188 ショック療法
フィリップに続いて寝室に入ったリネーアは、ドアを閉めるとベッドに腰掛けているフィリップの隣に座った。
「やる前に、言っておかないといけないことがあるの」
それと同時にフィリップは口を開いた。
「僕、ニコライってヤツとたいして変わらないぐらい酷いヤツなんだ」
「そ、そんなことないです。優しいです」
「暴力を振るわないだけ。女性に対しては不誠実なの。体の関係しか求めないヤツなんて最低でしょ?」
「それでも私を助けてくれました」
「盲目にならないで。これから僕がすることは、体を求めるだけ。君とは結婚するつもりはこれっぽっちもない。恋心を持たれても困る。それはわかってる?」
フィリップが初めて冷たくすると、リネーアも1分ほど黙って答えを出した。
「はい。それでかまいません。殿下は好きでもないのに、私の今後を想って抱いてくれるだけだと理解しております」
「……女性にそんなこと言わせてゴメンね。ただ、ひとつだけ訂正させて。ベッドの上では、僕は等しく女性を愛している。それだけは信じて」
「はい……はい……」
覚悟をしてもリネーアの目から涙が零れ落ちるが、フィリップは容赦なく体に覆い被さるのであった……
時は少し戻り、フィリップとリネーアが寝室に入った直後……
「お嬢様は本当に大丈夫でしょうか?」
マーヤは心配で仕方ないらしく、ボエルを見た。
「たぶん大丈夫だ」
「……そうですか」
ボエルは大丈夫とは言っていても、緊張した顔をしていたのでマーヤの不安は払拭できない。それに気付いたボエルは気分を変えようと紅茶を入れて、リビングのソファー席にて一緒に座る。
「どういうワケか、殿下は人間の心のことに関しては詳しいんだ。本当に、なんでか……」
「はあ……心ですか」
「オレも助けられた口だ。実はオレ、女だけど女が好きなんだ。ずっと悩んでいたけど、殿下にそういう人はいっぱい居ると教えてもらってから、すっごく心が軽くなったんだ」
ボエルがカミングアウトするとマーヤも驚いていたが、性同一性障害を詳しく説明することで徐々にだが、フィリップならリネーアをなんとかしてくれるのではないかと希望が生まれた。
しかしその時、寝室から奇声が聞こえて来て希望は吹き飛んだ。
「こ、この声は……」
「あの声だな……」
そう。フィリップが優しくマッサージしていたのを徐々に徐々に激しくして行ったら、リネーアの声も大きくなったのだ。
「どんどん大きくなりますね……」
「ああ。殿下、めちゃくちゃ上手いんだ……」
「え? ボエルさんもしてるのですか??」
「うん……勉強させるご褒美と自分から言ってしまってから、ハマっしまいました……」
「女性が好きって言ってたじゃないですか!?」
「べ、別腹ってことで……」
噓をつかれた感じになったマーヤはまた不安な顔になり、ボエルはそれを払拭しようと言い訳を続ける。その間も寝室からリネーアの声が大きくなったり消えたりと繰り返すので、2人はなんだか居たたまれなくなって来た。
「それにしても凄いですね……いつまで続けるのでしょう……」
「彼女が満足して眠るまでかな? ああ……クソッ! なんかムラムラして来た!!」
「ですよね。私もです……」
どうやらリネーアの声のせいで2人もそんな気分になって、見詰め合うことに……
「オレ、殿下に手解き受けたから、そこそこ自信はあるんだけど……」
「殿下のようにできるってことですか?」
「途中までな。よ、よかったらどうだ?」
「はい……お願いします……」
盛ってしまったボエルとマーヤも、リビングのベッドでマッサージをし合うのであった……
「フゥ~。おやすみ」
深夜までリネーアに男の良さを実演して見せたフィリップは、リネーアが疲れて眠ると軽く頭を撫でる。このまま寝てしまおうかとも思ったが、少し汗を掻いたし喉も渇いていたので寝室を出たら、女性のあの声が聞こえたので忍び足。
キッチンで水差しだけ確保したら、リビングに戻ってパーテーションで隠れているベッドに忍び寄って覗き込んだ。
そこではボエルとマーヤがくんずもつれていたので、それを肴に水をチビチビ。終わるのを待つ。
それから十数分後にマッサージは終わったらしく、2人は倒れるように横になった。
「どうだった? 悪くなかっただろ?」
「はい。あんなの初めてでした。男とするよりよかったかもしれません」
「だろ? オレだったら付き合ってもいいって感じかな??」
「う~ん……付き合うぐらいなら……」
「やった!! ……ん??」
ボエルが喜んで体を起こしたところで、ベッドの横に生首が浮かんでいるのに気付いた。
「でででで、殿下!?」
「えっ!?」
もちろんそれはフィリップ。まだ続ける可能性があるから、静かに近付いていたのだ。
「あ、バレちゃった。エヘヘ~」
「いつからいたんだよ!?」
「2人が絶頂に達する前~。いや~。百合のプレイは見応えあったな~。もうしないの~?」
「見るなよ!!」
フィリップがエロイ顔でボエルの苦情をいなしていたら、真っ青な顔をしたマーヤが土下座する。
「殿下のお目を汚すような物を見せてしまい、申し訳ありませんでした!」
「いやいや、綺麗だよ。ボエルから聞いていたけど、本当に脱いだら凄いね。僕もまぜてほしいな~?」
「……へ??」
「殿下はこういうヤツなんだよ! オレが彼女としてる時も入って来ようとする、し……あっ!?」
マーヤが助けを求める目を向けると、ボエルはキレながらの失言。全部言ってから口を塞いでも遅すぎる。
「せっかく彼女がいるの黙ってたのに、なんで自分で言うかな~?」
「うっ……違うんだ。今日のは……こんな時、オレはなんて言ったらいいんだ~~~!!」
「たぶんメイドさん、本気で付き合うって言ったんじゃないから、彼女にバレなきゃ大丈夫だと思うよ。ね?」
「はい。付き合えると言っただけで、本当に付き合うかは別です」
「セーフ! あれ? これ、アウトか??」
フィリップとマーヤの言葉にガッツポーズしたボエルであったが、混乱しているのでフィリップがまとめる。
「彼女との仲はセーフ。メイドさんとの関係は、浮気してたからアウトだね」
「そんな~~~」
「それより、僕もメイドさんとマッサージしたいな~? 体の関係でどうかな? 結婚とかそういうのは絶対にしないから~」
「そんな最低な口説き方ってあります??」
ボエルの嘆く声が響くなか、冷静になったマーヤにフラれてしまうフィリップであったとさ。




