185 初めての言い争い
フィリップが全力疾走でやって来た場所は、帝都から馬車で1日かかる宿場町。驚くことに、フィリップの足では30分ほどで到着した。
事前に調べていた高級宿屋の一番高い部屋に忍び込んだフィリップは、「やっぱりいた」とシメシメ。2人の男の口を氷で塞ぎ氷の棺に詰め込んだら担いで走り、壁を飛び越えて町外れまで運び出した。
「こんばんは。アードルフ侯爵とその長男……僕の顔、わかるよね? 第二皇子だよ~??」
2人の正体はニコライの父と兄。冷たさで震えている2人を棺から出して、氷の杭で地面に張り付けたら、フィリップは顔を光のオーブで照らして自己紹介。その後、口を塞いでいた氷は消してあげた。
「フィ、フィリップ殿下が何故、こんなことを……」
フィリップの顔を見て、盗賊や暗殺者の類いではないと少し安心したアードルフ侯爵が目的を聞くと、フィリップはニタリと悪い顔をする。
「ニコライを殺したヤツを教えに来てあげたの」
「そ、それは誰ですか!?」
「こんなことしてるんだから、僕に決まってるじゃん」
「「なっ……」」
「まさか会いたかった2人がノコノコやって来てくれるなんて、笑いを堪えるの大変だったよ~」
そう。フィリップが完全犯罪を捨てたのは、2人を呼び出すため。病死では弱いと思ったから派手に殺して、現地で死因や犯人の調査報告を確かめないと気が済まないようにしたのだ。
ただ、フィリップの最後の言葉は2人の頭に入っていない模様。最愛の息子を殺した犯人が自供したのだから、そのことで頭がいっぱいだからだ。
「殿下が殺しただと!? 息子が何をしたと言うのだ!!」
数秒ほど絶句していたアードルフ侯爵たちであったが、烈火の如く怒り出した。
「女の子をレイプして拷問したからだよ。それが罪にならないと思ってるの?」
「なるワケがない! 我々は貴族だ! 侯爵家だ! 女なんて、1人や2人殺したところで罪になるか!!」
「だったら隠れてやるなよ。民の前でやれ。犯せ、拷問しろ、殺せ。どうしてそれができない? 民の反発が怖いんだろ? 皇家にバレるのが怖いんだろ? 爵位を剥奪されるのが怖いんだろ?」
「こ、怖いワケがない!!」
強がる2人を、フィリップは冷めた目で見る。
「へ~……僕にいまから殺されるのに、怖くもないんだ。いつまで減らず口が叩けるかな?」
「殺す? 皇帝陛下は知っているのか!? そんな勝手が許されるわけがない!!」
「知るわけないじゃん。だから勝手ができるんだよ。どっちから拷問してやろうか……」
フィリップが本気だと気付いた2人は、ここで初めて命の危機を感じてゾッとした。
「待て!」
「待て? 僕に命令するの??」
「ま、待ってください……」
「そう言った被害者に、お前たちは待ったことないだろうな~……やっぱり、元凶である父親は最後だな。息子が惨たらしく殺されるところを見せてやるよ」
「待っ……」
「ぎゃああぁぁ~~~!!」
フィリップは待ったは聞かず、長男の手を氷の剣で貫いた。
「痛い! 助けて~~~!!」
「いいねいいね。お前たちが殺した女たちも、そうやって命乞いしたんだろうね~? 僕は優しいから、次は同じように侯爵の手ね。交互にやってやるよ」
「ぎゃああぁぁ~~~!!」
こうしてフィリップは、2人の両手両足に淡々と氷の剣を突き刺し、反応が鈍くなったところで長男の胴体を滅多刺しにしてトドメを刺した。
「こ、この悪魔が……」
「罪のない女を甚振って殺したお前よりマシだ。その女たちの恨みが僕を悪魔にしているだけ。恨むなら自分の行いを恨むんだね」
長男の最後を見せられたアードルフ侯爵は血の涙を流しながらフィリップを睨み、胴体を滅多刺しにされて息絶えたのであった……
翌日の昼頃……
皇帝の下へ、アードルフ侯爵家当主と次期当主の訃報が届けられた。皇帝はいきなりのことなので一時秘匿にして、アードルフ侯爵家を調べるために用意していた兵を急行させたが、民の口は塞げない。
夕方には、宿場町から帝都にやって来た商人や旅人から、その噂が広められて酒場では格好の話のネタとなっていた。
フィリップは、この日は仮病を使って爆睡。帰って来たのは遅かったから眠り続けて、アードルフ侯爵たちの訃報を知ったのは翌日の昼頃。フレドリクが訪ねて来て知らされた。
