348 ボエルの旅立ち
皇帝たちを見送ったフィリップは、部屋に入るなりソファーでぐで~ん。カイサとオーセも疲れただろうとソファーに呼んだらぐで~んだ。
「アハハ。みんなお疲れ。ほら? 茶だ」
そこに補助役として近くに立っていただけのボエルがお茶をいれて持って来てくれた。
「「疲れました~」」
「だろうな。オレでも緊張するし。でも、2人ともちゃんとできてたぞ。よく頑張ったな」
「「はい~」」
ボエルがベタ褒めして、カイサとオーセもお茶を飲んで気持ちを落ち着かせたら、動こうとしないフィリップに話を振る。
「それにしても殿下って、皇帝陛下に何度も頭を撫でられてましたよね? アレってなんなんですか?」
「知らないよ~」
「膝にまで乗せられて……まるでお父さんが子供をあやしてるみたいでしたよ? 殿下の年齢って……」
「15。今年16。父上、僕のこと大人と言うクセにやめてくれないの~~~」
「「「アハハハハハ」」」
この話はフィリップだって理由を知りたいところ。なのでカイサたちも同じ被害はないのかと聞いてみた。
2人もけっこう遅くまで父親に撫で回されていたらしいけど、「子供扱いするな!」と激ギレして終了。お客さんや親戚にも撫で回されそうになったら、激ギレプラス噛み付きで阻止してるらしい。
「「殿下も同じようにしてみては?」」
「僕の相手、帝国の頂点にいる御方だよ? できる??」
「「諦めてください……」」
「イヤだよ~~~」
フィリップだってやれる物ならやっている。皇帝に言い出し難いのに、さらに難易度の高いことができるわけない。
この日はフィリップのボヤキが止まらずに、ボエルだけ笑い続けたんだとか……
それから数日、ボエルは朝と夕方にカイサたちの指導をする意外は剣の訓練や彼女との逢瀬に心血を注いでいたら、ついにフィリップに仕える最終日となった。
ただ、最終日もフィリップは根城でグウタラしてるので、やることは朝と夕方のメイド詰め所に顔を出すことだけ。それでもちゃんと仕事をしたら、護衛騎士も加わっての送別会の開始だ。
「皇太子殿下の近衛騎士か~……羨ましい」
「ま、ボエルの実力なら、当然の抜擢だな」
「皇太子殿下のこと、頼んだぞ」
「おう。てか、お前らも実力はそれなりにあるんだから、ここで鍛えて殿下に推薦してもらえば、近衛騎士も夢じゃないぞ」
「「「「「おお!」」」」」
「こっち見るな。お前たちは飼い殺してやるからな」
「「「「「ええぇぇ~……」」」」」
護衛騎士の期待のこもった目は、フィリップは塩対応。かわいいチワワみたいな男の目は気持ち悪いもん。
「こんなこと言ってるけど、殿下は優しいから心配するな。いいようにしてくれるって」
「ないよ? 女が絡んでないもん」
「あ……」
フィリップが動く時は、女絡み。そのことを思い出したボエルは「頼むよ~」と女をフル活用だ。
「ボエルの頼みだからね? ただし、自分の代わりは自分で探して来い。ま、2、3年後の話だけど。それまではしっかり働かないとこの話も無しだ」
「「「「「はっ!」」」」」
結局はフィリップが折れて護衛騎士のやる気アップ。フィリップとしては、あと1、2年で悪役令嬢と結婚するから期待に応えるつもりはないけどね。
宴もたけなわとなると、最後の夜。ボエルは言われてもいないのに、フィリップのベッドに入ってマッサージをしていた。
「これで男は最後か~……」
マッサージが疲れたところで、ボエルはフィリップを腕枕しながら感慨深く呟いた。
「僕のこと、男に見てくれてたんだ」
「まぁ……ギリな。付いてるからギリギリな」
「付いててもギリギリなんだ……」
男のシンボルが付いていても、男に見えないと言われているのだからフィリップもズーンっと落胆。ただ、言いたいことがあったので、頭を振って嫌な気持ちを振り払う。
「明日みんなの前で言うの恥ずかしいから、いまの内に言いたいこと言っておくね。こんなことしておいてアレだけど、僕、ボエルのこと、ずっと友達だと思ってたの。いや、悪友ってヤツ?」
「悪友か~……だな。オレと殿下の関係に一番しっくり来るかも? 学生時代にしたかったこと、全部やった感じだ」
「浮気とかナンパ、楽しかったね~」
