375 解雇
秋……フィリップは遊び人キンさんという偽名を名乗り、相も変わらず夜遊びをしていた。
ただ、仮病を使い過ぎていたから、カイサとオーセが「この人、本当に仕事しないね」とヒソヒソ言っていることが多いので、たまには仮病をやめてお昼も起きてる。
そうなったらそうなったで、「病気が治ったのに外にも出ないね」とヒソヒソ言うので、仕方なくお出掛け。城の庭園に顔を出したり、皇帝の撫で回しの刑を受けたり。
これでいいかとカイサとオーセを見たら、「これは外に出た内に入るの?」とまだヒソヒソ話は止まらない。
なので、馬車で市中視察。護衛騎士は久し振りに出番が来たと、気合い充分。しかしやったのはカイサとオーセの里帰りぐらいだったので、「これ、たまにやってるやつぅぅ」と意気消沈で帰宅だ。
これでもカイサとオーセのヒソヒソ話は止まらない。だって、ひとつも仕事してないもん。
だからフィリップも開き直って、堂々とゴロゴロ。仕事中のどちらか1人を呼んで、「休憩休憩」とマッサージを強要してる。
そんな毎日を過ごしていたら、またボエルがやって来てため息連発だ。
「はぁ~……」
「なんなの? 暗くなるからため息やめてくんない??」
「はぁ~……」
「聞いてる? てか、なんのため息? 僕になんか文句あんの??」
カイサとオーセは「こんなダメ皇子を見たらため息止まらないよ」と思っていたが、ボエルのため息はフィリップに対してではなかったみたいだ。
「ん? ああ。すまん。殿下が馬鹿とは思ってるけど、そういうため息じゃないから心配するな」
「馬鹿って言った! 2人も聞いたよね!?」
「「いえ……プッ……」」
「笑ってるじゃ~ん」
フィリップは憤ったけど、カイサとオーセがイチャイチャしたら鼻の下を伸ばすだけ。それをボエルはツッコまずにため息の理由を告げる。
「オレが皇太子殿下の屋敷で働くようになってから、メイドが4人、近衛騎士が3人クビにされたんだ。それがちょっとかわいそうでな~……聞いてるのか?」
今度はフィリップたちが心ここにあらず。ボエルから羨ましいって怒られたので、聞いてるアピールだ。
「まぁ多いとは思うけど、わかっていたことでしょ? 僕、何度も注意したじゃん」
「そうだけどよ~……ここまで多いと、オレもいつクビになるかと怖いんだぞ?」
「また自己保身に走ってるし……」
ボエルは変わらないなとフィリップがジト目をしていたら、話を聞いていたカイサとオーセは不思議そうに話に入って来た。
「フレドリク殿下のお屋敷は、そんなに厳しい職場なのですか?」
「すっごく優しそうだったのに……殿下なんて、怒ることはあってもクビにしたことありませんよ?」
そう。2人はフレドリク推し。そんな人が大量解雇をしてるなんて信じられないらしい。
「それは~……これって2人に言っていい話か?」
「う~ん……関わることもあるから、知っておいたほうが無難かな? とりあえずクビの理由を説明してやって」
「2人とも、機密事項だから心して聞けよ?」
「「はい……」」
ボエルとフィリップが慎重に会話しているので、カイサとオーセは神妙な顔で話を聞く。
その内容は、ルイーゼのマナーを苦言した人や、ルイーゼの行いをフレドリクに進言した人の末路。どちらも皇家のためを想った言葉なのに、それなのにフレドリクが怒って解雇したらしい。
「「よかれと想ってやったのに……」」
「あとは~……入っては行けない場所があるんだけど、そこに入ったヤツは城からも追い出されたな」
「「たったそれだけで……」」
ボエルが起こった事件を箇条書きのように説明したら、2人にもルイーゼの厄介さは伝わったみたいだ。
「聞いた通り、お兄様は聖女ちゃんのことになると目の色が変わるんだよね~……2人もここで会ったことあるでしょ? その時、マナーが悪いの見なかった?」
「あの時は皇帝陛下を前にしていっぱいいっぱいだったので…」
「私もほとんど記憶にありません……」
「そっかそっか。ま、これだけは覚えておいて。聖女ちゃんを注意したら、僕でもどうなるかわからない。僕でこれだよ? 絶対に余計なことはしちゃダメ。最悪、貴族でもマジで処刑されちゃうから」
「「はいっ!」」
フィリップが締めると、2人はいい返事。貴族でも処刑されるのだから、平民の自分は何をされるのかと怖いのだろう。
「ボエルもわかった?」
「ああ。殿下に言われた通り、指示通りやれっての守ってる」
「それ、同僚に教えてあげなかったの?」
「言ったんだけどな~……殿下の名前を出したから、上手く伝わりませんでした……」
「僕の名前出すからでしょ~」
「普通、第二皇子の名前を出したら効くと思うだろ? な??」
「「うんうん」」
「ほら? 3対1だ。オレ、悪くない」
カイサたちを味方に付けたボエルが勝ち誇った顔で見るので、フィリップの反撃だ。
「普通、馬鹿皇子に言われたら効くワケないでしょ~~~」
「「「うんうん……」」」
「不本意ながら僕の逆転勝ち!?」
「「「プッ! アハハハハハ」」」
たった数秒で全員の意見が覆ったから、フィリップも勝った気がしない。さらに3人が大笑いするので、フィリップは「クビだ~!」とか怒鳴っていたけどますます笑われただけであったとさ。




