384 ペトロネラの持つ情報
神殿と報復の板挟み状態なのにペトロネラがやって来てしまっては仕方がない。やることは置いておいて、最近ゴシップ不足のカイサとオーセに、面白い話はないかとフィリップが頼んであげた。
「もうドロッドロ。お目掛けさんどころか隠し子も発覚して、怒った奥さんが結託して爵位を息子に移譲させようと動いているのよ」
「「わあ~。あの伯爵組、そんなことになってたんだ~」」
ダブル不倫をしていた伯爵家当主の2人の続報が出て来たので、カイサとオーセは興奮。2人でも聞き出せないような内容が多々あるので、尊敬した目でペトロネラを見ている。
「それって……本当に父上が介入するの?」
もちろんフィリップも。こんな泥沼のお家騒動に皇帝が間に入るなんて、面白すぎるんだとか。
「ここまで揉めては、領地の運営もままならないとお怒りになりましてね。爵位を剥奪して、嫡男に継がせると言ってました。それぐらいしないと領民も納得しませんからね」
「プププ。たかが不倫で暴動一歩手前って、どんだけ面白いんだよ~」
「「「「アハハハハハ」」」」
なんだかんだで不倫ネタは鉄板。全員で涙を拭いながら笑い合うのであったとさ。
夜遅くまでペトロネラしか知らないゴシップネタを聞いたカイサとオーセはお腹いっぱい。自室に戻ったら、安らかな表情ですぐに眠りに誘われた。
2人とは違い、ペトロネラは「マッサージしに来たんだった!?」と慌ててフィリップを貪り食う。フィリップはゴシップネタが重すぎて胸焼けしていたので、身を任せるしかなかったんだとか。
ペトロネラが満足した頃にフィリップはトイレに立ち、すぐに戻ると疲れが溜まりそうだと思ったのか、星明かりしかないバルコニーに出て体を休めていた。
「殿下~。ノド渇きませ~ん?」
「こっから飲むの~? 勘弁してよ~」
ペトロネラがワインボトル片手にやって来たので落ち落ち休めないフィリップ。グラスに波々注がれたモノも差し出されてしまった。ペトロネラはボトル飲みだ。
「そういえば聞きたいことあったんだけど……リュディガー子爵って知ってる?」
「ううん。知らないわ~」
「子爵程度では記憶にないか。じゃあ、ディートハルト侯爵とヒエロニムス侯爵は?」
「レンネンガンプ侯爵の傘下にいた人ですね……2人ともレンネンガンプ派閥を離れて、新しい派閥を率いていますよ。旧派閥が、息子さんを入れてみっつに分かれた感じですね」
酔っていても、ペトロネラはできるメイド。フィリップの知りたい情報が出るわ出るわだ。
「ちなみに、誰が一番お兄様に心酔してるの?」
「一番となると、息子さんですね。歳も近いですし、一緒に仕事をすることが多いので仲もいいらしいですよ」
「仲良しさんは違うか~……二番目は?」
「ディートハルト侯爵です。お年を召していますので、孫をかわいがる感じらしいですけどね」
「ジジイも違うだろうな~……」
2人の候補がフィリップの思い描く犯人像と違うので、残念な声が漏れる。その声がペトロネラは気になるので直球で聞いてみる。
「何を聞きたいのですか?」
「昨夜、侵入者を捕まえたんだよね~」
「はい?? ……大事件じゃないですか!?」
「だから取り込んでるって言ったでしょ~」
やっと話せる段階に来たのでフィリップがカミングアウトしたら、ペトロネラはビックリ。
そんな危機的状況なのにマッサージまでしていたので、危機感が足りないと怒られていたけど、ペトロネラも同罪だと気付かせて黙らせた。襲ったのはペトロネラだもん。
「話を戻すけど、たぶん聖女ちゃんが襲われた報復で調べてると思うんだよね~……その黒幕が、3人の侯爵の誰かかな~っと」
「それはいい線いってますね。三番手のヒエロニムス侯爵の可能性が高いかと」
「その心は?」
「出世欲が強く、他者を陥れることも厭わないからです。レンネンガンプ派閥にいたのも、そこが一番出世が早いとの思惑だったのでしょう。動き出す前にトップがお亡くなりになったから、さぞ残念だったでしょうね」
「確かにありそうだね。聖女ちゃんを襲った僕に報復したという手柄で這い上がろうとしてるってところか。前提が間違えまくっているけど」
もう少しヒエロニムス侯爵のことを詳しく聞いてみたら、奧さんがいるのにペトロネラの旦那候補に立候補したんだとか。そもそも若い時にも立候補してフラれた経緯もあるらしい。
「これってネラさんが嫌いだから、ヒエロニムス侯爵に罪を着せてるってことはないよね?」
「滅相もありません。お茶会の時に『お歳を召しましたね』とか『あの頃なら第一夫人にしてやったのに』とか言われたことは関係ありません」
「根に持ってんじゃ~ん」
「根に持ってますよ! たかが侯爵家が公爵家の私に噛み付いて来たんですよ! 陛下にも愚痴りましたもん!!」
「もう復讐完了してるなら、その怒りは収めてくれない?」
「あの外道の顔を思い出しただけでムカムカするんです! グビグビグビグビ~!!」
「飲み過ぎだって~」
怒りが再燃した酔っ払いは、扱いが大変。フィリップは頑張って宥めていたけど、面倒くさくなって相槌打つだけになった。
その愚痴を聞きながら、ヒエロニムス侯爵がこんな強引な手を使って来たのは、ペトロネラ経由で皇帝が何かしたのではないかと考えていた。出世の道が途絶えたのだから、皇太子に擦り寄ったのだと……
その結論に達した頃、根城の鉄格子作りの門がガチャガチャと鳴った。
「ですから~……」
「シッ……黙って。誰か入って来たかも」
「え……」
「大丈夫。ネラさんのことは必ず僕が守るから心配しないで。だから静かにしてね」
「はい……」
急遽、ペトロネラだけの楽しい時間は終了。フィリップは頭を低くしてバルコニーの端に移動するのであった……