「なんで? てか、護衛は何してたの??」
「いまは調査中だから何も言えない。ただ、アードルフ侯爵家は民から怒りを買っていたようだ」
「隠さず全部教えてくれない? ここには情報を表に出す人間は1人もいないよ。そもそも、ここにいる2人は被害者だ。知る権利はあるはずだよ」
フレドリクがアードルフ侯爵たちが死んだ以外のことを口にしないので、フィリップは今まで見せたことのない覚悟の目で問い詰めた。
「……わかった。だが、かなり酷い殺され方をされていたから、気分が悪くなったらすぐに言ってくれ」
フレドリクから語られる、アードルフ侯爵たちの死因とその後。全てフィリップがやらかしたことだ。
アードルフ侯爵たちの死因は、複数刺されたことによる出血死。凶器は一般的な剣と刺し傷が違ったので、ここから犯人を見付けられるのではないかとフレドリクの予想。これが目的で氷の剣を使ったフィリップは、笑いを我慢。
殺害されたアードルフ侯爵たちは、宿場町の広場のような場所に放置されており、死体の近くに用紙が石に挟まっていたとのこと。この用紙は至る所に撒かれていたので、民が拾って読んでしまったらしい。
これもフィリップが毎日ちょっとずつ書いて用意していたチラシ。屋根を飛び交い撒き散らしてから帰ったから笑ってしまいそうだ。
「これが、宿場町に撒かれた紙だ」
フレドリクはそれも入手していたので、テーブルの上に置いた。
「汚い字……天誅??」
フィリップは自分で書いたのに、読みづらそうな演技。筆跡がバレないように左手で書いたから、本当に読みづらいけど。
「そうだ。アードルフ侯爵家は家族ぐるみで、100人以上の旅人をレイプして殺害していたと書かれてある」
「それは事実なの?」
「裏はいま、父上が確認している」
「そっか~……」
フィリップは視線を上に持って行き、続いて寝室のドアから覗き見ているリネーアの顔をチラッと見てから口を開く。
「てことは、その被害者の知り合いが犯人ってこと?」
「それはわからない。だが、どちらも犯行の手口が鮮やかすぎるから、それなりの手の者に頼んだのだろうな」
「なるほど。暗殺者か~……それって裁けるの? 被害者が犯人みたいなモノだよね? 見付け出して拷問でもするつもり??」
「暗殺者が捕まらない場合は、最悪……」
フレドリクは目を逸らしたので、フィリップは静な怒りを見せる。
「順番が逆だよ。民を拷問なんてしたら、自分がやったと言うに決まってる。暗殺者なんて知らないんだから、捕まるわけないじゃん。それなのに本気でやるつもりなの?」
「侯爵が殺されているのだ。それなりの結果を示さないとならないだろう」
「はあ? お兄様の口からそんな言葉、聞きたくなかったよ。無実の人を殺して、誰が喜ぶの? ああ。国の体裁が保たれるからハッピーですか」
「いや、そんなこと言ってないだろう」
「言ってるよ。そんなことするなら、僕が自首する。全員、僕が殺しました。捕まえて」
フィリップが突然自首するなんて言うのでフレドリクも焦り出した。
「ちょ、ちょっと待て。フィリップができるわけないだろ? 落ち着け」
「落ち着いてるよ。そういう無茶な裁きをしようとしてるってわかってほしいだけだよ。民を拷問するなら、僕は誰になんと言われようと自首するからね。それで決着させる」
「そんな終わり方は私が許さない。父上だって認めないぞ」
「なんで? さっき誰でもいいって言ったじゃない。だったら僕でもいいでしょ」
「そんなこと言ってないだろう」
「言ったよ」
説得するフレドリク。折れないフィリップ。2人の長い言い争いが続くなか、フィリップの予期しなかった意外なことが起こった。
「民に罪を着せるなんてしたら、聖女ちゃんも幻滅するって。嫌われていいの?」
「それは……困る……わかった。必ず父上を説得してみせる。絶対に民には手を出させない」
フィリップがなんとなくルイーゼを出したらフレドリクが簡単に折れたのだ。
「え……いいの?」
「私に任せておけ。さっそく行って来る」
「う、うん。頑張って……」
この結果にはフィリップも驚いて、立ち去るフレドリクを見送ることしかできないのであった……




