鉄格子の前に立つと昨夜の侵入者、黒髪の男は顔にアザがあったのでフィリップは首を傾げた。
「はっ。殿下のお手を煩わせる必要はないかと思い、話を聞き出しておきました」
「そんなのいいのに~」
「はい?」
前回は拷問もしてないのかと言っていたのに、今回は真逆のことを言うので護衛騎士も混乱だ。
「いや、何も喋らなかったでしょ?」
「いえ……いちおう神殿の使いと……」
「それを何も喋ってないと言うの。首謀者は皇太子派閥のお偉いさんって言ってるでしょ。忘れてる?」
「し、真に迫る言い方でしたので、騙されてしまいました。申し訳ありませんでした!」
護衛騎士が謝罪すると、フィリップはため息を吐く。
「はぁ~……そもそもこいつ、プロの暗殺者だから、簡単に口を割らせられないよ?」
「……へ?」
「あ、ちょっと動揺した。バカな第二皇子に一発で当てられたのは、プライド傷付いちゃった? ゴメンね~。プププ」
フィリップが馬鹿にするように笑うと、とぼけた声を出してしまった暗殺者ヤルマルはムッとする。
「私は神殿に雇われた兵士です。人殺しを生業とする暗殺者と一緒にされるなんて、これほどの侮辱はありません。だから怒っていたのですよ」
「えぇ~! 暗殺者じゃないの~? 初めてプロの暗殺者に会ったから、サイン欲しかったのに~」
「しょ、しょうがないですね。サインぐらいなら……」
「こいつ、意外とチョロイな」
「ああぁぁ~~~!!」
フィリップがウルウルした少年の目をしただけで、ヤルマルは正体をバラしちゃった。裏の道を歩いていて初めて尊敬されたから、調子に乗ってしまったのだろう。
「し、神殿に雇われた暗殺者です……」
「なんかゴメンね。調子崩しまくってるよね?」
「もうこれ以上、何も喋らないからな~~~!!」
というわけで、フィリップに謝罪までされたヤルマルは逆ギレして口を噤むのであったとさ。
ヤルマルが口を横一文字にして塞いだので、護衛騎士は「逆効果じゃね?」とフィリップを残念な目で見てる。その目に気付いているフィリップは、命令してヤルマルをテーブルに張り付け、右手の指を開かせた。
ヤルマルは先に牢屋に入っていた侵入者からどんな拷問をされていたかは聞いていたので、心の中で「どうせブラフだろ?」とほくそ笑んだ。
「やっぱりナイフは危ないので、今日はこいつを使ってゲームをしま~す。パチパチパチパチ~」
フィリップが手に持っている物は、千枚通し。タコ焼きを引っくり返す、先が細長く尖ったアレだ。
「今日は前より速くできるように頑張るぞ~。お~!」
ヤルマルは「こいつ、本当に遊んでるだけだな」と安心して見ていたら、タタタタタンっと千枚通しが目の前を行ったり来たりして、フィリップは手を振り上げた。
「いまの速かったんじゃない?」
「はあ……血が出てますけど……」
「……アレ?」
フィリップが護衛騎士に意見を求めると、ヤルマルを指差した。
「あらら~……失敗失敗」
「失敗とかじゃなくて、全部刺すアホがいるか!!」
「アッレ~? 喋らないんじゃなかったの~??」
「グッ……」
またまた残念なヤルマル。フィリップはわざと全ての指に2回ずつ突き刺したら、簡単に口を開いた。
その怪我は、全て指を貫通して血が滲む事態。それなのにフィリップは、「穴は小さいから押さえとけば大丈夫大丈夫」と超軽い指示だ。
ひとまず軽く手当てをしたら、テイク2。ヤルマルの左手を開かせて押さえた。
「今度はどうよ!」
「痛いわ! 俺の目は騙されないぞ! 全部4回ずつ刺しただろ!!」
「……なんのこと? みんな、そんなの見えなかったよね??」
「「「はい。行って来いしただけです」」」
「ほらね~? ビビッて頭おかしくなったんじゃな~い??」
「ウソ言うな! 口裏合わせてるだけだろ!!」
