362 便利な道具
フィリップから工作の仕事を承った護衛騎士は、お金の力とマンパワーを持ってして、2時間もせずに発注した物を完成させた。
その品は、1人の護衛騎士を走らせて家具職人にお届け。フィリップは完成を楽しみに待ち、カイサとオーセと楽しんでから就寝する。
翌朝はフィリップは寝坊したけど、カイサとオーセがマッサージで起こしてくれたのでスッキリ起床。少し早く出て、家具職人の仕事場に顔を出す。
フィリップの頼んだ物は完全な形になっていたから、金貨2枚の支払い。多いと思うなら関わった者全員でメシでも行けと大声で言ったら辺りに歓声が上がったので、独り占めは無理そうだ。
それを持ってフィリップは出勤。カイサとオーセにはお昼まで自由時間を与えているから、居心地のいい根城に戻っていることだろう。
「昨日の倍はあるんだけど~??」
コンラード宰相に書類を持って来させたらこの始末。フィリップの計算が早かったから、この程度は余裕だと判断したようだ。
「昨日はお試しでしたので。もしも終わらなくても手は出さないので御心配なさらずに」
「ねえ? 自分の子供も殴って教育してたの??」
フィリップの質問にコンラード宰相はニッコリ微笑んで会釈だけして去って行くので、本性が怖くなるフィリップ。
しかしそんなことを考えている時間もないので、さっさと仕事に取り掛かるのであった。
パチパチパチ……ジャー! パチパチパチ……ジャー!
フィリップが仕事を始めるとこんな音が鳴り響く。皇帝とコンラード宰相はパーテーションの先からまたしても不思議な音が聞こえて来たので、何事かと顔を見合わせた。
「フィリップ……うるさい」
「あっ! ゴメ~ン。気を付けるよ~」
とりあえず注意したら音はかなり小さくなったので、皇帝もそれ以上は言わない。それからお昼になったら、皇帝はまだ仕事があると言ってフィリップだけ先に皇族食堂に向かわせた。
「フッ……もう終わりそうだぞ」
「間違いはなさそうですね……」
仕事があると言ったのは皇帝のウソ。フィリップが何をやっていたか気になるから追い出して、コンラード宰相と一緒に確認したかったのだ。
「しかし皇太子殿下でも、こんなに早く終わるとは思えません。いったいどうやったのでしょうか?」
「おそらくさっきの音が関係しているのだろう」
「あの音ですか……ということは、コレですね」
ローテーブルには見慣れない長方形の物体が乗っている。コンラード宰相がそれを持ち上げるとジャラジャラと音が鳴った。
「音は近いですけど……楽器みたいですね。どう使う物なのでしょう?」
「さあな……俺たちも先に食事にしよう」
わからないならフィリップに聞くしかない。2人は予想しながら食堂に向かうのであった。
皇族食堂ではフィリップがほとんど食べ終わっていたので、皇帝が「自由にしろ」と言ったら逃げてった。
それから皇帝も素早く食べて執務室に戻ったら、フィリップはソファーで寝てた。それをコンラード宰相がなんとも言えない顔で見ていたので、皇帝はポンッと肩を叩いた。
「休憩時間なのだから好きにさせてやれ」
「わかっております。わかっておりますが、こうも歴史に名高い場所で堂々と寝られると……前代未聞ではないですか?」
「そうでもないぞ。俺もたまに寝ることはある」
「それは忙しいから寝る時間がないので仕方がないことですよ」
いくらフィリップが有能でも、生活態度は許せないコンラード宰相。少し苛立ちながら仕事の準備をして、時間となったらフィリップを揺さぶって起こした。
「ふぁ~……さあ、働くぞ~」
フィリップはあくびをしてから書類を触ったけど、ふたつの影がまったく動かないので顔を上げた。
「あの~? 何か用? 僕、なんかやらかした??」
ふたつの影とは皇帝とコンラード宰相。腕を組んで無言で見下ろしているからフィリップも怖くなってる。
「いやなに。その道具はなんだと思ってな」
「あぁ~……見ちゃったか」
フィリップだって馬鹿ではない。書類の位置等も微妙に違うのだから、お昼休憩の時にチェックされたと気付いた。
「なんて言ったらいいんだろ……計算器って感じ??」
「計算器? 計算を楽にしてくれる物ということか??」
「そそ。見たほうが早いね。1+3だと下の玉を4個動かして……んで、+1で5は上の玉をこう動かす……」
フィリップは口で説明しながら玉をパチンパチンと上下に弾いて説明する。ということは、フィリップが作った物はソロバンだ。
昨日、家具職人に話を持って行った時には、この玉が多いから時間が掛かると泣き付かれた。だから、無駄にレベルが高く力の余っている護衛騎士にやらせたのだ。
思った通り、護衛騎士にヤスリを渡して木を削らせたら、みるみる丸くなったんだって。何度か摩擦で煙が上がったらしいけど。
「という感じで、計算を補助してくれるの」
一通りフィリップが説明すると、皇帝たちもある程度は理解してくれた。
「なるほどな。だが、フィリップはどうしてこんな便利な物を作れたのだ?」
「数を数える時に、縦線を4本書いて、横線を一本書く数え方をやってるヤツがいたの。5を1として数える方法だけど……知ってる?」
「ああ……そういうことか? それを取り入れた物ということか?」
「そそ。いちいち紙に書いて計算するの面倒だから、楽ができないかと思って~。誰だか忘れたけど、ヒントをくれた人には感謝だね」
フィリップは居もしない5進法使いに話を持って行ったけど、皇帝は疑った目をしてる。しかしコンラード宰相は違うことを考えていた。
「これ、私にもいただけませんか?」
「俺も欲しいぞ」
どうやらソロバンが気になるみたい。そんなこと言うから皇帝も御所望だ。
「いいけど……仕事が終わってから発注掛けるから、早くて明後日ぐらいになっちゃうかも??」
なので完成予定時刻を告げたが……
「もうほとんど仕事は終わってるだろ」
「それを終えたら帰ってもらって構いません」
通じない。
「えぇ~……このあとお昼寝しようと思ってたのに~~~」
実はフィリップ、ソロバンを作ったのは夜遊びしたいがためにお昼寝時間を確保するため。
だから今日は急いでやって、残り時間は寝て過ごそうと思っていたのに、皇帝たちに仕事を急かされて執務室から追い出されるのであったとさ。




