364 ソロバンの普及
ソロバン製作は、護衛騎士の頑張りというか2日連続で慣れていたから、予定通り翌日には2個のソロバンは完成していた。ただ、家具職人は皇帝と宰相用と聞いていたから、せめて金色と銀色の塗装を施したようだ。
その2個をジャラジャラ鳴らしながらフィリップは出勤。皇帝たちにどっちを使うと聞いたら、コンラード宰相が銀色のソロバンを奪い取った。そりゃ聞くまでもなく、金色は皇帝だろう。
今日のフィリップの仕事量は、昨日の1、5倍。フィリップはブーブー言いながら始めると、執務室はパチパチとソロバンの音が鳴り響く。
それでも全員集中して仕事をしていたら、あっという間にお昼休憩だ。
「ねえ? ごはんの時間だけど……1人で行っていい??」
休憩時間前にはキリのいいところで終えていたフィリップは、全然お声が掛からないので申し訳なさそうに言ってみた。
「おお。もうそんな時間か」
「これのおかげであまりにも仕事が捗るから没頭し過ぎましたね」
どうやら皇帝とコンラード宰相は、ソロバンのせいで時間を忘れて仕事をしていたみたいだ。
「確かに計算が楽になったな。これは文官にも普及させたほうがよさそうだ」
「ええ……いっそのこと、売ってみてはどうですか? 皇家の銘を刻んで売れば、商人なら大枚叩いて買ってくれるでしょう」
さらにその先を見据える2人。フィリップは出て行きたいのに、2人の話が弾んでいるので出るに出れない。
「商人にか。国庫が潤うのは願ってもない……フィリップはどう思う?」
皇帝からも質問が来てしまっては、フィリップも話に入るしかない。
「高く売るのは反対かな~? やるなら薄利多売じゃない??」
「安く売って、どう利益を出すつもりですか?」
「ほら? どこにでもある材料で作るんだから、誰でもマネできるじゃない? だったらマネされてもいいように、大量に揃えてから一気に売り抜いたほうが儲かりそうなんだけどな~」
「皇家の銘を刻むのですから、そうそうマネなんてできませんよ」
「僕なら隠れてやるって~」
フィリップとコンラード宰相の議論に発展すると、黙って聞いていた皇帝が間に入る。
「フィリップの手はアリかもしれん……」
「でしょ~?」
「どういうことですか?」
「これから収穫を迎える。冬には手が空く者が多いのだから、その間の手仕事には持って来いだ」
「なるほど……収穫の悪い村にやらせたら、食い繋げられますね……」
「うむ。各村でやれば人件費は安く済むし輸送費も浮く。薄利多売もできないことはない。そういうことだな?」
皇帝は期待した目で確認を取るので、フィリップは自信のない演技だ。
「そ、そんな感じ……だと思う……その手があったんだ……」
「そこまでは思い付いていなかったみたいですね……」
「フッ……そういうことにしておいてやれ。休憩にしよう」
でも、皇帝にはバレバレ。コンラード宰相はまだフィリップの有能さは疑っているので、信じられないって顔で立ち上がるのであった。
ランチは皇帝と一緒にとっていたフィリップは、褒められまくって撫で回されてグロッキー状態。執務室に戻っても、しばらく動けないのでソファーで横になっていたら、また2人に絡まれていた。
「もう少しで終わりそうだな」
「ですね。これを終えたら、計算器の仕事に回ってもらいましょうか」
「えぇ~……」
夜遊びしたいがために急いだのは大失敗。今日こそお昼寝しようと思っていたのだから、フィリップも反論だ。
「僕、あまり表だって動きたくないんだけど~?」
コンラード宰相にバレてしまったことはどうしようもないので、フィリップとしてはここで留めたい。
「それもそうだな……ここは宰相の息子にやらせてはどうだ? いい経験になるだろう」
「本当はフィリップ殿下に全てを任せたいのですけどね……わかりました。倅に手配させましょう」
2人もフィリップのことは隠していたいのでこれが通った。なのでフィリップは仕事が減ったと拳をグッと握り込んだ。
「では、殿下は計算器の設計図や工程表、大まかでいいので費用の概算を提出してください」
「えっと……僕、まだ仕事が残ってるんだけど~?」
「この程度すぐ終わるでしょう」
「ええぇぇ~~~」
「フッ……」
でも、全ては逃れられない。コンラード宰相に扱き使われ皇帝には鼻で笑われて、フィリップの仕事は続くのであったとさ。
執務室での仕事を終えたフィリップは、メイド食堂にいると聞いていたカイサたちと合流。今日も夕方まで仕事と聞いていたのにフィリップが現れたので、「やっぱり仕事はウソだよね?」とヒソヒソやってる。
また家具職人の職場に顔を出したら、各種指示。手の空いている人間でソロバンの設計図等を作らせる。いちおうフィリップもアイデアを出していたから、カイサとオーセは「仕事してる」と目を擦っている。
「あ、そうだ。この金ピカの計算器、父上に不評だったからナチュラルな感じに色変えて。目がチカチカするんだって」
「も、申し訳ありませ~~~ん!!」
「試作機だから父上も怒ってなかったよ?」
ついでに色の変更を指示したら、家具職人は土下座。そりゃ帝国の頂点にいる人に不評なら、そんな反応になっても仕方がない。カイサたちは「この人どうなるの?」とドキドキだ。
一通り指示だけしたら、あとは結果待ち。フィリップは執務室に戻って報告を入れたら、すぐにスキップで出て来た。
「2人とも、帰るよ~」
「「はあ……本当に仕事してるのかな~??」」
そんな感じだから、今日もカイサとオーセは仕事をしている確信は持てないのであったとさ。




