356 平民街に轟く悪名
フィリップとペトロネラタッグに浮気ネタを握られたラーシュはダッシュで逃走。門から出て行ったけどすぐに戻って来たのでどうしたのかと見ていたら、乗って来た馬を忘れてたみたい。
なのでフィリップたちは「けっこう抜けてるね~?」と笑いながら部屋に戻る。ペトロネラも自分の家のようについて来て、フィリップは嫌々マッサージだ。
朝方見送って二度寝したフィリップは、昼過ぎにカイサとオーセに優しく起こされた。
「ん~? 僕の仕事??」
2人はフィリップの仕事が昨日から気になって仕方なかったらしい。
「はい。出会ってから一切仕事してませんよね?」
「どこからお金が来てるのですか?」
「お金は~……国民の血税??」
「「ひ、酷い……」」
仕事もしないで豪華な暮らしを血税でやっているのだから、カイサもオーセも軽蔑だ。
「いや、僕も仕事ぐらいしようと思ったよ? でも、父上が体の弱い僕に任せられないってね。だから仕方ないんだよ」
「「仮病のクセに……」」
「仮病の時もあるけど、熱が出てる時もあるでしょ~~~」
ちょっとだけ言い訳しても2人は信じてくれない。フィリップの生活態度が悪すぎるもん。なのでもう少し重たい話をしてみる。
「ここだけの話だよ? これ、2人にしかしないから、絶対に秘密にしてね? お兄様にもだよ? お願いね??」
「「はあ……」」
フィリップが手を合わせてお願いすると、2人は嘘と決め付けて聞く。
「僕、政略結婚で父上に売られるの」
「「……へ??」」
「第二皇子あるあるだよ。お金持ってる有力貴族に、公爵って肩書きを売るワケだ。だからそれまでは好きにしてろって言われたの。父上も罪悪感があるみたい」
「「……」」
2人は信じていいのかと黙って目を合わせた。
「その時が来たら、2人にはついて来てほしいな~? どうせ嫁さんは僕のこと愛してくれないし……なんとか説得するから、お願い!!」
フィリップが必死でお願いしたら、本当のことを言っているように聞こえたみたいだ。
「まぁ給金が変わらないなら……」
「この生活を死ぬまで続けられるなら……」
「本当!? ありがと~~~う!!」
「「う、うん……」」
2人は「お金があるなら」と言っているようなモノなのに、フィリップはめっちゃ喜んで抱きついたので、「自分たちは心が汚れているのかも?」と思うカイサとオーセであった。
フィリップは見えないところで悪い顔してるのに……
とりあえず仕事の件は、2人も納得はできないが受け入れてくれたのでフィリップも一安心。そのままマッサージに移行して、ベッドの上で話をしていた。
「それにしても、殿下の結婚相手ですか……」
「貴族ですよね? やっぱり性格悪いんじゃないですか?」
「どうだろうね。たまにいい子はいるけど、お金持ってる子は性格悪い子が多いもんな~」
「ああ~……あの悪役令嬢とか、すっごく性格悪いらしいですね」
「まさか悪役令嬢のところじゃないですよね?」
「その悪役令嬢って、誰のこと??」
「「エステル・ダンマーク様です」」
2人からエステルの名前が出るとは思っていなかったフィリップは、どこで知ったのかと聞いてみる。
名前じたいはフレドリクが婚約破棄したあとに平民街にも轟いたらしい。さらに悪行も轟き、2人は話半分で聞いていたけど、城のメイドにどんな人物か聞いてみたら想像より恐ろしい答えが返って来たそうだ。
「アハハ。酷い言われようだな~。アハハハ」
メイドのエステル像は、鬼そのもの。逆らう人間は集団で嬲り殺し、帝都学院を恐怖で支配していたと聞いたフィリップは大笑いだ。
「「え? 違うのですか??」」
「ぜんぜん違うよ。たぶん次期皇后から転がり落ちたから、メイドたちは弱っているところに塩を擦り込んで、二度と戻って来れないように噂してんだよ」
「「こわっ……」」
「だよね~? その前までは尻尾振って悪役令嬢にスリ寄り、言われてもいないのに聖女ちゃんをイジメてたのに、どの口が言ってんだろうね~??」
メイドの性格の悪さは2人も経験済みなので、この話はすんなり入って来たみたいだ。
「それはそうと、殿下は悪役令嬢に詳しいですね。会ったことあるのですか?」
「そりゃお兄様の元婚約者だもん。小さい頃から知ってるよ。帝都学院でも、2年間見て来たもん」
「へ~……本当はどんな人なのですか?」
「悪役令嬢はね~。すっごく目付きが鋭い美人の巨乳さんなんだよ~?」
「「そういうことじゃなくて……」」
2人は見た目なんか聞いてない。なので、性格やエピソードを根掘り葉掘り聞き出した。
「えっと……メイドの噂よりマシってだけで、充分怖い人ですよ?」
「自分の手を汚さないで皆にやらせるなんて、もっと酷いのでは?」
「そう? けっこう面白い人だったんだけどな~」
「「この人の基準もおかしいの忘れてた……」」
類は友を呼ぶ。フィリップの噂も大概酷いので、2人は「同類じゃね?」と目だけで会話してるよ。
「あ、そうだ。そろそろ敬語は慣れたんじゃない?」
なんだか2人の話が愚痴に変わったので、フィリップはカットイン。
「そうですね。すっと出るようになりました」
「私もどこに出ても大丈夫だと思います」
「それじゃあもういいかな~?」
フィリップの顔がスケベな感じになったので、2人は「この顔、なんの合図だっけ!?」と怯えてる。
「この部屋で僕たちだけの時は敬語やめよっか?」
「「……へ?」」
「ほら? スカウトした時に、気を遣われるのはイヤって言ったじゃない? 2人の敬語が板に付くの待ってたの~」
「「ああ~……」」
2人はその程度だったと安心したけど、そもそも第二皇子と普通に喋るのがちょっと怖い。
「畏れ多いかと……」
「このままのほうがいいと思います……」
「僕がそんなことで怒ると思ってるの? ボエルなんてあんな口調で手まで上げてたんだよ??」
「「あっ!!」」
でも、ボエルと一緒に生活をしていた時を思い出したら、その恐怖は解決だ。
「あとね~。お姉ちゃんとか妹設定にしたいんだよね~……どうどう? そういう設定があったほうがマッサージが楽しくな~い??」
「「裏表ない顔だったんだ……」」
「なんのこと??」
フィリップのスケベ顔は、どストレート。取説にも「スケベ顔の時は誰彼構わず手を出すから気を付けろ」と書かれていただけなんだとか……




