377 薬屋の情報
カイサたちが薬屋の存在を口に出してしまった次の日の朝……フィリップはベッドの端でうつ伏せに寝転び、右手は人差し指が伸びてダイイングメッセージでも残そうとしているような体勢になっていた。
「アレだけやったんだから、プーちゃん、昨日のこと忘れてるでしょ」
「たぶん……なんか死んでるみたいだけど大丈夫かな?」
「息してるから大丈夫でしょ。さ、仕事するわよ」
「カイサはたまに怖いところあるよね?」
第二皇子殺害事件現場みたいになっているのに、カイサは我関せず。単純にフィリップを寝かせず2人掛かりでマッサージしまくっただけなんだもの。
そんな2人は仮眠を挟みつつ、今日の仕事をこなすのであったとさ。
フィリップが起きたのは夕方前。カイサとオーセが昨日の話を覚えているかとフィリップに聞いたら忘れていたので一安心だ。
この日の2人は寝不足だったので、フィリップも心配して早く寝かせてあげたら、夜の街に出た。
「キャロちゃ~ん」
「でんか~ん」
「薬屋紹介してちょ~うだ~い♪」
「な、何故それを……」
奴隷館のキャロリーナの顔を見たと同時に、フィリップが両手を広げて甘えた声でおねだりしてみたら、同じように甘えた声を出して両手を広げていたキャロリーナは真っ青だ。
「ちょっと小耳に挟んでね。やっぱりキャロちゃん知ってたんだね~。これは父上にも報告してない感じだ~。ムフフ」
「ご、後生ですから、この件には首を突っ込まないでください。なんでもしますから! お願いします!!」
「わ~お。キャロちゃんまで必死になってる。これは闇が深そうだ~。ムフッ」
「その顔やめて~~~!!」
フィリップが悪い顔をするものだから、キャロリーナも涙目。その気持ちを汲んだフィリップは、優しくキャロリーナの柔らかい物をムギュッと掴んだ。すぐ叩き落とされたけど。
「あのね。僕、平民から薬屋を取り上げようなんて思ってないよ? ちょっと話を聞きたかっただけ。何もするなと言われたら何もしないし、誰もが普通に薬を使いたいなら、なんとかしたいとも思ってる。悪い話じゃないでしょ?」
「ええ……その顔がぁ信用できないんだけどねぇ……」
「ゴメンね。顔のせいで勘違いさせて……」
「そういえば昔ぃ、真面目に考えてる顔がどうのこうの言ってたわねぇ……」
以前キャロリーナは、フィリップが考え事をする時はスケベな顔をしてると言っていたからの勘違い。まぁ誰からも真面目に考えてると信じてもらえないフィリップが悪いのだが……
なんだか2人ともドッと疲れたみたいなので、本題の前にマッサージをして英気を養うのであった。
「薬屋なんだけどねぇ~……」
キャロリーナは言い難そうに切り出して、薬屋についての知識をフィリップにインプット。
どうやら昔は医者として活動をしていたが、最近は薬屋で通っているとのこと。人によっては、昔の言い方で薬屋のことを医者と呼ぶ者もいるそうだ。
「なるほどね。神殿が圧力掛けるから、秘密裏にやってるんだ。薬屋って名前も、カモフラージュしてんだね」
「圧力なんて生易しいモノじゃないわよぉ。魔女とか言って弾圧してるのよぉ。自分たちの分野が侵されないようにねぇ。命が懸かってる商売だからぁ、いくらでも取れるからってねぇ」
「だろうね~。でも、キャロちゃんって父上の間者なら、国側の味方じゃないの?」
「うちの子も薬屋に助けられているからぁ、言えるワケないじゃなぁ~い。神殿なんか頼っていたらぁ、借金奴隷はいつまで経っても払い終わらないわよぉ」
「そりゃそうか」
神殿と薬屋では同じ症状でも数十倍も価格が違うのだから、キャロリーナの意見にフィリップも納得だ。
「ちなみにだけど、その薬は本当に効くの?」
「症状によるわねぇ。軽い症状なら効く薬が多くてぇ、重い症状は無理ねぇ。薬師の腕にもよるけどぉ」
もう少し詳しく聞くと、風邪の症状や鎮痛剤、軽い怪我や打撲等の薬は問題ないらしい。堕胎や性病の薬もそこそこ効く物があるが、避妊に関しては100パーセントの物はないからフィリップはガッカリ。
薬師の腕は、帝都の城に近い場所で店を開いている者がしっかりしていて、真ん中辺りは当たり外れがあり、外側の薬師は偽物が多いそうだ。
「う~ん……これって国が管理したほうがいいと思うんだけど……死人も出てるんでしょ?」
「そうだけどぉ、神殿がねぇ。神官の上層部はみんな上級貴族じゃなぁい? 必ず潰しに掛かるからぁ、直訴もできないのよぉ」
「そりゃカネに意地汚い貴族ばかりじゃ話にもならないか~」
「陛下に言うのも考えたんだけどぉ、そこから薬屋の身元がバレて神殿に動かれたらぁ、陛下でも止められない可能性があるものぉ」
「宗教は怖いもんね~。でもお金に興味がなくて、それなりに権力があって、貴族や神殿と繋がりのない人がやれば、改革はできそうだけどな~」
フィリップは自分の意見を口にしたら、キャロリーナが目をパチクリさせた。
「僕の顔になんか付いてる??」
「いえ……いま殿下が挙げた条件……お金に興味がない権力者でボッチって、まんま殿下のことだから……や、やれるの?」
そう。フィリップなら改革ができそうだから、キャロリーナは希望に満ちた顔になったのだ。
「あ、賢いっての抜けてた。ゴメンね~」
「もう! 期待しちゃったじゃなぁい!!」
「えっと……僕、けっこう賢いよ??」
「殿下が~~~??」
「うん。ゴメンなさい。怒らないで。マッサージしよ?」
でも、フィリップは馬鹿皇子。そのことを忘れていたキャロリーナは、この日は荒れに荒れて、フィリップは2日連続、精も根も尽き果てたのであったとさ。