「よく喋る口だな~……目玉、グルリと引っくり返すよ?」
喋らないと豪語していたヤルマルがうるさかったので、フィリップは千枚通しを目の前でグルリと回して脅し。ヤルマルは怖いと言うよりは、また乗せられてしまったと口を閉じる。
ちなみにヤルマルが言っていたことは事実。フィリップはひとつの指に対して、一度目は護衛騎士に見える速度で刺して、もう一度素早く刺したのだ。これが見えたのは、目の前で集中して見ていたヤルマルだけだったのだ。
それからヤルマルの左手を圧迫止血をしたら、テイク3。ヤルマルの右手は血が止まっていたので開かせた。
「行くぞ! うりゃ~~~!!」
「ぐううぅぅ……何回刺してんだよ!!」
フィリップが気合いを入れて千枚通しを行って来いすると、またまたヤルマルのツッコミだ。
「2回ずつだけど……ね?」
「「「はい……めっちゃ血は出てますけど……」」」
「2回でこんなに血が出るワケないだろ! 見ろよこの手を!!」
「さっきの傷が開いただけでしょ。あ、出血多量で死なれたらゲームを続けられないから、ポーション掛けたげて」
フィリップは適当なことを言ってヤルマルの傷を治したら、護衛騎士にはもう1人いる侵入者を目隠しをして上に連れ行き、そこで待機するように命令する。
護衛騎士としては拘束されているとはいえ暗殺者と2人きりは危険だと主張したが、ムリヤリ追い出されてしまった。
「さってと……なんで2人きりになったかわかる?」
フィリップが切り出すと、ヤルマルは首を横に振った。
「さっきの答え合わせだよ。一本の指に対して、20回。合計100回刺してやった。優秀なお前でも、さすがに見えなかったか~。アハハハハ」
「う、嘘だろ……」
ヤルマルは嘘だと言っているが、薄らと残像は見えていたので、フィリップのことが化け物のように見えている。手を見ても、ポーションのおかげで傷跡も見当たらないから証拠隠滅も完璧だ。
「んで、相談なんだけど……僕、お前のこと買ってるんだよね~。雇い主のことなんか忘れて、僕の犬にならない? 給料も高いよ~??」
フィリップが2人きりになった理由はスカウト。星明かりしかない中、投石を避け続けたから使えると思ってだ。
「誰がバカの犬になるんだよ」
でも、言い方が酷いから嫌だよね。
「まあまあ。そう急いで答えを出すなよ。あ、ヒエロニムス以外にも怖い人いるの? 組織に属しているんじゃ、失敗は死で償えとか言われてそう。プププ」
「それがどうした? こうなったら粛正は免れないから、俺は何も喋らないぞ。死人に口なしだ」
「あら? すぐ認めるんだ。これはラッキー」
フィリップが悪い顔で笑うので、ヤルマルも気になって仕方がない。
「何がラッキーなんだ?」
「その組織、僕が潰してやるよ。それで晴れて、お前は僕の犬になれるよ? ラッキーじゃな~い??」
「どこがだよ。バカの第二皇子に何ができんだ」
「父上にでも頼んで大量の暗部を送ったら余裕だよ。お兄様に頼んでダンジョン攻略者ってのも捨て難い。ほら? 解決だ」
「全部丸投げ……」
フィリップがやるのかと思ったら人任せだったので、ヤルマルは希望を持つより呆れてる。
「組織のヤサを教えてくれたらすぐに動くよ? お前は生き残る。追っ手もナシ。仕事もあるってバラ色の未来だ。ま、すぐに答えは出せないだろうから時間あげるよ。考えておいてね~」
ヤルマルは複雑な顔をしていたので、フィリップは手をヒラヒラ振って立ち去るのであっ……
「あ、そうそう。ヒエロニムス侯爵の名前出したのに否定しなかったね。やっぱり雇い主はヒエロニムス侯爵か~」
「なっ……」
最後にトドメ。雇い主まで知られては、フィリップに「全てを喋ったほうがいいのでは?」と大いに悩むヤルマルであったとさ。




