361 フィリップの真価
執務室を出ると、前室で待っていたカイサとオーセがフィリップの後ろについて歩く。フィリップが小声で愚痴っていたけど、皇帝がその前を歩いているから2人は無視だ。
そうして皇族食堂に入ると皇帝は人払いをして、フィリップと並んで高級食材をふんだんに使ったカレーライスを食べる。
「何か気付いたことがあるのか?」
皇帝の中ではフィリップの評価は高いので、仕事の進捗状況が悪くても説教の対象じゃないみたいだ。
「うん。けっこう計算ミスがあるから、このまま通していいのか聞きたかったの」
「計算ミス……それはどこまで調べたのだ?」
「いちおう全部目は通したけど……僕が間違ってたらゴメンね」
「あの量を全てだと……」
皇帝、ビックリ。ここまでフィリップの計算が早いとは想定外だったみたい。フィリップが持って来た間違いを指摘する書類を見て二度ビックリだ。
フィリップは転生する前はブラック企業で働いていたから、この程度の書類仕事だとサクサクやってしまった。しかし皇帝の顔を見て、実力を見せ過ぎたと言い訳を捻り出す。
「ま、まぁ、小さな額だから、このままでもいいかな~? 全部手直ししたら、父上の仕事が増えちゃうし。印章押しちゃうね?」
なので、仕事量を心配しているフリでやり過ごしたい。
「それはならん。国民の血税だぞ」
「う~ん……でも、本当に少額だし。全部マイナスになってたから、誰かがお小遣い程度に中抜きしてるだけじゃない?」
「もっと酷いぞ……」
フィリップが思ったことを口にしたら、皇帝は殺気ダダ漏れ。それでフィリップがプルプル震えていたので、皇帝は怒りを収めた。
「ならば、フィリップならどう対応する?」
「僕? 僕なら……額にも寄るかな? 少額なら大目に見て、大金なら一発アウトってところ。上級貴族が何かやっていたら、ここぞという時の脅しのネタに使うのも面白いかな?」
「ふむ……確かに面白い手だな。何か反発した時に出すと効果的だ。額に寄るがな」
しかし、大雑把な解決策を提出すると皇帝も興味津々。ブツブツとこれからの策を考えていたので、フィリップは相槌を打ちながら食事をするのであった。
昼食を終えると、フィリップはまたカイサとオーセに「食べた気しない」と愚痴っていたけど、またまた無視。皇帝がさっきより険しい顔をしてたもん。
執務室に到着すると、カイサとオーセには1時間の自由時間を与えてフィリップは中に入る。
そうしてフィリップは皇帝に言われた通りの仕事をして、ちょっと休憩。開始から1時間になると、「終わった~!」と飛び跳ねながら出て行くのであった……
「本当に終わったのですか?」
お昼前にはフィリップの仕事がまったく進んでいなかったから、コンラード宰相は疑って皇帝に質問している。
「俺の言ったことは終わっているはずだ」
「また印章が押されていないのですが……」
「見るべきはそこではない。数字のところに印が付いてないか?」
「しるし? ありますね。計算が間違っている……それも何ヵ所も……ま、まさか……」
コンラード宰相は焦ったように書類を捲って印を探す。その書類は全ての計算ミスが訂正され、合計までもが書き直しされた上に差額もしっかりと書かれていた。
「これをフィリップ殿下がこんなに短時間でやったと……」
「信じられないだろうな。これが、俺がフィリップを叱れない理由だ」
「陛下は以前からご存知だったと……これ、下手したらフレドリク殿下並みに賢いのでは……」
フィリップの実力を知ったコンラード宰相は何かに気付いて息を飲む。
「これを誰かが知ってしまうと国が荒れてしまいますよ!?」
そう。血を血で洗う家督争いだ。帝国が真っ二つに割れる戦を想像したコンラード宰相は顔を青くする。それとは違い、皇帝の顔は穏やかだ。
「だからフィリップは隠しているのだろう。馬鹿なフリまでしてな」
「あのハチャメチャな言動も行動も、国を守るためだったなんて……」
「宰相も他言するな。フィリップならフレドリクを邪魔するようなことはしないからな」
「はっ……」
フィリップの有能さを知った人物は、城では2人目。コンラード宰相もこれは表には出せないと黙るしかないのであった。
「侍女の制服を作ったのも、本当はフィリップだぞ」
「はあ……嬉しそうですね」
でも、皇帝はやっと人に喋れると親馬鹿になって、フィリップの賢さを語るので、それには口を出してしまうコンラード宰相であったとさ。
執務室を出たフィリップは、カイサとオーセと合流するとスキップで移動。2人は仕事をするとは聞いてはいたけど眉唾物らしい。
「殿下、本当に仕事をしていたのですか?」
「うん。してたしてた」
「本当に本当ですか? まだおやつの時間にもなってませんよ??」
「ホントホント。今日は初日だから、早く帰してくれたの~」
「「本当なのかな~?」」
フィリップの言い方が軽すぎるので信用できない2人。なんだったら「仕事の邪魔だから追い出されたのでは?」と陰口言ってる。
そんな2人を無視してフィリップはメイド詰め所にやって来た。そこで家具の修理等を行っている部署の場所を聞いてそっちに移動。カイサとオーセは家具でも発注するのかと聞きながらついて行く。
その部署に着くと一番偉い人を呼び出したら、フィリップの新居作りを手伝っていた人だったけど覚えてない。
「どう? こういった物を作れる??」
周りの目は冷たいけど、フィリップはラフ画を見せて発注だ。
「作れますけど、これは何に使う物なのですか?」
「……オモチャかな? とりあえず明日の朝までによろしくね~」
「明日!? ちょ、ちょっと待ってください!」
さすがに見たことも聞いたこともない物では、そんなに短時間では作れないと泣きが入ったので、フィリップは分業を提案。
それならばと折れてくれたので、設計図だけしっかりした物を作ってフィリップは帰路に就く。
「ヤローども! 仕事だ~!!」
「「「「「はっ!」」」」」
根城の庭でフィリップが叫ぶと、護衛騎士はダッシュで集合。久し振りに騎士としての仕事が来たと顔も精悍だ。
「この設計図通りの物を作ってくれる?」
「「「「「ええぇぇ~……」」」」」
でも、工作の仕事だったので、一気に情けない顔に。
「ボーナスで金貨1枚ずつ払うから、綺麗に作ってね?」
「「「「「はっ!!」」」」」
でも、お金の力で精悍な顔は復活するのであったとさ。




