370 包囲網
ボエルのことは3年間オモチャにしていたのだから、フィリップは少しからかってから通行証の発行。フィリップにも罪悪感があったらしい。
ちなみに通行証は、古い物では帝都学院の門番に「いつまで使う気なんだ?」と小言を言われたとのこと。なのでボエルは新しい通行証を出して「控えおろう!」と彼女に会いに行ったんだって。
そんなことは報告もされないフィリップは、仕事の疲れが出たとか言って仮病に突入。たまには熱を出して、病弱アピールをしてるみたい。
その報告は毎日カイサとオーセがメイド詰め所に届けているので、皇帝たちは信じていると思われる。カイサたちは、フィリップの体を気遣って寝室を覗きに行ったらもぬけの殻の日があるので「やっぱり仮病だよね?」と真実に近付いている。
もちろんフィリップが向かった先は夜の街。娼館に行ったり酒場でナンパしたり、やりたい放題だ。
その日もフィリップは「どこの娼館に行こうかな~?」とスケベ顔で歩いていたら、大勢の人集りがあったからサッと身を隠した。
「なんだアレ?」
あまりにも人が多いのでお祭りでもしてるのかと思ったけど、フィリップは念のため屋根に登って辺りを確認する。
「ゲッ……また兄貴が出て来てる……カイたちまで揃い踏みかよ~」
その先には、逆ハーレムメンバーの野郎共が勢揃い。ダンジョン攻略者が揃って出て来ているから、帝都民はお祭り騒ぎになっていたのだ。
「また夜の帝王を捜してるのかな?」
フィリップの予想は正解。フィリップのせいで仕事量が減ったから、この間にフレドリクは夜の帝王を捕まえようと、最強の布陣でやって来たのだ。
ちなみにボエルとコニーもいるよ。鎧を着てるからフィリップは気付いてないけど。
「クッソ~……あの経路なら、キャロちゃんに会ったあとかな? 今日はキャロちゃんと遊ぼっと」
気持ちを切り替えて、フィリップは奴隷館へ。念のため裏口からこっそり入って、キャロリーナに貪り食われる。
「は、激し過ぎ……」
「前に会ったの3日前だったのにぃ、こんなに早く来てくれたから嬉しいものぉ~」
普段は週一で現れるフィリップが早く来たから、この際だからショタ成分を大量摂取しようとキャロリーナは食べちゃったらしい。
「てか、僕が来た理由わかってるよね?」
「ええ。皇太子殿下のことよねぇ? それだけで終わったらもったいないものぉ~」
「別に逃げないのに~」
キャロリーナはできる女。話が長くなると思って先にやることやったのだ。
「やっぱり夜の帝王を捜してるの?」
「ええ。うちに来たらぁ、引き留めておいてくれって言われたわぁ」
「てことは……戻って来るの!?」
「あと1時間は大丈夫よぉ。タブン。もう5回はできるるわよぉ~」
「いま小声で『たぶん』って言った!? お兄様に鞍替えしたんじゃないよね? ね!?」
キャロリーナが引き留めているようにしか見えないフィリップは逃げようとしたけど、両足で腰をロックされたので、そのままマッサージ。そこに穴があったから入れずにはいられなかったらしい。
なんだかんだで40分ぐらいフィリップは楽しんでしまい、キャロリーナから「そろそろ帰ったほうがいいんじゃない?」と言われて急いで服を着る。忘れてたんだね。
裏口からコソコソ外に出たフィリップは真っ直ぐ城に帰ろうとしていたけど、衛兵が道を封鎖したりしているので、その都度道を変えていた……
「いたぞ! アイツだ!!」
「はい? なになになに!?」
「「「「「待て~~~!!」」」」」
でも、ついにフィリップは衛兵に見付かる。指差して大量に走って来るので、フィリップもワケもわからず逃走だ。
「上にも回れ! あのチビは屋根に逃げるぞ!!」
「積年の恨み~~~!!」
「僕が何したって言うんだよ~~~!!」
どうやらフィリップが夜の街に出だした頃に、子供だと思って追い回していた衛兵がいたみたい。その経験があるから、逃げ場も予想できるのだ。
「クソっ! どうなってんだ!?」
それでもフィリップのほうがレベルが遙かに高いので簡単に撒けるけど、行く先行く先に衛兵が待ち構えているのでフィリップも苛立って来た。
そうして逃げ回っていたら、奴隷館の近くまでフィリップは押し戻されてしまった。
「うおっ!?」
角を曲がったところでフレドリクたちが揃って待ち構えていたので、フィリップは驚きと同時にすぐに戻った。
「兄貴のせいか……逃げ道を誘導されてたんだな。たった一夜で僕を追い詰めるなんて、どんだけ賢いんだよ~」
そう、これもフレドリクの策略。歓楽街に入るには外からは入りやすいが、外に出るには難しいように衛兵が配置されていたのだ。
「そこに隠れた者……」
そのことに愚痴りながらどうしようかとフィリップが考えていたら、フレドリクの声が聞こえた。
「そなたが夜の帝王であろう? 私は帝国の皇太子、フレドリク・ロズブロークだ。少し話をしたいだけだから、出て来てくれ。どのようなことが起ころうとも、今日この場で捕まえることはしないと約束する」
フレドリクが諭すように語るが、フィリップは「出れるか~!」と心の中でツッコミ、チラッとだけ顔を出してすぐに戻った。
「カイたちがいなかったな……捕まえる気ないとか言っておいて、裏に回してるじゃん。さて、どうしたモノか……」
フィリップの速さがあれば、逃げるだけなら余裕。しかし、フレドリクたちのレベルを加味すると、見えないように移動するのは難しい可能性がある。
「直ちに出て来ないのならば、強行手段をとることになるぞ? その場合でも帰してやるから無駄な抵抗はやめておけ。無駄に怪我をする必要もあるまい」
フィリップが考えていたらフレドリクの最後通告が来てしまった。
「フッ。強情だな……わかった。私から出向こう」
フレドリクが一歩進むと近衛騎士が止めようとしたが、優しく手を払って止まることはない。しかしその時、フィリップが隠れていた場所からボールのような物が飛び出して、次の瞬間には煙りが上がった。
「「「「「皇太子殿下!?」」」」」
煙りが上がると同時に近衛騎士が前を固めたが、煙はさらに至る所で上がってフィリップがいた一帯は空まで煙で包まれた。
「私のことはいい! 煙に注視しろ! 何か動きがあれば煙も動くぞ! 消えるまでは隊列を乱すな!!」
それでもフレドリクは冷静。煙はそのうち消えると、完璧な指示を出す。そうして5分ほど待てば、人間ぐらいは確認できるだけの視界は開けた。
「兵は低速前進! 包囲を狭めながら何も見落とすな! 私は先に行く!!」
フレドリクは指示を出したあとにダッシュ。フィリップがいた角に突撃した。
「カイ!?」
「フレドリク!?」
「「殿下!?」」
「ヨーセフもモンスも……」
同じように突撃したカイ、ヨーセフ、モンスと鉢合わせたフレドリクは目を丸くする。
「「「「夜の帝王はどこに行った……」」」」
突如、夜の帝王ことフィリップは、煙と共に闇に消えたのであった……




