374 我慢の限界
リネーアにフィリップの部屋を紹介したら、ベタ褒め。コニーと結婚して家を買ったら、フローリングの清潔な部屋を作りたいと言っていたので、フィリップもその時は協力する約束をしていた。
男子禁制で仲間外れにされたコニーはと言うと、フィリップに言われた通り護衛騎士に挨拶したら、近衛騎士と聞いて羨望の眼差しを向けられて困ってた。
なので、ボエルの訓練が厳し過ぎると愚痴ってみたら「わかる~」と意気投合。護衛騎士も帝都学院の時に付き合わされて迷惑していたらしい。
その後はフィリップの愚痴に発展して、仲はますます深まる。ここにいる全員が名前で呼ばれたことがないので涙目だ。
そうしていたら、フィリップがリネーアを連れて見送りに来たので、全員気を付け。それで悪口言っていたことがバレていたけど、フィリップは気付かないフリをしてリネーアとコニーと別れたのであった。
フィリップが夜の街に出なくなって2週間。ついに我慢の限界が来て、フィリップは夜の街に出てしまった。
ひとまず人に見られないように移動して、やって来たのは行き付けの酒場。中に入ると客は多くいるが、全員下を向いてお通夜状態だ。
フィリップは「誰か亡くなったのかな?」と思いながら、いつものカウンター席に飛び乗って、馴染みのハゲ散らかったマスターに声を掛けてみる。
「マスター、いつもの。てか、なんか暗くない?」
「そりゃ夜の帝王がいなくなったんだから、暗くなっても仕方がないだろ。ほれ、ブドウジュース、だ……へ?」
するとマスターは、暗い声で返事をしながらジュースを出したところでフィリップの顔に気付いた。
「あ、あんた……帝国を出たんじゃ……」
「あれ、うっそ~。こんなに女の子がいっぱい居る街、出て行くワケないじゃん。今日は何人買おっかな~? 久し振りだから10人いっちゃお。ゲヘヘ」
「その顔は間違いなく夜の帝王ハタチだ~~~!!」
「「「「「夜の帝王だと~~~!?」」」」」
マスター、フィリップのとんでもないスケベな顔で顔認証。お通夜状態だった酔っ払いたちも「夜の帝王が戻って来た~!」と大騒ぎ。
全員フィリップの下へ駆け寄って、胴上げというよりフィリップは人の上をコロコロ転げ回る事態に。
その5分後には、酔っ払いたちは酒が回って次々と倒れ、フィリップも落とされたので説教だ。
「騒ぎ過ぎ。夜の帝王は他国に行ったのに、バレちゃうでしょ」
「「「「「すんません……」」」」」
「ま、こんなに喜んでくれるなんて、僕も嬉しいよ。ありがとね」
「「「「「うおおぉぉ!!」」」」」
「だから騒ぐなって言ってんだろ!!」
フィリップは感謝したのに前言撤回。怒鳴り散らして酔っ払いたちの口を塞ぐのであった。
「とりあえず、僕は夜の帝王ってあだ名もハタチという名前も捨てる。遊び人のキンさんと呼んでね~?」
「「「「「あっそびっにん! あっそびっにん!」」」」」
「「「「「キンさん! キンさん!」」」」」
「そういうのいらないから! 今日は全部奢ってやるから、夜の街の人にこのことと、秘密にするように徹底させろ!!」
「「「「「うおおぉぉ!!」」」」」
「うっさい! 飲み過ぎて忘れるなよ!!」
フィリップは言いたいことを言ったら、あとのことは大金を置いてマスターに任せる。マスターには「奢るからうるさくなるんだ」と小言を言われてたけどね。
その足で向かった先は、行き付けの娼館。ここも入った時は暗かったが、フィリップの顔を見て大騒ぎだ。
「今日は10人買っちゃうよ~? 君と君と……君は新顔だね? じゃあ、11人いっちゃおっと。ゲヘヘ」
「「「「「いや~ん。キンさ~ん」」」」」
「え? え? これ、なんなんですか? そんな仕事内容聞いてないんですけど!?」
でも、1人だけついていけない娼婦が。初めての仕事がハーレム要員では、カルチャーショックを受けたらしい。もちろん子供が娼館に来ていることも、ショック過ぎるみたいだ。
でも先輩から、「めちゃくちゃ羽振りのいいお客」と言われて、仕方なくフィリップの乱痴気騒ぎを傍観する。
「さあ、最後は君だ……ゲヘヘ……」
「い、いや。やめて……」
乱痴気騒ぎもそうだがフィリップの顔がエロすぎたので、新人娼婦も怖くなっちゃった。
「よいではないかよいではないか」
「ア~レ~~~」
その反応が気に入ったのか、フィリップは悪代官のようになったのであった……
「こんなに気持ち良くしてもらってこんなにお金までくれるって……結婚して!」
「あぁ~……今日はサービスだから、今日のことは忘れて。みんな、この子に娼婦になった現実を教えてあげてね」
「「「「「あぁ~……」」」」」
新人娼婦、フィリップのテクニックと資金にノックダウン。先輩たちから「キンさんは最高のお客で、これから最低のクソ野郎ばかり相手にしないといけない」と教え込まれた新人娼婦は泣き出したんだとか……
それから数日、フィリップは毎日夜の街に繰り出し「遊び人キンさん」の調査。と言いつつ、ほとんど娼館通い。毎日3軒はハシゴして、今日は昼過ぎに奴隷館のキャロリーナに会いに来た。
もちろん1週間振りだったので、貪り食われてからようやく世間話だ。
「最近、変な客がうろついてるらしいのよねぇ~……」
「変な客って??」
「噂で聞いた話でぇ、けっこう羽振りがいいらしいんどけどぉ、私の所にも中肉中背のおじさんとしか情報が入って来ないのよぉ」
「あら? キャロちゃんにしては珍しいね」
「そうなのよねぇ……誰かが意図的に隠しているようにしか思えないのよねぇ」
「その犯人の中に、僕は入ってないんだ。プププ」
「それは殿下は夜遊びやめたって言ってたか、ら……へ??」
「アハハハハハ」
そう。夜の住人の情報統制は徹底的。顔役のキャロリーナにまで隠されていたのだから、フィリップも大笑いだ
「また夜遊びしてたのぉ!? 早過ぎるでしょ!?」
そりゃたった2週間程度の自粛では、早過ぎるよね~?
「だから名を変え、秘密にしてもらったんだよ。いまは『遊び人のキンさん』でやってるの~」
「そんなのでぇ、皇太子殿下を欺けるとは思えないわぁ~」
「その時はその時だよ。また名前を変えて再開するよ」
「家にはお相手が2人もいるんだから、夜遊びをやめたらいいだけでしょ~」
「だって、足りないんだも~~~ん」
「そういう子だったわねぇ……はぁ~~~……」
キャロリーナが心配しているのに、フィリップはああ言えばこう言う始末。こうして夜の帝王伝説は終わりを告げ、遊び人キンさん伝説がヒッソリと始まったのであったとさ。




