342 メイド訓練終了
アガータの魔の手から庭まで逃げて来たフィリップは、ボエルが護衛騎士をイジメているのを見ていたら寝落ち。こんなこともあろうかと、ハンモックを作っていたんだとか。
ランチの時間になるとボエルに起こされて、アガータの食事指導に付き合うフィリップ。ここでもカイサたちはそこそこできているみたいだから、叱責は少ない。
「この分なら、微調整ぐらいで終わりそうだね」
「はい。そこまで時間は掛からないと思います。誰かさんと違いまして……」
「プププ。やっぱりボエル、酷かったんだ~」
「それはもう……一番手を焼いた生徒です」
アガータから語られるボエル伝説。布巾は引きちぎるわコップは握り潰すわ、掃除道具はだいたい壊す。最後までガニ股も大股も直らなかったから、アガータも自信を無くしたそうだ。
「プププ。クマさんらしい伝説だね~」
「クマさん伝説ってなんだ!」
「口調は酷くなっていますし……はぁ~」
「こ、これは殿下のせいで……」
「従者が主に罪を押し付けるとは何事ですか。例え主が悪くとも、他者の前では自分が罪を被るモノです」
「や~い。怒られてら~」
フィリップが指差して笑っているものだから、アガータはギロッと睨む。
「坊ちゃまも坊ちゃまです。好き勝手やらせているから、従者も直そうとしないのです」
「えっと……主の罪は従者が被るのでは?」
「それは外での話です。主の悪い行いを裏で正すことも、従者の仕事でございます」
「えぇ~。僕、悪いことしてないよ~」
「私の耳には、悪い話しか入って来ないのですが……」
「それは噂話でしょ~~~」
説教はフィリップにまで飛び火。ボエルはアガータの背中に回って指差して笑ってしてやったりだ。
そんな3人を見ていたカイサとオーセはというと……
「この中では殿下が一番偉いはずなのに……」
「本当に第二皇子か疑いたくなるよね~?」
「私たち騙されてるのかな? まだ御家族にも会ってないし」
「御家族といえばフレドリク殿下……早く会いたいな~」
フィリップのことを疑い始めたのであった。でも、フレドリクを思い出した2人は、どれほどカッコイイのかと乙女の顔になって話し合うのであったとさ。
アガータのメイド教育が始まって1週間。フィリップは夜遊びを我慢して、カイサとオーセとばかりマッサージ。アガータが訪ねて来るから、もしものために我慢してるらしい。
なんとか昼型をキープして、今日も庭のハンモックに揺られていたら、ボエルが呼びに来た。
「食事の準備ができました」
「オッケー。てか、ボエルも従者らしくなったね~」
「滅相もございません。これもそれもアガータ様のおかげです。早く勉強が終わらないかと心待ちにしております」
「丁寧に言っても、酷いこと言ってるよ?」
ボエルはアガータに早く帰ってもらいたいらしい。午前中に仕事をしていたら、毎回姑かってぐらい口出しされるから辟易してるんだってさ。
とりあえず2人で2階に上ると、カイサとオーセが頭を下げて出迎えてくれた。
「「おかえりなさいませ」」
「うん。庭にいたけどね~。てか、メイド服届いてたんだ。似合ってるよ~?」
「「は、はあ……ありがとうございます」」
フィリップが変な返しをしたので、それには対応できないカイサとオーセ。メイド服を褒められてもすっと入って来ないようだ。
ここで何かを言ってしまうと流れが悪くなりそうなので2人は苦笑いで乗り切り、フィリップを案内してダイニングテーブルの椅子を引いて座らせるのであった。
「うん。美味しかった。ありがとう」
タイミングよく次々と並ぶ料理を全て平らげたフィリップが口を拭って褒めると、カイサとオーセは軽く頭を下げてから食器等を片付ける。
すると部屋の端に立っていたアガータは、すっと前に出て来た。
「ここまで来れば、あとは実践で慣れて行けば問題ないでしょう」
「もう? 早くない??」
「基礎ができておりましたからね。それに2人とも、努力を怠らなかったからですよ。よく頑張りました」
「「ご指導ご鞭撻、ありがとうございました」」
アガータが優しい顔で褒めると、カイサとオーセはキッチンから出て来て綺麗に頭を下げる。フィリップも2人を関心して見ていたが、気になる人がいる。
「ちなみにボエルの時って、どれぐらい掛かったの?」
ボエルだ。嬉しそうに拳をグッと握っていたからの罰だ。
「基礎だけでおよそ1ヶ月です。あの問題で土壇場で交代になったことにホッとした記憶があります」
「実は私もホッとしました……」
「ブハッ! あいつが使い物になっていたら完璧だったのにね~。アハハハハ」
「「ごもっともで……」」
人生は上手く行かないモノ。幸運だと思ったことが最悪の事態になることもある。その真実を唯一知っているフィリップが大声で笑い続けるので、アガータもボエルも苦笑いしかできないのであった。
この日の夜は、メイド訓練のお疲れ様パーティー。護衛騎士も参加して、分け隔てなくフィリップが振る舞っているのでアガータも驚いていた。
ただ、しだいに慣れて来ると、この騒がしさも悪くないと笑顔を見せる。その顔がフィリップも嬉しいのか、今度はアガータの誕生日パーティーを祝う約束をしていた。
パーティーは太陽が完全に落ちる前にお開き。アガータは皆に見送られ、馬車に揺られて帰路に就くのであった……




