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第78話 定期試験『ダンジョン攻略』

 新学期が始まって、約二週間が経った。

 二週間が経った今日は、生徒達の力量が試される定期試験の日である。

 新しい環境に少しずつ馴染み始めた頃に行われるこの試験は、休み中の鍛錬の成果を問う重要な機会。

 そして、成績による序列昇格の最初のチャンスでもあった。


 今回の試験のテーマは、『ダンジョン攻略』

 魔法学校『ウィンダム』の裏手に広がる、全五階層からなる小規模ダンジョン。

 この土地の潤沢なマナの影響で、ダンジョン内はほぼ無制限にモンスターが出現する。


 それを有効活用し、生徒達の腕試しとして、ダンジョン攻略が実施されるのだ。

 生徒達の実践的な戦闘能力と適応力を試される。

 より下層へと潜行できるほど高評価となるこの試験は、まさに実力主義を体現するこの学校ならではの教育方針を象徴していた。


「————くっそ、かったりぃな……こんなジメジメとしたところに連れてこられてよぉ!」


 ダンジョンの内部は、地下特有の薄暗さに包まれていた。

 僅かな道標となるのは、青白く輝く魔石灯のみ。

 湿った土の匂いと、遠くで響く不気味な足音が、緊張感を高めていく。


 ショーイが相変わらずの不満を垂れながら、魔法で低級モンスターを倒していく。

 いくら低級モンスターでも、素手では倒せない。

 必ず魔法を使って、魔力を消費するので、その分スタミナが削られる。


 それをエリナの補助魔法がサポートしていた。

 ショーイを前衛、エリナを後衛、そしてフェンを遊撃・火力担当とする、バランスの取れた三人パーティだった。


「どうしたのフェン、なんか元気ない?」


「……いや、なんでも」


 エリナに声をかけられるが、フェンは空返事で返す。


 フェンは、試験中も別のことで頭を悩ませていた。

 もう魔法煙草が残り少ないのだ。

 あの商人にサービスで貰ったものも、残りたったの三本となってしまった。


 劣化品を売って、商人に利益を還元しなければ、これ以上新しい魔法煙草を得ることはできない。

 しかし、魔法煙草が売れる目処も全く立っていなかった。


 これからどうすべきなのか、フェンの頭の中で不安が渦を巻いていた。


『ファイア・ボール』


 呟くように魔法を詠唱し、目の前の低級モンスターを瞬時に焼き尽くす。

 黒く炭化した獣の残骸を眺めながら、ふと思った。


 もう僕の実力は、魔法煙草を使わなくても十分強いのでは?

 先日の竜のテイム演習でも、結局成功したのは、『ロード・オブ・ウィザード』とフェンだけだった。


 あれからも魔法煙草は欠かさず吸い続けている。

 フェンの実力は、魔法学校のトップに匹敵するくらいまで強化されているのではないか。


 一応、10分の1の効果と言われている劣化品は10箱ある。

 これを服用していけば、それだけで十分なのでは……?


 そんな思考に耽溺していたせいか、フェンは背後に潜むモンスターの気配に気づくことができなかった。


「シュラアアアアッ!」


 突如の鋭い鳴声とともに、巨大な蟻型モンスター、デビルアントが襲来する。

 触覚を震わせ、威圧的な姿勢で周囲を威嚇するモンスターは、ぼんやりと立ち尽くすフェンめがけて、鋭い牙を容赦なく突き立てようと迫った。


「!?」


 突然の攻撃に回避が間に合わない。

 攻撃を喰らいそうになる直前、ショーイが割って入った。

 モンスターの鋭い爪がショーイの上腕部分を傷つけ、鮮血が辺りに飛び散る。


「————いって……! 何ぼうっとしてんだフェン!」


 ショーイはそう言いながらモンスターを跳ね返すも、少なくないダメージに膝をついた。

 エリナが即座に回復魔法を発動し、ショーイの傷を癒す。


「フェン! 時間を稼いで!」


「……分かった」


 フェンはデビルアントに向き合う。

 どうやら、この階層で最も強いモンスターのようだった。


 フェンは杖を強く握りしめ、魔法を放つ。


『ファイア・ブラスト』


 中級の炎魔法が放たれ、モンスターに命中する。

 しかし、致命的なダメージにはなっていない。

 焦りが、わずかに表情に滲み出す。


 くそ……これじゃ倒せないのか。


 モンスターは再び牙を剥き、こちらに襲いかかってきた。


「うおおおおおおおっ!!」


 フェンは魔力を全開放し、再度魔法を放つ。

 渦巻く獄炎がデビルアントを完全に包囲し、その固い甲殻を焼き尽くした。

 モンスターの苦悶の叫びが炎に呑まれていき、一瞬にして消え去る。


「はあ……はあ……!」


 なんとか倒せたか……

 全開放した魔力の反動で、フェンは膝に手をつき、呼吸を荒くする。

 すぐに動ける状態ではなくなっていた。


 傷の治療が終わったのか、ショーイがこちらに駆け寄ってきて、肩を叩く。


「ナイス……これで二階層も終わりだし、もう帰ろうぜ————俺達にしちゃ頑張った方だろ」


「……」


 そう言いながら、ショーイとエリナは先に進んでいく。


 これで、本当にいいのか……?

 疑問を抱きながらも、パーティとしてこれ以上の戦闘が厳しいことは目に見えていた。


 このままリタイアするのは仕方のないことなのか……

 二階層を制覇したことで、少しでも序列が上がってくれるといいのだが。


 不安を抱えつつもフェンが先に進んでいくと、転移門が見えてきた。

 ダンジョン内における生徒達のセーフスポットであり、これでダンジョンのスタート地点に戻れる。

 その奥には、さらに深い第三階層へと続く薄暗い階段が控えていた。


「おう、ショーイ達じゃねえか」


 転移門の脇で、Cクラスのクラスメイトが手を振って近寄ってくる。

 疲れた表情と諦めに近い雰囲気が、彼らの今回の試験での苦戦を物語っていた。


「よお、お前達もリタイアか?」


「まあ、こんなもんだろ。ここから先は危険度が跳ね上がるし、怪我したくない」


 ショーイとクラスメイトが会話を交わす。

 すると、クラスメイトが顔を(しか)めながら言った。


「そういえば、さっきすれ違った奴らが言ってたけどな————あの『ロード・オブ・ウィザード』のパーティはもう五階層まで行って、ダンジョン制覇しちゃったらしいぜ? 全く、優等生は違うよなぁ……」


 クラスメイト達は肩を竦める。

 なんだって……

 あ、あいつがもうダンジョンを制覇しただって……?


 クラスメイト達は、「じゃあな」と言って、転移門で転移していった。


「じゃあ、俺達も行こうぜ————どうしたフェン?」


 フェンは葛藤し、焦燥感に駆られる。


『ロード・オブ・ウィザード』は明らかに魔法煙草を使ってズルをしている。

 そして今回も、その不正な力で好成績を目指し、自らの学内地位を盤石にしようとしているのだ。


 負けたくない。

 魔法煙草を使っているあいつに負けるのは嫌だ。


 抑えきれない怒りと対抗心のまま、フェンは口を開いた。



「————最後の階層まで行くぞ!」



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