366 皇帝の笑み
フィリップは仕事を始めても、夜遊びはやめられない。夜遊びが休みの日は、カイサやオーセとお楽しみ。
たまにペトロネラが訪ねて来るので、嫌々お相手だ。今日はやることやったら、フィリップはバルコニーに出て夜風に当たっていた。
「殿下~? どこ~??」
「こっちだけど……裸でワインボトルはやめよっか?」
すると、はしたないどころではないペトロネラが探しに来たので、フィリップはバスローブを持って来てバルコニーでお酒に付き合う。
「何をしていたのですか?」
「特には何も……最近平和だな~っと思ってただけ」
「平和? そうですね。今まで気付きませんでしたが、城は平静を取り戻していましたね。やはり原因は……」
「誰とは言わないけど、そういうことだろうね」
平和な理由はフレドリクとルイーゼがいないおかげ。ペトロネラも自分の部隊が落ち着いていたことを思い出した。
「できれば帰って来てほしくないけどね~……そういうワケにもいかないから困ったモノだ」
「フフフ。そうなっては殿下が皇位を継ぐしかありませんものね。よけい荒れるに決まってます」
「だよね~?」
「でも、陛下は褒めてましたよ」
「最近会ったの?」
どうやら皇帝は仕事量が減ったから、ペトロネラと毎週のようにお茶をしているみたいだ。
「マジか~……僕たちの関係はバレてないよね?」
「ええ。噂話作りだと信じてくれています。自分も貢献すると笑っていましたよ」
「えぇ~……父上が参入すると親子で三角関係になっちゃうじゃな~い」
「もうドロドロですね。フフフ。まぁさすがに陛下のことは悪く言えませんから、あまり噂が流れていませんけどね」
「だからその分、僕に来てるのか~。やっと謎が解けたよ~」
ここ最近のフィリップの噂は浮気者だとかNTRとかが多かったので、カイサたちが「誰から寝取ったの?」と目をキラキラさせて聞いて来るからずっと変だと思っていたらしい。
「それはそうと殿下……陛下を見ていて何か気付いたことはなかったですか?」
「父上を? ……ちょっと痩せたかなとは思ったかな??」
「ですよね? 最近は顔色は少し良くなったと思いますけど、病気か何かじゃないといいのですが……」
「顔色が良くなってるなら大丈夫じゃない? 最近は仕事量も減ったみたいだし、体を労る時間も増えたでしょ。いちおう父上には、時間があるうちに診察するように勧めておくよ」
フィリップが提案するとペトロネラも安心した顔になる。そこからはお互い皇帝の話をしてゆっくりとした時間が流れるのであった……
翌日にはフィリップは皇帝に「健康を維持するために検査に行って」とお願いしたら、撫で回しの刑。体を心配してくれたのが嬉しかったっぽい。
いちおう週末には掛かり付けの神官に見てもらうと言質は取れたので、今日のお仕事だ。
「先日、各領地の使者を集めて話し合いを行った結果、大まかな人件費や材料費も揃いました。今日は売り値と取り分を決めてしまいましょう」
コンラード宰相は皇帝とフィリップに資料を渡すと、フィリップは興味無さそうに捲る。議論も2人のやり取りを聞くだけだ。
「ふむ……人件費を含んだ原価はこんな物だろう。それぞれの取り分でかなり売り値は変わるがな」
「皇家を低く抑えれば、領主もそれ以上は取らないでしょう。あとは発明者のフィリップ殿下をどれだけにするかですね」
「うむ。フィリップはどれだけほしい?」
ボーっとしていたフィリップは、いきなり話を振られたので慌てて返す。
「僕は~……いらないや。その分、末端で働く人に手厚くしてやって」
「正気ですか? 予想ですが、莫大な利益になりますよ?」
「いいよいいよ。いまでも使い切れないお金貰ってるもん。それに父上が発明したと言っちゃったから、僕にお金が入るのおかしいでしょ」
「フッ……もう手を打っていたか。宰相、そのようにやってやれ」
「はっ……」
最初に皇帝を出したフィリップの勝利。皇帝は両手を挙げて負けを認め、コンラード宰相は何か言いたげな顔でソロバンの価格を設定するのであった……
それから昼過ぎ、フィリップはいつものように仕事を終えてスキップで出て行くと、コンラード宰相は呆れた顔で皇帝を見た。
「権力には興味なし、お金にも興味を持たないとは、殿下には欲という物がないのでしょうか?」
「女には欲はあるみたいだがな」
「その噂は多々ありますが、証拠はひとつもありません。本当に何がしたいんだか……」
コンラード宰相もフィリップが気になるのか最近調べ出したけど、人物像がちゃらんぽらんとしか情報は集まらなかったみたいだ。
「何にしろ、愛国心はあるのではないか?」
「愛国心が一番遠いようにしか見えないのですが……」
「国が割れないように馬鹿を演じ続けてくれているではないか。それに大金を前にして下々の者を優先するとは、そうそうできないぞ。貴族もフィリップを見習ってほしいモノだ」
「そんなことを大っぴらに言ったら、国が荒れますから絶対にやめてください。必ず噂のほうに引っ張られますから」
「ふはは。確かにな。わはははは」
コンラード宰相は本当に心配した言葉だったのに、冗談に聞こえた皇帝は大笑い。そんな皇帝を見たことのないコンラード宰相は、こんなに親馬鹿だったのかと驚くのであった……




