202 続・毒殺事件の阻止
帝都学院のパーティーの翌日、フィリップが荷物をまとめるように指示を出したから、ボエルは不思議そうな顔になった。
「もう帰るのか?」
「もう仕事もないみたいだしね。授業の復習や予習するなら、向こうのほうが集中できるからね」
「ウソつくな。何が目的だ?」
「そこは感心感心と褒めるところじゃない?」
「殿下が自分から勉強するわけないだろ」
皇帝に述べた言い訳は、ボエルには不発。フィリップが自発的に勉強したことなんてボエルは見たことないもん。
「じゃあ、ボエルのため。こっちは居心地悪いって言ってたでしょ?」
「じゃあってなんだよ。まさか……夏休みの時も適当なこと言ってたんじゃないだろうな??」
「まっさか~」
そのまさか。フィリップはフレドリクのダンジョン攻略を見たいから適当に言ってた。しかし、貴族の婦女子ばかりのお城は本当に居心地が悪いので、文句を言っていてもお言葉に甘えてしまうボエルであった。
「さってと……」
夜になるとフィリップは、イーダの部屋へ通う。情報を仕入れるため……
「冬休みは残り僅かだから、娼館に行き溜めしとこっと」
いや、目当ては別。毒殺はもしもバレている可能性を考慮して日にちを空けると聞いたし、城より寮のほうが遊びに出るのは近いから、こっちに戻っただけ。
こうしてフィリップは、学校が始まるまで夜の町に通い続けるのであった。
3学期初日……
フィリップの仮病が治ったので、ボエルは胸を撫で下ろして登校。寮の1階ではリネーアが待っていたから隊列に加える。
「なんでモブ君までついて来るの?」
「それは……その……モブ君??」
何故かコニーがフィリップの左後ろを歩くので質問してみたら、シドロモドロ。でも、呼び名は気になってるな。なのでリネーアが変わって理由を説明する。
「パーティーで私が先輩と喋っていたら、皆様にフィリップ殿下に乗り替えたのかと絡まれまして……」
「だからウソをついたと……」
「はい。今日、一緒に歩いていないと、イジメの的になってしまいます。取り巻きに加えなくてもいいので、どうか先輩が一緒に歩くことを許してください。お願いします!」
「お、お願いします!」
リネーアが頭を下げてコニーが続くと、フィリップは迷惑そうに声を出す。
「自分がまだ辛いのに、人のことによく関われるね」
「す、すみません……」
「褒めてるんだよ?」
「え……」
「卒業まで好きにしな。絡まれたら、僕の取り巻きだと堂々と言ってやれ。でも、僕の名前で悪さしたら、すぐに切るからね」
「「ありがとうございます!」」
コニー、期限付きだが第二皇子の取り巻きに昇格。人を寄せ付けないフィリップに取り巻きが増えたから、またしても帝都学院にどよめきが走るのであった。
校舎に入ったフィリップは、全校集会で学院長が長い話をしているのに1人だけ座って熟睡。終わったらボエルの肩を借りて教室へ。この時点で、コニーはフィリップの取り巻きになったことを後悔したらしい。
短縮授業は机で爆睡していると、フィリップはボエルに激しく揺すられて起床。あくびをしながら階段を登っていたら、コニーと鉢合わせた。
「どこ行くの?」
「帰るところですけど……殿下はお兄様に会いに行くのですか?」
「ううん。ごはん。一緒に食べよう」
「はあ……なんで??」
コニーはフィリップがわざわざ上の階の食堂で食べる理由がわからないからリネーアに聞いてみたが、誰もわからず。ボエルに「気まぐれ」と言われたら全員納得。
そうしてフィリップは、生徒に囲まれているフレドリクの席に近付いて軽く挨拶したら、一番離れた普通の席に陣取った。
フィリップは全員分「早くできる物なら何でもいい」とボエルたちに頼み、料理が揃うと1人だけバクバク食ベながらフレドリクたちがいる方向を見ている。
「ちょっとトイレ」
「おい! 1人で行くな!!」
そして食べ終わると、フレドリクを囲む人混みに紛れてボエルを撒き、キッチンから出て来たウェイターと擦れ違ってから戻って来た。
「だからな。勝手にどっか行くな」
「トイレぐらい1人で行かせてよ~」
「殿下が勝手に動くとみんなに迷惑かかんだ。みんな、早く食べないとって焦るだろ」
「あ、ホントだ……モブ君。そんなに急がなくていいよ? ゆっくり。ゆっくり食べろ……」
「へ? あ……はいっ!」
「脅すなよ」
フィリップが低い声で言うものだから、コニーも忖度。ボエルは呆れ顔で諫めるが、コニーは牛歩戦術で食べ出した。
「あ……しまった」
「何がしまったんだ??」
「トイレ行き忘れてた。ちょっと行って来るね~」
「どんな忘れ物だよ……だから1人で行くな~~~!!」
あまりにも酷い忘れ物のせいで、ボエルは出遅れてフィリップを見失う。そのフィリップは、食堂を出ると周りを確認してから窓からジャンプ。氷魔法で壁に張り付き、ヤモリみたいな動きである人物を追う。
「本当に毒を持っていますの? わたくしを騙しているのではなくて??」
ある人物とはエステル。イーダから新学期初日にルイーゼを毒殺すると聞いたから、フィリップはわざわざ3階の食堂に来ていたのだ。
そのエステルが怒りの表情でウェイターに目配せしていたから、フィリップは下手なウソをついて追い、窓からこっそり覗いているのだ。
「いえ、確実に毒は持っています。数時間前にネズミに使ったモノを、そのまま飲み物に混ぜましたので、死なないワケがないのです」
「では、どうしてルイーゼは生きているのですの?」
「それは……毒に耐性があるのかもしれません。それとも何かを感じて魔法で即座に中和しているとか……」
「腐っても聖女ということですか……わかりましたわ。夜にもう一度試して、それでダメでしたら違う方法に変えますわ。行きなさい」
「はっ!」
今日の失敗もフィリップが毒と普通のジュースを交換しただけなのに、深読みして納得してしまったエステルと暗殺者は、別々の方向に歩き出したのであった……
「えぇ~。まだやるの~? どんだけ毒殺したいんだよ~」
フィリップはこの短期間にやりすぎだと嘆き、トボトボ歩いて食堂に戻るのであった。




