142 フィリップの一手
ルイーゼと接触した翌日……フィリップが教室に入って席で寝ようとした瞬間に、こんな会話が聞こえて来た。
「昨日、あの平民上がりがビンタされたんだって」
「ざまぁみろよね~」
「「「「「ね~?」」」」」
フィリップはボエルのことが誇張されて噂されているのかと思ったけど、なんだか気になったのでその女子の集団に近付いた。
「ねえねえ。僕も話に入れてもらっていい?」
「「「「「フィリップ殿下!? どうぞどうぞ~」」」」」
今までクラスメートと喋ろうとしなかったフィリップなのだから、驚いた女子は全員立って椅子を勧めたが、フィリップは近くの机の上に座った。
「さっきの話だけど、誰が誰をビンタしたの?」
「えっと……伯爵家のメイドが、ルイーゼという生徒の態度に怒って叩いたみたいです。あ、メイドは悪くないですよ? 身分が違うのに言葉遣いが悪いから正したけど、直そうとしなかったからメイドの手が出たのです!」
「ふ~ん……ちなみにその伯爵家はどうなったかわかる?」
「いえ……昨日の今日ですので……お力になれず申し訳ありません!」
「いいよいいよ。また情報入ったら起こして~」
「は、はい……」
女子はフィリップと喋れてキャーキャー喜びたかったが、「いまから寝るんだ……」と思って微妙な顔になるのであったとさ。
それから授業は寝て過ごし、お昼になったところでフィリップはゆさゆさと体を揺すられた。
「ふぁ~……ごはん?」
「情報入りました!!」
「ふぁ~……なんだっけ??」
「朝、話をしてたことですよ~」
周りの女子は「もう忘れてる!?」とヒソヒソやっていたけど、眠そうなフィリップに朝の話から始めて情報をインプットしていた。
「お兄様が怒っておしまいか……」
「やっぱり手を出しちゃダメですよね~?」
「朝はざまぁみろとか言ってなかった?」
「「「「「いえいえいえいえ」」」」」
第一皇子のフレドリクが怒っているのなら、女子たちは右へ倣え。弟から告げ口される可能性があるから、全員ウソをつく作戦に出たみたいだ。
「まぁいいや。教えてくれてありがとね。お腹すいた~」
フィリップは特に問い詰めずに教室から出て行くと、女子たちは胸を撫で下ろしてこんなことを言っていた。
「「「「「記憶力が悪くてよかった~」」」」」
陰口が大好きな女子たちであったとさ。
そんなことを言われているとフィリップも薄々気付いているけど、ルイーゼのストーキングは再開。廊下を歩いていたルイーゼが女子生徒に肩をぶつけられて、1人でうずくまっているところに近付いた。
「ねえ? どうかしたの??」
「あ、フィリップ君……職員室に運ぶノートが散らばっちゃって……」
「それは見たらわかるよ。誰かにやられたの?」
「いえ……私が注意してなかったのが悪いから……」
「ふ~ん……ボエル。手伝ってあげて」
「はい……」
ルイーゼが困っているのに、フィリップは人任せ。フィリップ的には第二皇子がやることではないからボエルに任せたみたいだけど、ボエルは「そこまで聞いたらお前がやれよ」とか思いながらノートを集めてる。
「ありがと~」
「別にたいしたことしてないから礼はいらないよ」
どう見てもフィリップの手柄じゃないのに奪ったから、ボエルがジト目してる。フィリップはその目を見て、もうビンタはしないのではないかと思って踏み込んでみる。
「それより、今晩ヒマ? 部屋に遊びに行っていい?」
「えっと……男性が女性の部屋に入るのはちょっと……」
「じゃあ、僕の部屋でやる?」
「やるって何を??」
「男と女が同じ部屋にいるんだから、ひとつしかないでしょ~? ノート拾うの手伝ったんだから、断らないよね~??」
「それはメイドの方がやられたのでは……」
フィリップがエロイ顔でルイーゼを口説いていたら、ボエルに服を引っ張られて壁まで連れて行かれた。
「おい……何してんだ?」
「見ての通り、口説いてるんだけど……」
「こんなところでするな! 人の目があるだろ!!」
「大声でそんなこと言われると、僕も困るんだけど……」
「あ……申し訳ありませんでした!!」
周りに目があるのに、ボエルはいつもの口調で怒鳴ってしまったので深々と謝罪。その行動でフィリップはボエルが通常運転に戻ったと確信して、ルイーゼに近付いた。
「ま、さっきのこと、考えておいてよ。まったね~」
ここでフィリップは撤退。コソコソとやってる生徒たちを無視して帰って行くのであった。
ルイーゼの心情とボエルの強制力を確認したその日の夜、フィリップが次の行動を考えていたら部屋に来客。
「ルイーゼから変なことを言われたと聞いたのだが、フィリップは何を考えているのかな~?」
その来客とは、フレドリクと親友の3人。フレドリクは笑っているのに恐怖を感じる顔をしていたので、ボエルもフィリップの許可を得ずに入れるしかなかったのだ。
「いや~……こないだチェスが苦手って聞いたから、教えてあげようと思っただけだよ。お兄様が相手だと、誰でも下手に見えるからね。その分、僕ならいい勝負ができるから、自信がつくと思わな~い?」
フィリップもこんなに怒っているフレドリクを見たことないので、大ウソでやり過ごそうとしてる。
「フィリップがチェス? できるのか??」
「ルールぐらいは知ってるよ。エイラとやった時は全勝だったけど、アレは手加減されてたから強くはないよ」
「エイラはかなり上手かったと記憶しているが……それならちょっとやってみないか? フィリップと一緒に遊ぶことが少なかったから気になっていたのだ」
「いいけど……弱いよ? 手加減してね??」
「フフ。どんな手を使うのだろうな~」
意外にもこの大ウソは正解。フレドリクはチェスは好きだけど天才的頭脳を持っているから、対戦相手に困っていたらしい。なのでフィリップはヒーヒー言いながら相手をするのであった……
「やるじゃないか! そんな手、誰も思いつかないぞ!!」
「いや、素人だからだよ。なんだかんだで全敗だし……」
「いやいや。私とここまで勝負できる者はいないぞ~? もう一回だ!」
「もう帰ってよ~~~」
フィリップは奇を衒った手しか使わないので、フレドリクに気に入られた模様。この日は何度も負かされて、夜が更けて行くのであったとさ。




