126 大喧嘩
新メイドのヴィクトリア・フリューリング侯爵令嬢がやって来た初日……
「ごはん! 晩ごはんは!?」
「んん~……」
フィリップが寝ているからとヴィクトリアまでベッドで寝ていたので、もう夕方。フィリップが焦って起こしているのに、ヴィクトリアはまだ頭が回っていない。
「晩ごはん??」
「僕はお腹すいたの!」
「あぁ~……食堂で出るとかどうとか……私もお腹すいたな~」
「行くよ! 来ないなら置いてくよ!!」
「うるさいわね~」
フィリップがギャーギャー言って、やっと重い腰を上げたヴィクトリア。普通メイドは主人の後ろを歩くモノだが、フィリップの前を優雅に歩いてる。
それでもフィリップは何も言わずについて歩き、皇族専用の食堂に入ったら、ヴィクトリアが先に椅子に座った。
「何してんの?」
「え? 食事が出て来るの待ってるんだけど」
「お前が持って来るんだよ! そこ、僕の席! 1個しかないの見てわからないの!?」
そう。長いテーブルなのに椅子なんて1個しかないのは皇族専用だから。それなのにヴィクトリアは立とうとしない。
「えぇ~……私はどこで食べたらいいの?」
「知らないよ! メイドがここで食べるところ見たことないよ!!」
「じゃあ、私が初めて??」
「持って来いよ!!」
「えぇ~~~」
フィリップが怒鳴りまくってようやくヴィクトリアは立ち上がったけど、どこに取りに行っていいかわからないとのこと。なのでフィリップが案内して調理場に入った。
「僕のごはんってどこにあるの?」
「へ? フィリップ殿下がなんでこんなところに……」
「いま、こいつにイロイロ教えてるところ」
「こいつとは??」
「いない!? ……いない!?」
コックさんに後ろを指差して紹介しようとしたけど、ヴィクトリアはついて来ていなかったのでフィリップは二度ビックリだ。
「チッ……もういいや。お前でいいから、僕のごはん持って来て」
「あの……食べると聞いていなかったので、何もご用意していなかったのですが……」
「へ? ごはんって予約制??」
「はい。お昼も何も言って来なかったから心配していたのですが……」
「あの女!?」
さすがのフィリップもブチギレて食堂に向かったが、途中で戻って来た。
「賄いでいいから食べさせて。無かったらパンと飲み物だけでいいから!」
「はあ……」
二度手間は避けたみたい。フィリップは注文だけしたら、走って食堂に戻るのであった。
「おい……誰の席に座ってんだよ」
食堂では、ヴィクトリアがテーブルに突っ伏していたのでフィリップも怒りマックスだ。
「ん~? ごはんは~??」
「あるか! 僕のごはんもないんだよ!!」
「なんで??」
「お前が予約してないからだ! どうすんだよ!!」
「パパになんとかしてもらう??」
「うが~~~!!」
暖簾に腕押し。フィリップが怒っていても通じない。
「なんなのお前? ここに何しに来たの??」
「フレドリク殿下に見初められにかな?」
「お兄様はないよ。お前なんか見向きもされない。18歳だっけ? 行き遅れたの? それとも他の家から追い出されたの? そんな女にお兄様がなびくと思ってるなんて、頭ん中はお花畑ですか~??」
怒っても通じないなら嫌味連発。フィリップは精神攻撃を仕掛けた。
「ふっ……ざけんじゃないわよ! あんたなんて馬鹿で病弱の出来損ないじゃない!!」
これが効いた。ヴィクトリアは顔を真っ赤にして反論した。
「そうで~す。だからなに? それでも僕は皇族だ。お前が通せないワガママでも、僕ならなんでも通せるんだよ。侯爵家? そんなちゃちな血でよく僕に噛み付けるね」
「はあ? 嫡男でもないのになに言ってんの。みんなあんたなんて相手にしてないのよ。パパの力がないと皇家なんて何もできないクセに」
「あ~! 言っちゃいけないこと言った~! 僕のことは何を言っても許されるってわけじゃないけど、いまのセリフは侯爵の責任問題に問われるよ~?」
「パパの力でいくらでも揉み消してみせますぅぅ」
「明日、侯爵を呼び出して説教しますぅぅ」
「「フンッ!!」」
最後は子供みたいなケンカ。フィリップにパンを届けに来たコックさんはそのやり取りを見て、ヴィクトリアが死んだと思ったそうだ……
フィリップが苛立ちながら食堂を出ると、コックさんがパンを持って壁と同化していたので、パンを鷲掴みにして去って行った。コックさんは関わり合いになりたくなかったみたい。
その足でメイド長のアガータがいる場所に怒鳴り込んだフィリップ。斯く斯く云々と説明したら、アガータも真っ青になって土下座していた。
「フンッ……これでもうアイツも終わりだ。イベントなんて、もうしらねぇ。キャロちゃんとこいこいこ」
そして鬱憤を晴らして、心地よく眠るフィリップであった……
「はい? なんであんなヤツ、クビにできないの!?」
翌日、朝から皇帝に呼び出されたのでアガータと一緒に顔を出したら、あそこまで酷い仕打ちをされたのに何故かフィリップの意見は通らなかった。
「先に言っただろう。教育しろと」
「いやいや、基礎の基礎から知らないんだよ? どう教育しろと言うの? 僕、ごはんすら食べさせてもらえなかったんだよ??」
「それはフィリップが、体調が悪いからいらないと言ったとメイドは証言している。料理長もそう聞いたと証言しているぞ」
「はあ? 調理場にいた人は聞いてないって僕に言ったよ? 僕が嘘をついているとでも??」
「証言だけならそうなるな。メイドも犯され掛けたと泣いていたぞ」
「はあ~~~!?」
その上、冤罪まで掛けられる始末。
「アイツ、先に手を回したな……」
そう。ヴィクトリアは夜中の内から動いていた。正確には父親に「第二皇子とケンカしちゃった」と、てへぺろしたから焦った父親がありとあらゆるツテと金を使って、事実を握り潰した上にフィリップが不利になる噂を流しまくったのだ。
「向こうも穏便に済ませたいらしいから、もう少し様子を見てやれ」
「無理だよ~。せめてもう1人つけてくれないと、ごはんも食べられないよ~」
「考えておく」
「なんで!?」
ここでタイムアップ。結局フィリップの言い分はひとつも通らず、追い出されてしまうのであった。
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