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素敵な青春の1ページを作ることに専念したかった  作者: 中川円茄


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8/8

Act8.和臣様が求めていたのは結局私だったようです……

「すまない、色々処理していたら遅くなってしまった。」


翌日朝、和臣様は私の家まで来てくれた。私の婚約破棄の手続きとかの処理で忙しかったらしい。でも、私との婚約破棄については、父と兄はすんなり快諾して面倒な処理はない気がするのだけれど、きっと御堂家での処理があったのだろう。


「いいえ。私から出向かなければならないところを、申し訳ございません。」


「腕に傷跡が残るって。

今の整形技術なら、綺麗に元通りになるって言われたけど、必要ないから断ったんだ。

だって、せっかく美月が私を愛してくれている証を残してくれたのに、消すなんてもったいないから。」


愛してくれてる証?

消すなんてもったいない?


それじゃあ、まるで、私に傷つけられたことがうれしいみたいじゃない…


「もっと深く傷を付ければ良かった。浮気は死んでも治らないかもしれませんが。」


「浮気なんてしてないよ?

まあ、ちょっとした不可抗力でキスはしちゃったけど、唇が触れただけなんてキスにも入らないだろ?

正直、気持ち悪いだけだったし……やっぱり美月以外は受け付けないみたい。」


「ふざけないで!」


私ははじめて和臣様に怒りという感情をぶつけた。馬鹿にされている気がして、許せない気持ちになった。

私は和臣様を睨んでいるのに、なぜかうれしそうに微笑んでいて、そんな態度も私の怒りを煽るものでしかなく、私は口から出る罵倒を止めることが出来なくなってしまった。


「馬鹿にするのもいい加減にして!

唇に触れるだけだと、キスにも入らない?

私にとったら、舌が入ろうが入らまいが同じよ!

クリスマスイブだって、私じゃなくてあの女のと過ごしたくせに!

腕を傷つけたのは謝るから、今後私の許可なく私に触れないで!」


もう、関係が壊れたってどうでもいい。

というか、壊すために昨日和臣様を傷つけたんだから。


「美月が欲しい」


「嫌よ!

そのかわり他の女としても文句は言わないから。御自由にどうぞ。

でも、次はもうお父様とお兄様に相談するからそのつもりで。」


「次なんてないよ、あんな不快を我慢したのは美月がちゃんと私のことを素直に愛してくれないせいだよ?

お願いだから、美月からキスして。」


私は和臣様に近づいてキスする振りをして、首に噛み付いて噛み跡をつけた。


でも、和臣様から離れようとした隙に腕を掴まれて無理やりキスをされた。舌を絡められないように逃げるが、容赦なく絡めとられてしまう。

噛んでやろうかと思ったが、血の味が嫌いなので仕方なく好きにさせておくが、終わりが見えないくらいの長いキスに疲れてしまう。

やっと唇は解放されても、和臣様は私を抱きしめたまま放そうとしない。


腹がたって怪我している腕を掴んで見るが、少し痛そうな顔をしただけでどちらかというと喜んでいるような顔に見えた。


「この傷跡を美月に舐めて貰いたい。早く包帯が取れたらいいのに……」


わかっていながら和臣様を傷つけた私もかなりおかしいと思うが、私が好きな和臣様はもっとおかしいらしい。


「次に他の女と仲良くしたら、また傷を増やすから。」


「そんな誘惑をされると、また美月を嫉妬させてみたくなるな……」


「次は婚約解消だって忘れたの?」


わかってるからもうしない、とつぶやきながら和臣様は私に擦り寄るように身体を寄せてきた。

好きになった弱みから、私は結局和臣様を受け入れてしまった。こんな面倒な人をなんで好きなのかと聞かれると回答に困ってしまう。

前世から憧れていた人との恋が叶った筈なのに、私はこれらの息苦しい和臣様からの束縛を考えると、どうしてもため息が出てしまう。



それから、私と和臣様の関係は少しだけかわった。和臣様の前ではいつも遠慮した態度をとっていたが、嫌われたいくらいの気持ちに変化したため、遠慮はせず何に対してもハッキリ告げるようにした。

でもそのせいで琴梨からの情報だと、どうやら私は和臣様にワガママを言う悪い女という設定になったらしい。

ワガママを言っているのは、それをすると和臣様が喜ぶからなのに……世間体と和臣様を喜ばせることの両立は、またそのうち考えようと心に誓った。








☆☆☆side和臣☆☆☆


編入生を家まで送って、適当に甘いことを言って別れると、そのまま念のため病院にいった。どうしたのかと聞かれたが、事故だと言って処置してもらった。

跡が残るから完治後のレーザー処置を勧められたが、考えておくとだけ答えておいた。


傷跡が残るのが嬉しいというのを、他人に理解できるわけがない。


病院から戻るとそのまま疲れて眠ってしまった。

翌朝目覚めてスマートフォンを確認すると編入生からメールが入っていたが、もう彼女に果たして欲しい役割は終わったので、無視した。


美月の家に行くと、美月は怒っていた。いつも激しい感情など表さない美月が、怒りを剥き出しにしてこちらを睨んでいるだけで、嬉しくなってしまう。

美月はあの編入生のことを浮気だと言うが、美月が全然本心を晒してくれないから、こんなことをわざわざしているのに……


昨日、我慢して編入生に付き合ったこともあって、美月が欲しくてたまらない私は美月にキスして欲しいと頼むが断られてしまう。それでも再度お願いをして美月が近づいてくると、美月は唇ではなく首筋に噛み付いてきた。昨晩とは違う緩やかな痛みが逆に興奮を煽ってくる。

離れようとする美月の腕をとって、強引にキスをした。美月の甘い味から離れるのが嫌で、拒否を示す彼女の抵抗も無視して舌を強引に貪った。

キスをした後も何かが不足して渇きが収まらないため、美月を抱きしめて彼女のぬくもりで自分の心を癒やした。

美月は嫌がらせのつもりなのだろう、私の傷ついた腕を掴んできたが、自分にとっては大した傷でもなかったので、この痛みが美月と深いつながを持てた証のような気がして嬉しくなる。


「この傷跡を美月に舐めて貰いたい。早く包帯が取れたらいいのに……」


本心を述べたのに、美月はそれが気に入らないのか、また眉間に皺を寄せた。


「次に他の女と仲良くしたら、また傷を増やすから。」


彼女から告げられた嫉妬を表す言葉に私は舞い上がってしまう。またしたいと告げると婚約解消だと告げられてしまったので、仕方なく諦めることにした。

今まで見られなかった美月の素直な感情に触れて堪えられなくなり、美月をそのまま押し倒してしまった。



それから私と美月の関係は少し変わった。

それまで素直に私の言うことを聞いていた美月だったが、今でははっきりと感情を表すようになったし、何より美月にワガママなお願いをされるのが堪らなく幸せだった。

そんな様子に美月を悪役に仕立てる動きがあるのを察知したが、放っておくことに決める。美月が嫌われれば嫌われるほど、私が美月を独占できるので、今度は美月が周りから嫌われる方法を考えることに決めた。

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