243 気苦労
「殿下このヤロー!!」
「遅かったね。アハハハハ」
場所はフィリップの部屋。訓練場からダッシュで戻ったボロボロのボエルは怒った顔をしているのに、フィリップはソファーに寝そべり大笑いだ。
「なにオレたちだけ戦わせて逃げてんだよ!」
「だって~。僕、戦えないんだも~ん」
「それでも大将だろ! 大将が敵前逃走してんじゃねぇ!!」
ボエルの怒りはなかなか収まらないので、フィリップも体を起こして真面目に喋る。
「逆に聞くけど、あの場に残って僕の命はあった?」
「そりゃ訓練だから……」
「実践ならないよ。カイの剣、見たでしょ? 一振りで2人の男が飛んだじゃん。負けるとわかった時点で大将は逃げるのが普通でしょ? 騎士はその時間を稼ぐのが仕事でしょ? 僕、間違ったこと言ってる??」
「間違ってねぇ……間違ってねぇけど、納得いかねぇ!!」
「アハハハハ。一言もなく捨て駒にされたもんね。ゴメンゴメン。アハハハハ」
まだ怒りが残っていたのにフィリップが笑いながら謝るので、ボエルは怒りを通り越して諦めてしまうのであった。
「それより、カイと戦ってみてどうだった?」
ボエルが「この馬鹿皇子が」とブツブツ言いながらお茶を入れていたので、フィリップは話題を変えた。
「ありゃ化け物だ。てんでオレの剣が通じなかった。さすがは、ダンジョン制覇者の前衛だ」
それは正解。ボエルは嬉々としてカイとの戦闘を語る。
騎士は10人以上いたのに、カイが6回大剣を振っただけで、残ったのはボエル、コニー、ウルリクの3人だけになったとのこと。それでも必死に戦っていたら、フィリップがいないことに気付いたらしい。
「気付いたなら、そこでやめたらいいのに……」
「いや~。ダンジョン制覇者と戦える機会はこれを逃したらないと思ってな~」
「だからボロボロなんだね……」
でも、ボエルが指揮を取り、戦闘は終わらず。コニーとウルリクはやめたかったが、ボエルに「お前たちまで逃げたら殺す!」と脅されていたから逃げられなかったと、後日コニーから聞いたんだってさ。
「ま、コニーの盾役がなかなかよかったから、3人でなんとか食らい付けたんだけどな~……この様だ」
「負けたのに嬉しそうだね……そんなに楽しい気分で帰って来たのに、よく僕のこと怒れたね」
「まぁ……帰り道で怒りが沸々と沸いて来たみたいな?」
「もうそれでいいよ。それより今日の晩ごはんって、予約取ったの?」
「ヤベェ!? 忘れてた!?」
「軽めのメニューでよろしく~。あ、戻りでいいから、お兄様にアポイント取って来て~」
そんなことだろうと思って質問したら、ボエルは焦って走り出したけど、アポイントの時間を聞いてないのでギリギリ戻って来たのであった。
翌日は、フレドリクとの面会は思ったより早く叶ったので、夕方頃にボエルと一緒に部屋を訪ねたフィリップ。キョロキョロしながら席に着いた。
「人払いはしてるから大丈夫だ。しかし、内密な話とはどうしたのだ?」
フレドリクの言葉でホッとするフィリップ。人払いしてもらったのは、内緒話というより逆ハーレムメンバーに会いたくなかっただけなんだけどね。
「ちょ~っと、無理なお願いがあってね~」
「確かにフィリップのお願いは難しいモノが多いな……まぁ聞くだけは聞いてやろう」
性同一性障害問題、アードルフ侯爵家殺害事件。これらを押し付けられたことのあるフレドリクは少し警戒してるな。
「僕の知り合いをね、騎士爵でいいから便宜を図って欲しいんだよね~」
「さすがにそれは、私でも勝手には決められないぞ? 父上の領分だ」
「うん。わかってる。僕が推薦しても聞いてもらえないだろうから、お兄様にも協力してほしいの」
「つまり、根回しか……」
フィリップが珍しい手を使うので、フレドリクも考えてしまう。
「参考までに、誰に爵位を与えたいんだ?」
「モブ君に……あれ? なんて名前だったかな……お兄様のパーティで荷物持ちしてた人いたでしょ? あの人」
「コニーのことか?」
「たぶん……そんな名前だった……かな?」
「ボエルに聞いたほうが早そうだな」
フィリップの後ろではボエルが「また忘れてる!?」って顔をしていたので、コニーで確定した。
「コニーなら、カイからも近衛騎士にどうかと推薦が来ている。近衛騎士なら最低でも騎士爵が付くから、コニーの頑張りしだいでは早くに爵位がもらえるぞ」
「ホント? それなら僕が口利きする必要なかったんだ~」
「結果から言うとな。しかし、フィリップがそこまで気に掛けるとは、どうしてなのだ?」
「ほら? あの事件のリネーア嬢って覚えてるかな?」
フレドリクは記憶力も高いのですぐに顔を思い出した。
「ああ。大変な事件だったからな」
「その子、なんとか立ち直って、いまはモブ君と恋仲なの。でも、モブ君は次男だから、爵位が問題だったの」
「そういうことか……最後まで責任を持っているなんて偉いじゃないか」
「ま、乗りかかった船だからね」
フレドリクにキラキラの笑顔で褒められたフィリップは、喜ぶよりも照れてしまうのであった。
「それにしても決闘とは、また何をやっていたんだ? カイが怒っていたぞ」
フィリップは「チクリやがったな!?」とちょっと憤りながら答える。
「アレは、モブ君の審査してたんだよ。推薦するにしても、実力がない人を送り込んだらお兄様に迷惑掛かるでしょ? それなのにカイのヤツ、あんなに怒らなくてもいいのに……」
「それは誰かにちゃんと説明したのか?」
「ううん。説明してもわかんないヤツらばかりだから省いた」
「いや、ボエルにはしてやれ……凄い顔をしてるぞ?」
フィリップが後ろを振り向くと、ボエルがプルプル震えている。この顔は「また騙しやがったな!?」って顔。リネーアのためにやっていたとはこれっぽっちも教えてなかったから、そりゃそうなるよ。
「あ……てっきり気付いてると思ってたから……ボエルさん? その力いっぱい握った拳はパーにしよっか??」
「ボエル……よい。一発だけなら許す」
「はっ!」
「なんで!? いった~~~い!!」
ボエルの気苦労を汲んだフレドリクが許可するモノだから、拳骨制裁を受けるフィリップであったとさ。