「ああ。楽しかったな……」
しばし2人でやった悪いことを喋っていたけど、ほとんどフィリップの悪事だったのでボエルはしっくり来なくなる。それで話が途切れたので、ボエルはここだとばかりに体を起こして土下座する。
「殿下……殿下のおかげで、オレの悩みは解決できた。添い遂げられる人もできた。近衛騎士にもなれた。全て殿下のおかげだ。今までありがとうございました!」
感謝の言葉を述べてから顔を上げたボエルの目は潤んでいた。
「そんなのやめて。僕はちょっと手伝っただけ。それらは全て、ボエルが普通に手に入れることができた物だよ」
「いや、殿下のおかげだ! 感謝してもし足りねえ!!」
涙ながらに怒鳴るボエルに、フィリップもお手上げだ。
「わかった。感謝は受け取るよ。でも、忘れないで。ボエルは未来の足掛かりを掴んだだけ。これから大変な道を切り開くのは、ボエル自身だよ?」
「ああ! わかってる!!」
「と、思ってるのはボエルだけだよ?」
「ど、どういうことだ??」
フィリップも体を起こして目を見て語る。
「ボエルはこう思ってない? 自分は男だから、どんなに辛いことでも耐えられると」
「まぁ……」
「それ、間違い。そりゃ辛い訓練だったら耐えられるよ。でも、着替えはどうするの? トイレは? 寝床は? どこまで行っても、女は付き纏って来るんだよ」
「……」
ボエルの手を取ったフィリップは一気に喋る。
「いい? 男から見たら、ボエルは女なの。女に見られるのは嫌だろうけど、必ず女として扱ってもらうんだよ? それが、自分を守る盾になる。
もしも、一服盛られたらどうする? 寝てる所を5人もの男に襲われたらどうする? いくらボエルが強くても、犯される可能性は高い。そうなってからでは遅いの。
だから、男にそんな気持ちを起こさせないように、最低限は距離を取らなくてはならない。僕は、ボエルに傷付いて欲しくないの。いま言ったことは、必ず守って。お願い!」
今度はフィリップが頭を下げると、ボエルも完全にわかってくれたようだ。
「そうだな……どう見てもオレは女なんだよな……わかった。殿下の言ったこと、必ず守る。ここまで心配してくれて、本当にありがとうございます」
またボエルが頭を下げて、お互い笑顔で顔を上げるのであった……
「あと、餞別にこんな物あるんだけど……いる?」
「こ、これは……こんな物、どうしたんだ?」
「秘密裏に作って貰いました。これさえあれば、彼女と繋がれるよ~?」
「いります! ありがとうございます!!」
「さっきより笑顔だな……」
フィリップの渡した棒は、まぁ、女性カップルの必需品とだけ言っておこう。その棒を握ったボエルは高々と掲げて笑顔で喜ぶのであったとさ。
翌日……
「3年を超える長きに渡る任、大儀であった」
フィリップはボエルに最大級の感謝を述べていた。
「はっ! もったいないお言葉……って、殿下には似合わねぇな~」
「それ、僕も思ってた! アハハハ。あ、昨日あげたの、使ったあとは綺麗に洗って清潔にするんだよ?」
「バッ! こんなところでなに言ってやがんだ!?」
「アハハ。餞別の言葉~。アハハハハハ」
この場にはボエルの友達がいるので、大人の話をブッ込まれたボエルは顔が真っ赤だ。
「もうひとつ餞別~。この手紙、カイとお兄様に渡して。ボエルに起こりそうな悲劇を書いておいた。カイはたぶん無理だと思うけど、お兄様ならなんとかしてくれるよ。頑張ってね」
「何から何まで……ありがとうございました!」
これにて、ボエルの仕事は終了。ボエルは目に涙を溜めてフィリップに背を向ける。
「「「「「ボエル~! 頑張れよ~~~!!」」」」」
「「ボエルさ~ん。ありがとうございました~!」」
友達の応援の声、カイサとオーセの感謝の言葉を背中に聞きながら、フィリップの下を涙ながらに旅立つボエルであった……
「ボエル~。3年間オモチャにして、本当にゴメンね~~~?」
「いま言うか~~~!?」
けど、フィリップが手を振りながら謝ったら、怒鳴りながら戻って来たボエルであったとさ。
少し毛色の違う作品を書いてみました。
新作『僕の私の夢の中は超イージーモード。だった・・・』
気に入っていただけると幸いです。




