136 悪役令嬢とお茶会
日曜日……王族っぽい衣装を身に纏ったフィリップはボエルを引き連れて、女子寮の3階を歩いていた。そしてとある部屋の前で止まると、フィリップは服装や髪の毛を整えてから、ボエルにノックをさせた。
「フィリップ殿下、お待ちしておりました」
ドアを開けたのは綺麗なメイド。この部屋には高貴な者が滞在しているので、本人が対応するわけがない。
そのメイドに中に通されたフィリップは、ドキドキしながら奥へと進む。
「フィリップ殿下。ご足労お掛けして申し訳ありませんわ」
そこで頭を下げて待ち構えていたのは、金髪ドリルヘアーで目付きが鋭いドレス姿の美しい女性。乙女ゲームで悪評高い、エステル・ダンマーク辺境伯令嬢。フィリップの大好きなキャラだ。
(うお~。巨乳になってるぅぅ! ゲームそのままの悪役令嬢だ~。幼い頃もよかったけど、やっぱり悪役令嬢はこうでないと~)
なので、目をキラキラさせて舐めるように見てしまった。
「殿下? わたくしの顔に……全身に何か付いてまして?」
「い、いや。なんでもない。えっと……僕って何しに来たんだっけ??」
「……お茶会ですわよ。バルコニーに準備させていますわ。そちらに移動しましょう」
微妙に記憶がトンだフィリップのことを、エステルは「大丈夫ですの?」とは思ったけど、口には出さずにバルコニーに案内した。
そこでお互いのメイドが2人にお茶やお菓子を用意したら、後ろに下がって行った。
「改めまして、お久し振りですわね」
「うん。久し振り~。最後に会ったのって、お兄様が入学する前だっけ?」
「そうですわね。でも、その時もお声を聞かせてもらえなかったので、嫌われていると思っていましたわ」
「嫌ってないよ~。あの頃は人見知りが酷かっただけなの~」
「そうでしたか。カールスタード学院に通って、殿下もご立派に…なられましたのですわね」
「いま、変な間なかった??」
和気あいあいとしたお茶会は、エステルが失言し掛けたので微妙な空気に。4年振りにあったのに、フィリップの見た目があまり変わっていなかったので立派になったように見えなかったっぽい。
エステルは帝都学院に入学してから急激に成長して160センチ以上あるから、なんなら小さくなったように見えるんだとか。
その空気を変えようと、エステルはお茶やお菓子を勧めてフィリップの機嫌を取っていた。フィリップもまだ本題が来ていないのでエステルに合わせて、ニコニコとお菓子を頬張る。礼儀が悪いとか思われているけど。
そうしてしばらく世間話をしたら、エステルは切り出す。
「殿下にお会いになってほしい人がいるのですが、いまからこちらに呼んでもよろしいでしょうか?」
「う~ん……いいよ~」
「あと、そちらの侍女を下がらせてほしいのですが……」
「あっ! 暗殺的なヤツ??」
「滅相もございませんわ。内容が内容ですので、あまり人に聞かれたくないだけですわ。どうかお願いいたします」
「う~ん……ま、いっか。ボエル、下がって」
「ありがとうございます」
フィリップは即答は避けて、悩んだフリをしてから首を横に振るボエルを追い出した。ボエル的には、どちらかが手を出さないか心配らしい。どちらかというと、フィリップがフレドリクの婚約者に手を出さないかと……
ボエルが部屋の入口で待機したらエステルがメイドに指示を出し、別室に控えていた背の低い女子生徒と膨よかな女子生徒を連れて来た。
「「先日は申し訳ありませんでした!」」
その2人は、フィリップの顔を見るなりいきなり頭を下げた。
「……なんのこと??」
しかし、フィリップは全て理解しているのに知らない演技。そのせいで、2人はポカンとした顔を上げた。
「旧館のトイレのことですわ。殿下がその……使用していると知らずに入ってしまいましたので、謝罪したいと相談を受けたのですわ」
「あ~……この2人だったんだ。はじめまして~」
「「え……声でわかると言ってましたのに……」」
「そうでも言わないと出て行ってくれないでしょ~? あの件も別に気にしてないから、楽にしてくれていいよ」
「「はい……」」
わざわざエステルまで使って謝罪しに来たのに、フィリップが軽すぎるので2人は気が抜けたような納得のいかないような顔で椅子に座るのであった。
「こちらは私の親友の……」
仕切り直し。エステルが司会をして、2人の同級生を紹介する。
背の低い女子生徒は、イーダ・ノルデンソン男爵令嬢。意地悪そうな顔をしているが、まったくブサイクに見えない。膨よかな女子生徒は、マルタ・バーリマン男爵令嬢。この世界では珍しく太っているが、愛らしい顔をしている。
フィリップは自己紹介を聞いている間、舐めるように2人を見てる。乙女ゲームでは悪役令嬢の取り巻きとして活躍していたから、会えて嬉しいみたいだ。
「それでなのですが……殿下、聞いていますか?」
「あ、うん……なんだっけ?」
「まだ話してませんわ」
フィリップがあまりにも心ここに在らずだったので、エステルはこちらに引き戻してから話を進める。
「どうも2人が、フレドリク殿下に嘘を言ってしまいまして……このままでは罰せられる可能性もありますので、殿下に少し協力していただきたいのですわ」
「嘘ぐらいでお兄様が怒るとは思わないけどね~……ちなみに嘘の内容は?」
「旧館に行っていないと虚偽の報告をしたのですわ」
「なるほどね~。聖女ちゃんをイジメてたのをなかったことにしたいんだ~……」
フィリップが意地悪な顔をするので、エステルたちに緊張が走った。
「てか、元々お兄様には旧館に行ってないって言ったから、チクるつもりもないよ。命拾いしたね~。アハハハ」
フィリップが笑うと3人はホッとしたようだ。
「それはとてもありがたい申し出ですわ。ですが、どうしてそのような嘘をついたのですの?」
「あの日、僕は午前の授業を全部サボってたからだよ。調べられたらヤバイじゃん? 怒られたくないし~」
「はあ……でも……なんでもありませんわ」
エステルは「授業をサボるな」と喉まで出かかったが、なんとか飲み込んだ。謝罪や協力を求めていたから言えないみたいだ。
「てことは~……もう言いたいことは終わり?」
「……ですわね。あっ、もしよろしければですが、これからもわたくしに協力してくれたらありがたいのですが」
「面倒事は、パース。僕を巻き込まないで」
「大それたことを願い、申し訳ありませんでしたわ」
「そんなに謝らなくていいよ。何と戦っているかはわからないけど、頑張ってね~」
フィリップが立ち上がると、エステルから順に立ち上がって頭を下げる。
「本日はお時間をいただき、ありがとうございました」
「「ありがとうございました!」」
「いいっていいって」
その中を、フィリップは振り向きもせずに手を振りながら去って行くのであった……




