372 夜の帝王の正体
奴隷館を出たフレドリクは、衛兵にも夜の帝王捜索は終了と告げて帰路に就く。そうして皇太子邸に戻ったフレドリクは、カイ、ヨーセフ、モンスを応接室に集めて事の顛末を説明していた。
「夜の帝王は他国の王族だと……」
「どうりで逃げ回るワケだ……」
「どちらの国にも配慮していたのですね……」
手紙の内容を聞いた3人は息を呑む。
「どこの国かは書いてないから、信憑性には欠けるがな」
そう。夜の帝王の手紙は、名称はひとつもない。「そろそろ城に戻らないと父親がうるさいから帰る」という、王族だと錯覚させる内容だったのだ。
というか、フィリップ的には本当のことを書いたみたいだね。どうせわからないと思って。
「夜の帝王が他国の王族だとしたら、義賊の線は消えた。わざわざ帝国を良くする必要はないからな。それが嘘だとしたら、そのうち夜の街に現れるだろう」
「そのとき捕まえるのですね」
「そこは悩みどころだ。夜の帝王のおかげで経済が回っている側面もある」
「そういえば、ここ数日の夜の街はお通夜みたいになってましたね……」
「カネをバラ撒くのも自分のために使っているから、義賊の行動としてもおかしい……事件が起こらない限り、様子見でいいだろう」
フィリップの手紙を半分信じたフレドリク。ヨーセフもモンスもカイも夜の帝王の人となりを知っているので、フレドリクの案に賛成するのであった。
そんなことになっているとは知らないけど予想しているフィリップは、根城から出ないでカイサとオーセとマッサージ三昧。たまにやって来るペトロネラのおかげで、2人は「やっと休める」と助かっているんだとか。
さらに仮病を使って時々昼の街に出て、キャロリーナと遊んだりナンパ。ナンパは毎回3人組にお金をチラつかせて、娼館に行けない欲求を満たしている。これもカイサとオーセは助かっているんだとか。
そんな生活をしていたら、またボエルが訪ねて来た。
「なに~? 近衛騎士に友達いないの~??」
「いるし! 殿下と一緒にするな!?」
「何人?」
「1人……」
「モブ君を友達に換算してない??」
なので暇潰しにオモチャにしてる。やはりボエルをからかうのは楽しいみたい。ちなみにボエルの友達はフィリップの言った通りコニーだけ。どちらかというと、ボエルの舎弟みたいになってるけど……コニーは年下だけど先輩なのに……
「てか、殿下に聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいこと??」
「夜の帝王って知ってるか?」
ボエルから夜の帝王の話が出たので、フィリップは一瞬眉毛がピクリと動いたけど、誰も気付かない程度だ。
「知ってるよ」
「マジか!?」
「マジマジ。僕のことでしょ? 2人も夜になったら寝かさないもんね~?? ゲヘヘ」
「はい。夜の帝王と言って差し支えありません」
「テクニック凄いですもん」
「ね~??」
「はぁ~~~……」
ボエルが興奮しているのにフィリップはカイサとオーセとイチャイチャし出したので、ボエルも大きなため息が出たよ。
「なにそのため息?」
「そういうことじゃなくてな。はぁ~~~……」
どうやらボエルは、話のきっかけ程度に夜の帝王を出したら、フィリップがとんでもなく羨ましい返しをしたからため息が出たっぽい。
その後、フレドリクが夜の帝王を捕まえようとして取り逃がした話をフィリップに聞かせていた。
「どうでもいいけど、なんで僕にお兄様の失態を喋ってるの? これ、機密事項じゃない??」
「そうだけど、殿下は他に喋らないだろ。それよりも、殿下なら夜の帝王を捕まえる術を思い付かないかと思ってな~……悪知恵あるし」
「つまり、お兄様への点数稼ぎで来たってことか……」
「ち、違う! オレは皇太子殿下が困っていたから力になりたくて! ……アレ? それが点数稼ぎになるのか??」
「考え無しで来たんだな。このクマは……」
ボエルに下心はないのは伝わったが、フィリップたちは残念な感じの目をしているよ。
「そもそもお兄様が動いているなら、悪知恵も通じないよ? 僕に聞くのはお門違いだ」
「そうだよな~。皇太子殿下がアレだけ人を使って取り逃がしたんだから、殿下には無理だよな~……時間取らせて悪かったな。忘れてくれ」
「わざわざ休みの日に来たんなら、もうちょっと粘ってくれない?」
フィリップがフレドリクを出すだけで、ボエルも納得。それが早すぎるので、フィリップもちょっとは寂しくなるのであったとさ。
それからボエルの近況を聞いていたら、怒って帰って行ったのでフィリップはニヤニヤ。餞別に渡した大人のオモチャの使い心地を聞いたら怒ったらしい。
カイサとオーセも興味津々で聞いていたから、フィリップの病気が移って来たみたいだ。しかしながら、2人とも気になることがある。
「夜の帝王って……もしかして、プーちゃんのことじゃないよね?」
そう。ボエルが語った夜の帝王の人物像がフィリップにクリソツだったからだ。
「あんな下品なオッサンと一緒にするなんて、やめてよね~」
「下品なオッサン? プーちゃん、夜の帝王と会ったことあるの??」
「何度もあるよ。アイツ、たまたま僕が先にお気に入りの娼婦を買ったのが続いたからって、僕より先に娼館の女、10人も買い占めやがったんだよ! それが毎日! カネに物を言わせるなんて、下品すぎるでしょ!!」
フィリップはテンション上がって怒鳴り散らすが、カイサとオーセにはその怒りは伝わらない。
「う、うん……プーくんも同じことしてそうだけど……」
「さすがに毎日10人も買えないよ~。1人ぐらい奢ってくれてもいいのに……あっ! そうだ! アイツ、他の人には奢るのに、僕だけ奢ってもらったことがない!?」
「う、うん……プーちゃんのケンカ友達なんだね……」
「あんなヤツ、友達なんかじゃないよ! アイツのせいで僕まで衛兵に追い回されてたんだからね!!」
「「これ、プーちゃんも夜の帝王だと思われているのでは……」」
怒った演技のおかげで2人はフィリップのことを夜の帝王ではないと信じたみたいだけど、似たようなことをしてるし衛兵にも追われているのだから、黒ではないがグレーと決定したのであった。




