157 デパートで出合った女
初デートというか予行練習みたいなことをしたその夜は、ボエルがなんだか火照っていたのでフィリップがマッサージをして、出て行ったらフィリップも夜の街に出た。
「もおう~。あんなところで会ったからぁ驚いたじゃないのぉ~」
やって来たのは奴隷館。実のところ、デパートの下着売り場で会った中年女性はキャロリーナ。
「いや~。僕も驚いて固まっちゃったよ。助けてくれてありがと~」
フィリップがあの場面で固まっていたのは、昼日中に知人と会ったから。こんな経験は初めてだったから、驚き過ぎて言葉が出なかったのだ。
「それにしてもぉ、殿下も昼間に外を歩くのねぇ」
「今回が初めて。でも、貴族街は性に合わないや」
「殿下はこっちのほうが好きだもんねぇ。いえ、貴族街ではバレそうだから遊べないのかしらぁ?」
「どっちもあるね。まぁこっちのほうが絶対数は多いし、気が楽かな~」
ちょっと世間話をしたら、2人は今日の話に戻る。
「キャロちゃんと一緒にいたおじいさんって何者?」
「あの人はねぇ。あたしが若い頃の太客よぉ。家督は息子に譲って隠居してたんだけどぉ、最近奥さんと死別したからぁ、一緒にならないかと誘われてるのぉ」
「わ~お。大恋愛??」
「その当時はねぇ。でも、まぁ、悩んじゃうわねぇ。このまま結婚なんてせずにお婆ちゃんになると思ってたしぃ」
キャロリーナにも悩みがあるのかと、フィリップも親身になって考える。
「いまからの後妻なら、数年で遺産が入って来るんじゃない?」
「プッ……酷いこと言うわねぇ。そこまで多くはないらしいけどぉ、あたしが死ぬまでは持ちそうなぐらいよぉ」
「プッ……聞いてるじゃん。そっから若い男でも捕まえたら? キャロちゃんならまだまだいけるよ」
「そう言ってもらえると嬉しいわぁ。殿下と会えないのは寂しいけどねぇ」
「僕も寂しいけど、キャロちゃんの幸せは奪えないよ」
2人とも軽く吹き出していても、寂しさはあるので大笑いまではいかない。
「いちおう言っておくけど、男の子をさらったり、孤児院作って男の子を襲ったりしたらダメだからね?」
「あっ……孤児院って手があったんだぁ……」
「言い過ぎた!?」
またしても、ショタコンに策を与えてしまったフィリップ。キャロリーナの収入と遺産があれば、慎ましい生活をすれば孤児院ならなんとかやっていけると考えさせてしまうのであった。
孤児院の件は、フィリップが説得したけどキャロリーナは諦めてなかったけど、今度はキャロリーナの質問に変わった。
「それはそうとぉ、殿下のお付きの男ぉ……殿下に敬意をぜんぜん払ってなかったわねぇ。あんなのいいのぉ?」
「お付きの男? あ~。ボエルね。あの子、女の子だよ」
「そうだったのぉ?」
「そそ。喋り方が面白いからそのままにさせてるの」
「ふ~ん。変わった子ねぇ。でも、殿下らしいわぁ。普通の貴族だったらぁ、あんな態度許さないものぉ」
ボエルの説明をしていたら、フィリップも閃いた。
「そうだ。キャロちゃんが扱う女性の中で、女性が好きな変わり者っていない?」
「どういうことぉ?」
「これは秘密なんだけど、ボエルって女性が好きなの。というか、心は男っていうかわいそうな子なんだ」
「あ~……男が男を買う逆ねぇ」
「あ、そんなお店あるんだ」
「貴族とかぁ、そういう男、多いわよぉ。女は飽きたとか言ってるけどねぇ」
「でも、その逆は知らないと……」
「ゴメンねぇ。探してみるけどぉ、本当のことを言うかどうかぁ……」
「ま、ダメ元だから気にしないで。それに……なんでもない」
フィリップが何か言い掛けて止めだけど、キャロリーナは気付いちゃった。
「まさかそんな子、落としたのぉ?」
「あったり~。時間は掛かったけど、なんとか体の関係は築けたよ」
「わざわざそんな子に手を出さなくてもぉ、いくらでも買えるのに殿下は物好きねぇ」
「その過程が楽しいんだよ。暇だからそれしかやることないしね~」
「暇なら勉強したらどうなのぉ? 最下位だったんでしょぉ??」
「なんで知ってんの!?」
どうやらフィリップが中間テストで最下位を取ったのは、町中にもゴシップネタとして広がっている模様。ただし、期末試験はネタとして面白くないから、最下位脱却の噂はひとつも流れてないんだって。
そのせいで、フィリップがいくら言おうともキャロリーナは話半分で聞いていたのであった。
「そういえばぁ、殿下のデザインした服、買うことにしたわよぉ」
信じてもらえないとブーブー言っていたフィリップであったが、やることやったら忘れたので、キャロリーナはこのことも報告した。
「気に入ってくれたんだ! いくらだった? 払うよ~」
「そんなのいいわよぉ。殿下には儲けさせてもらってるんだからぁ」
「プレゼントのつもりで言ったから払わせて。本当はサプライズで渡せたら一番よかったんだけどね~……僕、立場があるからいまはこれが限界なの。ゴメンね~」
「もおう~。そんなこと言われたら断れないじゃないのぉ~」
「いつもありがとね。大好き~」
「あたしも大好きよぉ~」
こうして2ラウンド目は、いつもより激しくマッサージをしあう2人であった……
「ボエルに着せようと思ったの再利用しちゃったけど、一番キャロちゃんが似合いそうだからいいよね?」
ちょっと言い過ぎたと反省しながら帰路に就く、最低なフィリップであったとさ。




