第80話 不愉快な制覇者
第五階層。
これまでの階層とは根本的に雰囲気が異なる。
弱者は瞬く間に消滅し、強者しか生き残れない————まさに生存競争の極致と呼べる場所。
濃密な闇と重圧が空間を支配し、足を踏み入れた瞬間から、生命の危うさを肌で感じさせる。
岩肌は鋭利な結晶に覆われ、床には何かの動物の骨片が無造作に散らばっている。
まるで、この場所が生命の墓場であることを容赦なく告げているかのようだった。
その場所に最初に到達したのは、やはり生徒序列トップチーム。
『ロード・オブ・ウィザード』————アイスクラッド・アストラ。
四大魔女、アストラ家の次期当主————セラフィリア・アストラ。
そして、第三位のサルヴァートールだった。
相対するは————
『グオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!』
ダンジョンの最終ボス『クリスタル・ドラゴン』
白銀の魔竜は、地下深くに沈む濃密なマナをその巨体に纏い、鋭利な結晶が不規則に生え、まるで生命そのものを拒絶するかのような存在だった。
あらゆる試練を乗り越えてきた魔法使い達を阻む、最後にして最大の壁。
『アセンダント・ブラスト』
サルヴァトールが渾身の魔法を放つ。
蛇のように蠢く緑色の炎が放たれ、ボスモンスターへと飛来した。
「……ちっ」
サルヴァトールが舌打ちした。
手応えが無さすぎる。
ダメージを与えられていないのが、結果を見ずとも既に分かっていた。
その予想通り、魔法は敵の表面でかすかに揺らめくだけで、『クリスタル・ドラゴン』の結晶の肌には一切の変化も見られない。
上手くいかないことに苛立ちを隠せなかった。
その時、伝説の魔女、セラフィリア・アストラが一歩前に踏み出す。
彼女はサルヴァトールの方を一瞥し、フンと鼻を鳴らした。
そして、セラフィリアは一瞬で魔力を増幅させる。
『レディアント・ブラスト』
セラフィリアの放つ魔法は、まるで世界を引き裂くかのような圧倒的な魔力。
空間そのものが歪み、モンスターの巨体が耐えられない衝撃に晒される。
一瞬にして、白銀の巨体は内部から破壊され、結晶が飛散し、爆散した。
セラフィリアは、このモンスターを一撃で倒してしまったのだ。
「ブラボー、さすがセリー」
『ロード・オブ・ウィザード』————アイスクラッドが賞賛の声を上げる。
不愉快だ。
私はまだ、この女の足元にも及ばないというのか。
すると、アイスクラッドが爽やかな表情でサルヴァトールの肩を叩いてきた。
「助かったよセリー、それから————サルヴァトール君」
「……」
アイスクラッドについでのように礼を言われる。
自分の顔が無意識に歪み、爪は手のひらに深く食い込んでいた。
アイスクラッドはそのまま、ダンジョンボスの後ろにある扉を開く。
すると、試験官の先生達が拍手をして出迎えた。
「見事だ。さすが、我が校の首席じゃないか!」
「ありがとうございます」
アイスクラッドは丁寧に会釈し、先生達の拍手に応える。
セラフィリア・アストラも涼しい顔をしていた。
サルヴァトールは一人、爪を噛む。
なぜ私がこのような思いをしなければならない。
ダンジョン攻略はほぼ私と、セラフィリア・アストラがやっていた。
この男は後ろからついてきただけだ。
何が試験だ。実力など全く測れていないではないか。
このふざけた男を今すぐにでも一位の座から引き摺り下ろしたいが、第二位のセラフィリア・アストラが邪魔すぎる。
どうしてこの男が首席なのだ。
サルヴァトールはジレンマに陥っていた。
————今回は三位の座はとりあえず守れた。だが、これで終わりではない。
今にそのスカした顔を潰してやる。
準備を進めて、いつか確実に『ロード・オブ・ウィザード』の座を奪い取ってやる。
サルヴァトールのプライドは、燃えに燃え上がっていた。
そして、三人がゴールしてから随分と時間が経つ。
スタート地点の試験官から特に連絡がないため、まだ攻略中のパーティがいるということだ。
「次は、誰が来ると思うかね?」
「どうじゃろうか……今回のダンジョン攻略は少し難しいからのう」
確かに今回の試験は少し難しい。
ダンジョンボスはランダムで生み出されるわけだが、今回のボスはレベルが高い方だ。
道中の敵も魔法耐性がついているものもいて、生半可な魔力の攻撃では突破できない。
もしかするとAクラスの連中でも、全攻略は厳しいかもしれない。
だからこそ、序列トップ層としての箔がつくというものだ。
ダンジョン攻略に成功したのが、この三人のみという優越感に浸り、機嫌が良くなる。
その時、先生がアイスクラッドにも話を振った。
「アストラ君————君は次に誰がくると思うかね。順当に行けば、Aクラスの学友だとは思うが……」
先生の質問に、アイスクラッドは少し考えてから返答する。
その時、微かな笑みを浮かべていたのが、やけにサルヴァトールの目についた。
「そうですね……案外————意外な奴かもしれませんよ」
すると————
ダンジョンの最終地点の扉が、ゆっくりと音を立てて開き始めた。
おおお、と先生達から歓声が上がる。
扉を開き、ダンジョン攻略を果たしたのは、AクラスでもBクラスでもない————Cクラスの生徒だった。
「……は?」
サルヴァトールは、目の前の状況が理解不能だった。
誰だこいつらは。
何でこんな無名の奴らが出てくるのだ……?
いや、一人は覚えている。
一番最初に出てきたあの男は、前日の竜のテイムを成功させた生徒だ。
あんなことで調子に乗っていた奴が、ダンジョンを制覇して我々と並ぶだと……?
「す、素晴らしいぞ! ニルヴァータ、君はAクラスに昇格だ!」
先生がダンジョンを制覇したCクラスの生徒に、英雄のような称賛を送る。
その生徒達も笑顔に満ち溢れていた。
不愉快極まりない。
怒りで頭が沸騰しそうだ。
なんであんな下等な奴らが………?
あんな紛い物がボスを倒してきた?
私でも倒せなかったあれを、こんな奴らが倒してきたとでもいうのか?
絶対に認めないぞ。
私を不快にさせる存在は、誰一人として許さない。
サルヴァトールは鬼のような形相をしていた。
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