385 侵入者観察
ペトロネラの愚痴を聞いていたら鉄格子作りの門が揺れたので、フィリップは頭を低くしてバルコニーの端に移動する。その手摺りに作った覗き穴から見ると、門を越えた通路辺りに人影を発見した。
「で、殿下。どうですか?」
それと同時に、ペトロネラが心配した顔で近付いて来て小声で声を掛けた。
「1人、入って来たね」
「まさか暗殺者……騎士を起こして来ます」
「待って。あの程度なら大事にしなくて大丈夫だから」
「でも……」
室内に戻ろうとしたペトロネラの腕を取ったフィリップは、覗き穴を指差して一緒に様子を見守る。
「玄関に向かいましたね……侵入されるのは時間の問題では?」
「時間の問題というか……カギ掛けてないから素通りかな?」
「はあ? この状況で~~~??」
「シッ。大丈夫だから。大声出さないで」
神殿と揉めて報復までされそうなのに、セキュリティが甘々なので、ペトロネラは呆れるどころか説教したい。しかし、いまは声を出せないのは事実なので口を塞いだ。
「アレ? 戻って来ましたね……」
しばらくすると侵入者は玄関から出て来て、上を見ながら庭に向かって行ったのでペトロネラも不思議に思ってる。
「まぁそうなるよね~……でも、そっちは悪手だ。プププ」
「もしかして……楽しんでます?」
「うん。やっと僕の城のセキュリティが活用されるんだもん。前回は見てなかったから、残念だったんだよね~」
「そんなに自信があるのですか……」
フィリップが緊張しているのかと思っていたのに、ワクワクしていただけなので呆れるペトロネラ。なんだったらフィリップは、ニヤニヤしながら別の覗き穴までペトロネラを連れて行って一緒に見てる。
「庭の中央から、入れる場所を探しているみたいですね」
「そんなに上ばっかり見てたら危ないよ~?」
「危ない? あっ……」
「惜しい! いや、よく避けたと言うべきかな?」
フィリップが注意した次の瞬間には、大きな物体が横切り侵入者は尻餅突いたのでフィリップは小さく拍手だ。
「う、うま?」
「そそ。放し飼いしてるの知ってるでしょ?」
「知ってますけど……」
「あらら。シルバー鳴いちゃった。これで詰みだな。もう顔出していいよ」
「はあ……」
フィリップたちはバルコニーの手摺りに寄り掛かり、右往左往する侵入者を見続ける。
「侵入者は何かを避けてますね……」
「避けるの上手っ……屋上から騎士が石を投げてるんだけど、なかなかのやり手だな。でも、石に当たったほうが怪我は軽かったかも?」
「うっ……あんなに飛んだ……」
「アハハハ。シルバー! よくやったぞ~~~!!」
「ヒヒーン!!」
空から降って来る石のボールをなんとか避けていた侵入者は、黒馬の後ろ蹴りを喰らって10メートル先の地面に打ち付けられて撃沈。フィリップが大声で褒めると、黒馬は両前脚を上げて勝ち名乗りだ。
そのすぐあとに屋上にいた護衛騎士はロープを垂らし、一気に降りて侵入者に駆け寄り縄を掛けて拘束する。
「お~い。いまのは死ぬかもしれないから、ポーション使ってね~」
「はっ!」
フィリップがポーションの使用許可を出すと、護衛騎士は侵入者を担いで馬小屋の中に消えて行くのであった……
「さってと。そろそろ寝よっか?」
フィリップはいい物を見れたと室内に戻ろうとしたけど、ペトロネラは聞きたいことがありまくる。
「寝る前に説明を……侵入者はどこに運ばれたのですか?」
「地下牢だけど……あ、その前にアレを説明しなきゃダメか。ネラさんを信じてるから、誰にも言っちゃダメだよ~?」
「それは約束します」
言質は取れたので、フィリップは嬉々として喋っちゃう。誰かに聞いてもらいたかったんだね。
「この時間帯は、馬小屋にある地下通路しか出入りができないんだよね~」
「え? 玄関も裏口もありますよね?」
「それはあとで説明するから待って。つまり、馬がいる場所は馬が騒ぐから、侵入は不可能ってことは覚えておいて」
「はあ……」
「侵入が不可能なら、こんな遮蔽物もない開けた庭なら上から狙い放題でしょ? そのために僕の騎士には石を投げる訓練をさせてるの。まぁ今回は相手が悪かったから外れまくっていたけどね。でも、気性の荒い馬が放し飼いになってるから、そいつに蹴られてご臨終ってワケだ」
フィリップの言いたいことはわかるが、ペトロネラはついて行けないみたいだ。
「あの大きな馬は、いつも大人しかったと思うのですけど……」
「それは僕のことが大好きだから安心してるだけだよ。元々は、誰も乗せないような暴れ馬だったけど僕が飼い慣らしたの。飼い主のピンチには、戦ってくれるんだね~」
「賢い馬ですね……」
ペトロネラはこの発言が限界。本当はフィリップは馬と喋れるから、夜に侵入者がいたら騒ぐかブッ飛ばせと命令しているのだけどね。
「あとは侵入できない理由なんだけど……いまはあまりやりたくないから、明日説明するよ。もう寝よう? ね?」
「はい……お酒が抜けて眠れそうにありませんが……」
「んじゃ、マッサージしてから寝よっか。ちょっと指示出して来るからベッドで待っててね~」
フィリップは階段を下りて地下に向かうと、護衛騎士に明日の予定を伝えてすぐに戻る。そしてベッドに入ると、久し振りに本気のマッサージでペトロネラを気絶させるのであった……




