143 ヒロインの味方
チェスでフレドリクに負け続けた次の日、フィリップは熱魔法で体温を上げて、学校はサボリ。夜遅くまで付き合わされたから眠たいみたいだ……どうせ学校でも寝てるのに。
フィリップが体調を崩したのはこれが初めてなので、ボエルはオロオロしながら看病していた。
「そんなに出たり入ったりされると眠れないんだけど~?」
「うっ……つい気になって……すまん」
「意外と心配性なんだね。だったら一緒に寝てくれたらすぐ治るよ~?」
「噓つけ。ダグマー先輩はそんなことで治らないと言ってたぞ」
「あ、バレてたんだった。チェッ」
フィリップが舌打ちすると、ボエルはベッドの傍の椅子に腰掛ける。いちおうフィリップに気を遣って動き回ることはやめたみたいだ。
「前に熱が出たら長引くとか言ってたけど、中間試験は大丈夫か?」
「中間試験??」
「先生も言ってただろ。聞いてないのか?」
「あぁ~。聞いてた聞いてた。覚えてる覚えてる」
「嘘クセェ……」
「大丈夫大丈夫。熱はアレだ。お兄様のチェスに付き合ったから、知恵熱が出ただけだから明日には行けると思う」
フィリップは嘘ばかり言ったら、ボエルもなんとか騙せたっぽい。というか、学校に行けると聞いて安心したようだ。
「それにしても、殿下はけっこう頭よかったんだな」
「ん?」
「ほら? フレドリク殿下ともいい勝負してたじゃないか。ご親友たちも褒めてたぞ」
「アレは別に賢いとかじゃないよ。お兄様は定石しか使わないから乱しただけ。だから長引いただけだよ。もっと先読みできたら勝てると思うけど、チェスだとアレが限界だね」
「ふ~ん……フレドリク殿下に勝てる可能性は少しはあったんだな……」
「どうだろね。ま、次はこうは上手くいかないだろうから、大ポカに期待しないとダメだろうな~」
昨日のことを少し喋ったら、フィリップは寝るとか言ってタオルケットを被った。そしてボエルが見守るなか、こんなことを考えていた。
(兄貴、聖女ちゃんに手を出したら怒ってたな~……それを刺激して決闘に持ち込むか? でも、聖女ちゃんの好感度は低いから、兄貴が相手してくれるかどうか……誘っても一切乗って来なかったし……ひょっとして、詰んでる??)
フィリップの目標は、ルイーゼに好きになってもらって、フレドリクと決闘をすること。これに必要なことは、ルイーゼが二股していないといけないから、四股している状態では手詰まり感はある。
(聖女ちゃんの好感度を上げるには、近付かないといけない。しかし口説くと兄貴に筒抜けで怒られる……ジレンマだ~)
現時点のフィリップの好感度は、ルイーゼよりフレドリクのほうがけっこう高い。いつも優しくしてもらっていたから、ルイーゼを無理矢理奪って悲しませることはしたくないのだ。
こうしてフィリップは、何かいい手はないかと考えていたが、そのまま眠ってしまうのであった……
「なあ? あの子、あんなことになってるけど助けないのか??」
休みを1日取ったフィリップがルイーゼを付け回していたら、今日は中庭でルイーゼが水浸しになって笑われる現場に遭遇。それをフィリップが隠れてニヤニヤ見ているものだから、ボエルも気が気でない。
「まだだよ。もっと絶体絶命のピンチの時に登場したほうがカッコイイでしょ?」
「何がカッコイイだ。そんなことを考えている時点でカッコ悪いぞ」
「来た!」
「あん?」
実はこれは、乙女ゲームのイベント。フィリップは助けるよりも、乙女ゲームを楽しむために時間稼ぎしていたのだ。
「あらあら。ルイーゼさん。どうなさりましたの? ずぶ濡れじゃないですの。ま、平民のあなたにはお似合いですわね。オホホホホホ~」
そう。大好きなキャラ、悪役令嬢が嫌味を言いに現れるのをいまかいまかと待っていたのだ。
「うわ~。めっちゃいびってる~。怖いね~?」
「確かに辺境伯令嬢の顔はゾッとするな。あんな顔もできるんだ……」
「ね~? あっ! お兄様も来たよ~」
「うっわ……修羅場だ……」
そこに登場したのが、フレドリクと親友3人。エステルはルイーゼが水浸しなのは冤罪だと主張しているが、フレドリクたちは聞きゃしない。言えば言うほど仲が拗れていっているように見える。
「おい……これはマズイだろ? 辺境伯令嬢の誤解を解いてやれよ」
「なんで~?」
「見てただろ。水を掛けたのは他の生徒だ。それなのにフレドリク殿下は辺境伯令嬢ばっかり責めてるじゃないか」
「案外、エステル嬢が指示を出してたかもしれないよ~?」
「そ、そうなのか? そういえば、そんな噂を聞いたかことがあるかも……いやいや、噂は噂だ。婚約者どうしのケンカなんて見てられねぇよ」
「じゃあ見なきゃいいじゃん」
「止めろと言ってるんだよ!」
「えぇ~!」
こちらはこちらで大揉め。しかしフィリップは助けるという選択肢はないのでゴネまくり。それを見かねたボエルは飛び出そうとしたけど、フィリップに止められてそこから動けず。
そんなことをしていたらエステルが怒りマックスになって、逃げるようにフレドリクたちの前から去って行くのであった。
「どこに入ってるんだよ!」
「クンクン……あぁ~。幸せ~」
「嗅ぐな! 触るな! あん……やめろコラ!!」
フィリップはボエルのロングスカートの中で足に抱きつき、やりたい放題するのであったとさ。




