193 犯罪者は信じない
上級生の女子から助けを求められたフィリップは犯人を聞き出すと、穏便にしてくれと言われていたのにその足で3階の廊下にまでやって来た。
「え~……ヴィオラ・エーケロート伯爵令嬢を毎晩レイプしてる、ポールソン男爵家のルーヌ。直ちに出て来るように! by第二皇子~」
そして大声でこんなことを連呼すると、1回目でヴィオラはあまりのことに絶句。2回目の途中で止めていたけど、フィリップは5回目でようやく止まった。
「なに~? 助けろって言ったのそっちじゃん」
「そうですけど、毎晩レイプされてるなんて言われたら、皆に知られて私の名前が傷付くじゃないですか! どうしてくれるのですか!!」
「そう言われても、やり方わからないも~ん。ヴィオラ・エーケロートを毎晩レイプしてるルーヌ・ポールソン。早く出て来~い! by第二皇子~」
「だから言うな~~~!!」
あまりにも酷い助け方にヴィオラはキレてフィリップに飛び掛かったが、ボエルがキャッチ。そして一緒に非難していたら、血相変えた男が走って来た。
「ルーヌ……ルーヌ・ポールソンです! なんで私がこんなこと言われているのですか!?」
ルーヌだ。大勢の生徒の前でレイプ犯と言われているのだから、反論しに来たのだ。
「いや~。レイプしてるって聞いたから。やっぱりこのオッパイが目当てだったの? 柔らかかった??」
「言ってる意味がわかりません! 私はエーケロート様とはただのクラスメートです! そもそも家の格が違うのですから、男爵家の私では声を掛けることすらできませんよ!!」
「……だって?」
焦りまくりのルーヌの反論を、フィリップはヴィオラに振った。
「噓をついています! そんな犯罪者の言葉を信じるのですか!?」
「だって?」
「信じてください! 私には婚約者がいるんです! こんな噂が広まったら婚約破棄されてしまいます。彼女のことを愛してるんです~~~」
泣き崩れて土下座するルーヌを見たフィリップはしゃがむと、ルーヌの髪の毛を掴んで強引に顔を上げた。
「ヴィオラ嬢の裸、どんなだった? ボンッキュッボン??」
どう見ても犯人を罰する感じの姿なのに、セクハラ発言なのでボエルたちは「いま聞くこと!?」と、開いた口が閉じない。しかし、ルーヌは別だ。
「見たこともありません! 初めては婚約者と決めているので、まだ綺麗な体です!!」
「プッ。童貞って言ってよ~。それ、女の子のセリフだから~。アハハハハ」
フィリップが大笑いするとルーヌは助かったと思うが、今度はヴィオラがいきり立つ。
「ですから! 犯罪者の言葉を信じないでください!!」
「うん。信じてないよ」
「だったら助けてくれるのですね!?」
「うん。噓でルーヌを陥れる犯罪者から助けるよ」
「……え??」
ヴィオラが聞き返すと、フィリップは冷めた感じで答える。
「だからさ~。君って僕の取り巻きになりたいだけの嘘つきでしょ? そんなことに使われるこいつがかわいそうじゃん」
「どうして噓だと言えるのですか!!」
「あのね~……伯爵家の女子を男爵家が襲うの無理あるよ。もちろん、弱味を握るって手段の可能性はあるけど、君、ずっと偉そうじゃん? 演技するなら、ルーヌぐらい切にしないとね。あ、本物の涙か。アハハハハ」
再びフィリップが大笑いするとヴィオラは反論していたが聞き入れず。そんなことをしていたら、ついにあの人がやって来た。
「フィリップ。これはなんの騒ぎだ?」
フレドリクだ。食堂でルイーゼたちと楽しくランチして、いま教室に戻って来たからついて行けないらしい。
「フレドリク殿下! フィリップ殿下が酷いのです!!」
「ヴィオラ嬢……お兄様と僕が喋っているのを邪魔するなんて、皇族ナメてるの? それ、めちゃくちゃ不敬だよ~?」
「うっ……申し訳ありませんでした……」
めったに使わない伝家の宝刀でヴィオラを黙らせたフィリップは、フレドリクに向き直る。
「事の始まりから説明するね」
フィリップは、ヴィオラがレイプされていると助けを求めたところから話し始め、犯人を呼び出してみたらどう見ても噓っぽいことまで伝えた。
「お兄様はどう思う?」
「正直、冤罪の可能性が高いな」
「やっぱり~? ま、彼女も出来心だろうし、今回のことは許してあげてよ」
「ああ……ん? フィリップが事を収めるのではないのか??」
「じゃ、授業あるから! 頼んだね~」
ラストはフレドリクに面倒事を押し付けて逃げ出すので、皆は呆気に取られてフィリップを見送るしかできないのであった……
フィリップは勢いよく走っていたが、階段まで来ると歩きに変えたので、遅れて走り出したボエルたちが続々と追い付いて来た。
「てかよ~……殿下、あの子が嘘ついてるの、いつから気付いていたんだよ」
そしてボエルは息の荒い皆の代わりに質問した。
「最初からだよ」
「なんで気付いたんだ?」
「取り巻きを連れて歩き出したから、似たような境遇をでっち上げるヤツが必ず出て来ると思っていたから、最初から疑ってたの。そしたらすぐボロ出すんだも~ん」
「……ボロ? あっ! オッパイオッパイ言ってたの、罠だったのか!?」
「それは本音~」
「どれが本当なんだ??」
ボエルが何を信じていいのかわからなくなっていたので、フィリップはリネーアをチラッと見た。
「君もすぐに気付いていたよね? ボエルに教えてあげて」
「はい……酷い目にあっていたら、あんなにハキハキ喋れないと思います。それに殿下に怒っていました。ギリギリの状況で、そんな感情は出せません」
「あ……そうだよな。リネーアのことを見てたのに、なんでオレは気付かないんだ……」
リネーアに正解を教えてもらったボエルは落ち込む。そこにフィリップは階段の最後の2段を飛び下りて振り返った。
「ま、ボエルはそれでいいんだよ。本当に傷付いている人なら、猪突猛進の馬鹿の言葉はどんなに励みになるか。騙された場合は笑って許してやりな」
「殿下……」
そのフィリップの言葉に、ボエルは感動するのであっ……
「いま、しれっと馬鹿って言ったよな?」
いや、馬鹿なフィリップに馬鹿と言われたので怒ってらっしゃる。
「言ったかな~?」
「殿下にだけは言われたくねぇ! もうじき期末試験だぞ! 帰ったら勉強だ~~~!!」
「ええぇぇ~……」
そのせいで八つ当たり。この日からボエルは体育会系の塾講師みたいに、厳しくフィリップを指導するのであったとさ。




