371 夜の帝王の一手
「包囲網は少し広げろ。この一帯の家に潜んでいるはずだ」
夜の帝王が消えたからには必ず理由がある。フレドリクは室内に逃げ込んだと決め付けて兵を動かした。
その夜の帝王ことフィリップがどこに隠れたかと言うと……
「うお~。たけぇ~。チビリそ~う」
空。それも誰にも見付からないように数100メートル上空にいるので、フィリップも怖そうだ。
その理由は、逃げ場がここしか無かったから。走って逃げると、もしもフレドリクに見られた場合、身体能力から夜の帝王イコール義賊が決定付けられてしまう。
なので世界最高の暗殺者から奪ってアイテムボックスの肥やしになっていた煙玉を使うことを閃いて、煙玉を四方八方にバラ撒き氷の礫で射抜いて煙まみれにしたのだ。
ただし、速く移動すると風が起こって煙が動くので、フレドリクはそれを見逃さずに追うに決まっている。
だからフィリップは、煙が上昇する速度に合わせて、氷のタイルに乗ってゆっくりと上昇していたのだ。
「あぶなっ。氷を小さく作り過ぎた……バレてないよな?」
でも、足場が小さ過ぎて落ちそうになっちゃった。
「バレないうちに逃~げよっと」
こうしてフィリップは、落ちないように気を付けて空を飛び、根城に帰って行くのであった……
「クソッ! どこに行きやがった!?」
家宅捜索が空振りに終わったからには、カイは憤っていた。それとは違い、フレドリクは冷静だ。
「もう今日は見付からないだろう。撤収だ」
「はあ? ここまで追い詰めたんだぞ。絶対にその辺に隠れてるはずだ」
「だろうな。ただ、夜の帝王は民衆からの人望がある。誰かが匿っているのなら、見付かるワケがないだろう」
「んなヤツ、締め上げたら一発じゃないか?」
「それはできない。夜の帝王は、何も罪を犯していないのだからな」
2人が喋っていたら、ヨーセフとモンスも話に入る。
「我々から逃げ切っているのですから、やはり夜の帝王が件の義賊なのでは?」
「義賊ならば、いくらでも裁くことができますよ」
この義賊は大量殺人や貴族への殺人罪の疑惑もあるのだから、2人が言っていることは間違いないが、そもそもな話がある。
「それも無理だ。私の勘の上に、証拠が何ひとつない。夜の帝王と繋げる証拠もな」
「証拠は無くとも、夜の帝王はそれなりに動けるみたいなのですから、帝国の脅威になりそうに思えるのですが……」
「よく考えてみろ。夜の帝王はどんな人物だ?」
ヨーセフの問いにフレドリクが質問で返すと……
「「「女にしか興味がない……」」」
そう。夜の帝王の人物像は、スケベの一言に尽きるのだ。
「私の興味本位に付き合わせて悪かったな。今日のところは諦めよう」
夜の帝王の人物像がエロすぎたせいでカイたちもやる気が削がれたのか、反対もせずに帰路に就くのであったとさ。
それから2日。フィリップは昼型に戻ったけど仮病は継続。今日は夜まで寝るとか言って、寝室に閉じ籠もっていた。
「ふぁ~……昼間の街は、女の子がいっぱいだな~」
でも、根城を抜け出して街を歩いてる。そんなフィリップがどこに向かっているのかと言うと、奴隷館。裏口からコッソリ入って、カツラを夜用に変えたらその辺にいた女性奴隷に挨拶。
夜の帝王が真っ昼間に現れたから少し疑っていたけど、スケベ顔でセクハラ発言をするので、「あ、間違いないわ」とフリーパスだ。
「キャロちゃ~ん。来たよ~?」
「う、うん。あんなことあったのにぃ、懲りないわねぇ……」
オーナールームに入ったら、キャロリーナも呆れ顔。夜の帝王大包囲網は、夜の街では大騒ぎとなっていたので、まさかこんなに早くやって来るとは思ってもいなかったみたい。
「だから昼に来たんでしょ~。マッサージする?」
「まだ仕事がいっぱいあるんだけどぉ~……1回だけよぉ~?」
「するんだ……」
フィリップなりのちょっとした社交辞令のつもりだったのに、社長と秘書プレイが盛り上がって、キャロリーナは結局3回戦までやっちゃった。ちなみに秘書役はフィリップだ。
「ところでぇ、こんな時間にどうしたのぉ?」
「ほら? お兄様が夜の帝王を捕まえようと本気出してたじゃない? だからキャロちゃんにメッセンジャーを頼もうと思ってね」
「そういうことねぇ」
「この手紙、誰か口が堅い人に代筆させて。読めたら多少汚くてもいいから」
「わかったわぁ」
キャロリーナは手紙を受け取ると、読んでいいかの確認をしてから中を取り出した。
「これ、他国に行くようなこと書いてるけどぉ……そんな予定あるのぉ~?」
「ないない。ま、夜遊びはやめるから、みんなにも夜の帝王は帝都を出たと噂を流しておいてよ」
「そりゃ皇太子殿下が捜していたらぁ、殿下も夜は動けないわよねぇ。みんな悲しむと思うわぁ……ウチは昼に来てくれるのよね?」
「余韻……早口になってるよ?」
キャロリーナは、自分がよければそれでよし。夜の住人が悲しむ姿はもう消し飛んだので、フィリップは「もうちょっと考えてあげなよ~」とツッコムのであったとさ。
この日はもう2回戦も秘書プレイをやらされてフィリップは帰り、その2日後にフレドリクが奴隷館を訪ねた。
「もう手を打たれてしまったか……」
キャロリーナから受け取った手紙を読んだフレドリクは、数秒黙って夜の帝王の捕らえ方を考えていたが、急に頭を下げた。
「私のせいで太客を他国にやってしまった。本当に申し訳ない」
「い、いえ。頭をお上げください。ハタチさんも、そろそろ離れる予定だと言っていましたもの。決して皇太子殿下のせいではありませんよ」
「そうだといいのだが……もしも金策が苦しい店が出たなら私に言ってくれ。どこまで出来るかわからないが、少しは補填ができるようにするからな」
「はっ。歓楽街の状況は注視してご報告させていただきます」
まさかフレドリクが頭を下げるとは思っていなかったキャロリーナは恐縮しっぱなし。こんなに民のことを考えてくれていたなんて、誰かさんと違ってデキた皇子だと思いながら、フレドリクを見送るキャロリーナであった。
「くちゅんっ! ……なんか悪口言った?」
「こんなことしながら言うワケないでしょ」
「かわいいくしゃみだったね~」
その同時刻、カイサとオーセとマッサージをしていたフィリップは謎のくしゃみが出たらしい……




